第137話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅶ ~異世界成分無添加Vr.~②
ガンジス島の、とある丘陵。
とある、ふたつの影。
「ずい分かかっちゃったね。もう22時だよ」
「でも、カタフニアがいい子で良かったね。ぬっくん」
「まあ、何とか制御できた。能力の一部は使えそうだな。少なくとももう紘国軍の制御から、もう離れたりはしないと思う」
「ミッションコンプリート!」
「遅くまで付きあってくれて悪いね。ひめちゃん」
「ふう」
「DMTから降りちゃって大丈夫?」
「一応大丈夫だよ。ベース・カタフニア近くだし、早速、ほら?」
「あ、この子降りてきてる」
「うん。カタフニアに周囲の警戒を命令してみたんだ。ちゃんとやってくれてるみたいだよ」
「ふふ。ぬっくんの弟みたいだね」
「弟というか舎弟というか、まあ子分だよ。コイツは」
「じゃあよろしくね。カタフニア。私とぬっくんの遅めの夕ご飯が終わるまで、ちゃんと見張っててね?」
「あ、返事が来た。『カシコマリマシタ』だって」
「隔壁操縦席の生存キットにランタンあった」
「ふわぁ。焚火みたいだよ‥‥‥‥あと、ぬっくん。私、お弁当作ってきたんだけど‥‥」
「おお? ラポルトの?」
「ううん。自動調理じゃなくて、私の‥‥‥‥食べる?」
「手料理? すっごい! わざわざ?」
「食堂の厨房ってほら、道具はひと通りあるでしょ? まさか誰も使わないけど。せっかくだから、私がんばってみた」
「ああ~、自動調理だとさ、例えばニンジン焦げたりしないから」
「うん‥‥ごめんなさい。焦がしました」
「いや、それがいいんだよ。人が作った、って感じがさ。そういうの久々だからさ。ありがとう! ひめちゃん!」
「やた! 褒められたっ」
「なんかキャンプの夜みたい。楽しい」
「星もきれいだし」
「ね~~!!」
***
「帰る?」
「そうだね。遅くなっちゃったしね。これから医務室だと、愛依に悪いなぁ」
「ねえ。ぬっくん」
「なに?」
「愛依さんのこと、好き?」
「‥‥急にどうしたの? ひめちゃん?」
「う~んと、そうなのかなぁ、って思って」
「嫌いではないよ。でも正直、恋愛とか言われても‥‥」
「中二だと、もう女の子は恋愛モードだけどね」
「それは感じてるよ。感じてはいるけれど、それ以上どうこうはなぁ。愛依だって、僕のことは単に患者としか思ってないと思うよ」
「でもねぬっくん。私、少し考えてることがあるんだよ。もし上手くいったら、私も、ぬっくんも、愛依さんもみんな幸せになると思う」
「? なんだろ?」
「上手くいくかはわからない。私の単なる願望」
「そっか。でもまあ僕は、みんなが幸せになるのは賛成だよ」
「うん」
***
「そう。上手くいったのね?」
「まあ何とか。おかげでマジカルカレント能力はかなり使ったけどね」
「じゃあ入念に検査したほうがいいかな。データも取りたいし」
「任せるよ~」
「ふふ。お疲れ様。暖斗くん」
紘和60年 8月22日(木) 23:00
とある空中戦艦の、とある授乳室。
とある、ふたつの影。
「あ~あ。またしばらくこの部屋か。自室でゲームやりたかったなあ」
「そんなこと言いながら、ちゃんと任務してる暖斗くんはえらいよ?」
「それなら、こんな夜更けに僕を診察してくれる女医の卵さんも、えらいよ」
「うふふ。そうね。うふふふふ」
「でもさあ。マジカルカレントの回復時間が15時間とか。長すぎない?」
「最初は20時間以上だったんだから、少し改善したよ?」
「それはひめちゃんとの連携だよ。前衛役が敵を引き付けて止めてくれてるから、僕はマジカルカレントを全開にしなくても色々チャージとかできるから」
「じゃあ? もっと連携高めたら、マジカルカレント少なくても大丈夫じゃない?」
「理屈はたぶんそう。‥‥でも流石に限界かな。結局マジカルカレントは使っちゃうわけだし。あ~あ。なんかこう、一発で後遺症が無くなる薬とかできないかなあ」
「それは医療人の領分ね。今すぐは無理でも、いつか誰かが克服するはずよ。それこそエースパイロットがまる一日寝込むのは、どう考えたってよくないもん」
「だよね~。敵にバレたらマズいし」
「医学の進歩を待ちましょう」
「あ、でも逆に」
「逆?」
「うん。例えば‥‥皇帝警護騎士団みたいな人がマジカルカレント能力者でも、もし後遺症が秒で治せるなら、能力使い放題で無双できるじゃん。そうなったら無茶苦茶アツい!」
「ふふ。そういう未来のために、暖斗くん。データの提供をお願いね」
「わかったよ~。まあ僕は艦降りたらもう関係無さそうだけどさ。なるべく協力するよ」
「暖斗くん」
「何?」
「わたしとこうやって、医務室ですごすのは、嫌い?」
「なになに? 急に?」
「ごめんなさい。ふと、思ったの」
「‥‥嫌いじゃないよ。愛依と話すのは楽しいし。色々お世話してくれるし。‥‥ほら‥‥クラスじゃ全然会話無かったじゃん? だから今、こんな狭い部屋にふたりでいるのが何か、すっごく特別で不思議な感じ」
「そうよね。わたしも不思議。男の子とこんなに話すなんて、今までなかったもん」
「そっか。‥‥そういえば今日ひめちゃんが‥‥」
「ん?」
「‥‥‥‥いや、なんでもない」
「彼女と言えば。今日の任務はゆめさんと、ずっと一緒だったのよね?」
「そうだよ」
「何かいいことあった?」
「なんで?」
「何となく。今日の暖斗くん、なんだかいつもより少し落ち着いた感じで、いつもよりとっても優しい目をしてるから」
「そうかなぁ。自覚ない」
「きっと。ゆめさんのお弁当が美味しかったのかな?」
「え? 何でそれを?」
「ふふ‥‥‥‥当たり? だって、この医務室と厨房はつながってるし。ゆめさん、何か厨房で張りきってたもん。だから」
「女子の洞察力と情報の速さ、恐るべし。‥‥異母姉が言ってた通りか」
「うふふっ。‥‥‥‥わたしの大切な患者様ですから、ね。ある程度の変化はわかっちゃう感じかも」
「‥‥‥‥流石は『医療人』ってことか。‥‥でもそれなら、後遺症治す薬を早く頼むよ。僕が自室でゲームやる時間が増えるようにね」
「うん。それはもちろん。でも」
「でも?」
「それはたぶん、わたしじゃない誰かかも。その誰かが、マジカルカレント後遺症候群に著効な物質や治療法を探しあてるはず。今準々医師のわたしにできることは、発症率100パーセントという貴重な患者様の暖斗くん。あなたのデータを集めること」
「それも、愛依の言う『医療人』の心得、か」
「そう。まだ未熟者のわたしはね‥‥」
「‥‥‥‥誰かの踏み台でいいの」
※作者注① まあその、自動調理器を一切使わず(使えず)に、全て人力で調理した、スゴイ猛者がいたんですけどね。
仲谷春さん、って言うんですけど。
※作者注② まさその、暖斗くんの後遺症を、薬じゃなく自分のフェロモンで、添い寝一発で治しちゃうスゴイ猛者がいたんですけどね。
逢初愛依さん、って言う女医の卵さんなんですけど。




