第137話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅶ ~異世界成分無添加Vr.~④
「暖斗くん。アマリアとの合同演習、お疲れ様でした」
「うん」
「ゆめさんも、お疲れ様」
「おつかれ~。でもぬっくんへの授乳はやりますっ」
「はい。お願いします」
「って授乳言うなっ!!」
紘和60年 8月23日(金) 早めの夕食後。
とある準々医師と、とある準看護師と、とある赤ちゃん。
プラス、桃山さんと子恋さん。
「で、こっちに移動っと」
「うん。もう主な器材は運んであるから」
「うっわ~。おっきなベッド。さすが艦長さんのお部屋」
「戦艦なのに、ラポルトはそういうトコはしっかり充実してるからね」
「だって、長期作戦仕様だもんね。よくわからないけど」
医務室から、4F艦長室へと移動。
「桃山さんありがとう。パイロット職と兼任で、食事まで手伝ってもらって」
「いえいえ。私はラポルトの掃除大臣だし。みんなで手伝うから安心して」
「うう。ありがとう~」
「子恋さんは艦長なのに、そういえばみんなと同じ2Fだね」
「そりゃそうだよ、うん。だって私はあくまで『艦長役』だし。誰か特別なゲストでないとこの4Fは開けないから」
「そっか」
「この艦長室はね。あの英雄さんにだって開けなかった特別な部屋だからね。でもまあ、マジカルカレントの治癒に関わる事案となれば話は別だよ。‥‥ああ、‥‥金庫とか、艦長室特有の設備があるけど気にしないでね。まあ、あんまりさわんないほうがいいかな」
「「わかりました~」」
「ホントだ。ホントに金庫ある。なんか旅館の貴重品入れるヤツみたいなのが」
「もうちょっと、こっちのほうが豪華でしょ?」
「子恋さんが触らないでって言ってたから、いじらないほうがいいよ」
「どうせ開かないでしょ?」
「実は暖斗くん。その金庫には、紘国の運命を握る超国家機密が入っている」
「あ、まきっち」
「麻妃。そんなワケないだろ? こんな中学生だけで運航する危なっかしい艦に」
「発想が逆だゼ☆ ぬっくん。そういうトコだからこそ、秘密のアイテムを隠しておくのさ」
「なんだよそのアイテムって。そっちのほうが子供の発想じゃんか?」
「ああもうこんな時間。ね? みんな。早速『治験』をしたいんだけど」
「は、はい」
「え~~。まだコイツがいるじゃん?」
「ひひひ。ついにウチが、暖斗くんの授乳シーンを目撃する時が来たか!」
「医務室でもう飲んだよ! あと授乳ヤメロ! マジで!」
「えっそうなん? じゃあいいや。愛依とひめっちとの3Pは見れるんでしょ?」
「なんだよそれ!! 麻妃‥‥!! マジで怒んぞ?」
「ごめん。ごめんて。ぬっくん」
「ごめんっ。じ、実はここにまきっち呼んだの、私なの‥‥」
「ひめちゃん?」
「だって‥‥‥‥こんなの恥ずかしすぎて死んじゃうよ。だからまきっちにも立ち会ってもらおうかなって」
「う。ひめちゃんのキモチはわかるけど、そうすると僕が恥ずかしい」
「だよね。だよね。ごめんなさい」
「あ、あの。みなさん。これは、あくまで。あくまで医療行為なので。変なコト考えだしたら、‥‥‥‥わたしだって恥ずかしい‥‥よ‥‥」
「麻妃。笑いすぎだ」
「ご、ごめんて~~。う~ん、これはやっぱウチは外すよ。あとはまあ三人で、仲良くすれば!? サイナラ~!!」
「「「仲良く‥‥‥‥!!」」」
***
「こほん‥‥1回キモチを整理する意味でも、状況を確認するね‥‥。いい? ゆめさん。暖斗くん」
「‥‥はい」
「わかったよ」
「昨日、暖斗くんのマジカルカレント後遺症が、通常の半分、もしかしたら三分の一の時間で快癒しました。原因はわからないけど‥‥わたしが一晩近くにいたから‥‥かもで」
「うん」
「その状況を再現するため、わたしは再度、暖斗くんと一夜を共にします」
「愛依、言いかた」
「それで、さすがに若い男女が一晩同じベッドにいるのは、色々倫理的に許容できないので、わたしの他に看護師枠のゆめさんにも、同席していただくことになりました」
「うん、しょ、しょ、承知だひょ」
「ひめちゃん、嚙みすぎ」
「だとすると、ひとつのベッドを三人で使うことになります。授乳室のベッドではあまりにも狭すぎるので、この戦艦で一番大きなベッドがある、この艦長室を、臨時の授乳室とすることになりました」
「この特大ベッドが組付けで、動かせなかったんだよね‥‥って? ‥‥部屋の名前っ!」
「暖斗くんがいつものマジカルカレント後遺症候群であれば、動けないので問題も少ないのだけれど。早めに快癒するとしたら? あと、本当にわたしが原因で治癒が早まったのか? 他の女性でも起こりうる事象なのか? 色んな意味で、ゆめさんへの同席を条件に『治験』をしていきたいと思います」
「‥‥あ~。‥‥部屋の名づけの件はあくまでスルーするんだ‥‥」
「じゃ、ゆめさん」
「は、ははは、はひっ!」
「大丈夫だよひめちゃん。僕は今首から下が動けないし。ちょっと気恥ずかしいけど、まあ、愛依のいう通り医療行為だってことで、さ。完全に割り切ろうよ」
「ううう、うん。‥‥‥‥じゃ、お邪魔します」
「わたしが被験者の右腕側、ゆめさんが左側で。麻妃ちゃんが言う『仲良く』は、気にしないで」
「うっはぁ」
「愛依、今のはひめちゃんには逆効果だよ」
「あ、そうでした」
「だって私‥‥私‥‥まきっちみたいにぬっくんの、昔からの幼馴染みじゃないから」
「あ、前に言ってたね。小学校三年生からだって」
「うん、そう。‥‥‥‥だから、こんな風にぬっくんの隣りに寝るのはもちろん‥‥‥‥人生初で」
「そっか。そうだよなあ」
「だから‥‥‥‥だから‥‥はっ‥‥はあっ‥‥んくぅ‥‥」
「ど、どうしたのひめちゃん!?」
「‥‥ぬっ‥‥ぬっ‥‥はっ‥‥はっ‥‥はあっ? ‥‥はぁ!? ‥‥はああ!?」
「これ、過呼吸よっ!?」
「ええぇ!」
「取りあえず何か袋! 口を押えて! ‥‥ゆめさん‥‥ゆっくり呼吸して‥‥」
***
「ごめんなさい」
「ひめちゃんは悪くないよ!」
「‥‥えっと‥‥ごめんなさいね? ‥‥‥‥ゆめさん。わたしが昨日寝落ちしちゃったから。後遺症解決への糸口が見えたのは、奇跡のような僥倖なんだけど」
「うん‥‥いいの‥‥いいの‥‥‥‥大丈夫」
「でも、あまりにも急な、こんなお願いだものね」
「大丈夫。大丈夫。だって‥‥もうひとりの添い寝役は‥‥私以外でも良かったんでしょう‥‥?」
「そうだよ! 僕がお願いしたんだよ。そりゃ消去法的なカンジではあるんだけど。‥‥こういう大切なことは、他の子よりやっぱりひめちゃんかなぁ‥‥って」
「うう‥‥ぬっくんにそう言われたら‥‥もう断れない‥‥‥‥」
「がんばりましょう。ゆめさん。これは『治験』、『治験』なんだから。難しく考えないで。‥‥あと‥‥少しでもいい思い出になれば‥‥ね‥‥?」
「あ、ありがとぉ‥‥‥‥」
「ゆめさん‥‥‥‥」
「愛依さん‥‥‥‥」
「今ここに、互いに手を取り合う女子の、熱い友情が生まれようとしているよ」
「‥‥‥‥なんか、僕の腹の上でだけど」




