第138話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅷ ~異世界成分無添加Vr.~②
同日昼。ガンジス島の西南西方面、からこ市の市街。
「あ、ごちそう様。暖斗くん」
「いえいえ。みんなにこの際、何かお礼がしたかったからさ」
「男気~~!」
某大手ファミリーレストラン、のドリンクバー付近。
「まさかのまさか。男子に食後のスイーツ奢ってもらうなんて。紘国女子としてはうれしい限りです」
「あ、浜さんは?」
「あの子? 中でまだ食べてる」
「そっか」
ふたりで並ぶ、咲見さんと、桃山さん。
「紅葉ヶ丘さんも来れば良かったのに」
「そうするとラポルトの留守番がね。『澪のことは気にしないで』って渚さんが繰り返してた。あの子にはお土産でも」
「またまた男気~。あ、その渚さん、さっき子恋さんとどっか出てったよ? どうしたのかな?」
「なんだろ? まあ僕が強引に、みんなに何か奢りたいって言ったからね。ホントは他の店に行きたかったとしたら、悪いことしたかも」
「そんなことないよ。でも、ここって飲食店ばっかだね」
「からこは基地の街だからかな~。軍営住宅多かった」
「道々に見たあのコンクリの四角いの、全部そうだったからねえ。ホントに基地の街なんだね」
「そういえば。暖斗くんとの『相性が良い』で選ばれてる私だけど。結局部隊別れちゃったね」
「そうだね。今んとこゲーセンの模擬戦闘だけで、実戦じゃあほとんど連携してない、か」
「模擬戦闘だとイイ感じだけど」
「まあ、僕はひめちゃんとペア組んじゃってるしね」
「姫の沢さんか~。データ上の相性診断より、昔からのお付きあいのほうがやっぱり、ってとこかな? で、その、姫の沢さん、なんだけど?」
「ひめちゃんが? ‥‥何?」
「あ、暖斗くん。あの。この際訊いちゃっていい? 姫の沢さんってさ、暖斗くんの、‥‥その‥‥‥‥‥‥カノジョ?」
「ん、違うよ。一応」
「あれれ? 違うって割に、意外と動揺しないんだね?」
「ああうん。麻妃からさんざん揶揄われたし。『そういう質問来るゼ☆ 心の準備しとけよ新兵』って言われてるから。もう」
「ゼッタイ岸尾さん言ってそう。あははは」
「実は僕も、何か不思議なんだ。あんまりその、彼女とか欲しいなんて考えてないんだけどさ。久しぶりにひめちゃんと会って、『昔は仲良かったけどどうかなあ?』からペア組んでいる内になんかこう、隣にいるのが当たり前になってた、っていうか‥‥」
「うむ、うむ。理想的じゃないの(あ、口数少なめ男子が幼馴染みのコトで思わず饒舌になるの、良き♡)」
「そうかなあ。だから、今一番気が合うのはひめちゃんだってのは認めるよ。付き合ってるとか、そういうのはちょっと横に置いといてさ。『ふれあい体験乗艦』中に特定の女子と仲良くなるのがいいのかどうかも微妙だし」
「確かNGだったよね。規約違反(お? 何だかんだで認めるのね? 一番気が合うって)」
「そうそう。なんか難しい言いかたでそんなルールが書いてあった」
「そっか。暖斗くんはちゃんと全体のバランス考えてるのね。大切だと思う。確かに、特定の恋人同士出来て、毎日それ見せられたら、女子的にはちょっとキツいもんね」
「それはまあ、男子もだけど」
「そうだね。あははは」
「でも、あの、やっぱりそう見られちゃうのかなあ。僕とひめちゃん。そういう事情だから、ひめちゃんは僕と仲直りというか、久しぶりに会ってテンション高いと思うんだけど。‥‥もし周りの人が不快に思うなら気を付けるし‥‥もしそうなら、僕が悪いんだ」
「ふふ。暖斗くんらしいね。それこそ『男気~』案件よ?(うん、これは男らしい)」
「え? 何で?」
「えっとね。私たちは岸尾さんからその『特別な事情』って聞いてるから、別に何とも思わないよ。むしろ姫の沢さんを応援する感じ。あの子嫌いな子、たぶんいないし、ルックス圧倒的だからそもそも勝負なんて思わないし。‥‥いちこなんて‥‥戦意喪失して逆に崇拝してるし」
「んん? 特別な? 戦意喪失?」
「いえいえコッチの話。とにかく暖斗くんは、別に周りに気にせず、姫の沢さんとラブラブでも大丈夫、ってことです」
「イヤ! ラブラブとかではっ」
「いいのいいの。暖斗くん男気があって、とってもいい人なのもわかったから。あ~~、実は私も、相性MAXの男の子って聞いて、どんな人か? 気にならないって言ったらウソだったし‥‥」
「え?」
「親友の恋も潰えちゃったしね。」
「え?」
「いえいえ。コッチの話よ。ふふふ」
「‥‥‥‥でも何だろ。‥‥桃山さんと話すのって、ちょっと不思議な感じなんだよな‥‥」
「え?」
「さっき言ったみたいに、ひめちゃんとは気が合うんだ。あと‥‥愛依ともね。でも桃山さんと話す時って、気がついたら自分でもびっくりするくらいに色々喋ってるんだ。あ、聞き上手なのかな?」
「それはまあ、謙遜せずに正直に言えばよく言われるよ」
「やっぱりそっか。僕が特別桃山さんに話しやすいんじゃなくって。桃山さんが誰にでもそうなんだ。‥‥まあ、そっか」
「でも私だって苦手な人いるし、誰とでもペラペラ喋ってるんじゃないけど」
「え~? 苦手な人? いる?」
「あ! 暖斗くん‥‥それちょっとキズついたかも。私だって。誰にでも安っぽく懐いちゃうようなキャラじゃないよ?」
「ごめんごめん。悪い意味に取らないで! ただホント、苦手な人がいるって桃山さんが想像出来ないだけで」
「あ~~。やっぱり『誰とでも仲良しキャラ』って、要は自分の安売りだから『男子と一線を置く神秘的キャラ』には勝てないのよね。負けヒロイン路線か~やっぱ~」
「桃山さんはそんな。勝ち組の陽キャじゃん」
「実は違うのよ。だって‥‥逢初さんとか。『わたし結婚はしません』って言ったほうが男子的には気にならない? あんまり男子に近づかない白衣のJK。暖斗くんだってけっこう逢初さんのほう見てるじゃない?」
「そ、そうかなぁ」
「そうよ? もし姫の沢さんがこの艦に居なかったら、私は暖斗くんは逢初さんと親密になってたと思うわ。戦闘後はどうしても医務室にふたりっきりになるし。‥‥女子から見てもわかる‥‥逢初さんって、どこか儚げでほっとけないのよ」
「‥‥‥‥でもやっぱ、それを言うなら。僕にとっての桃山さんもちょっと特別かな。‥‥あ、いや‥‥特別って言いかたが正しいかはわからないけど‥‥。その‥‥やっぱりこんな話を延々と話せるのはやっぱ‥‥桃山さんだからだと思うし‥‥」
「ふふ」
「ん?」
「‥‥うれしいかも。その言葉は‥‥素直にもらっておくね?」




