第137話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅶ ~異世界成分無添加Vr.~①
「どうかオリシャさんを、くれぐれも‥‥いえ‥‥やっぱりあの」
「ああ任せてくれ。だがいくら主治医でも、君の同行は認められない。それは、わかってくれるよね?」
「はい‥‥‥‥」
「ネエちゃんそうしょげんなって。いくらオメエが準医師でも、こりゃあ無理筋だ。港を奪還されたツヌの奴らがな、アマリアの民間人狙ってるクセえんだ。ネエちゃんだってヤツラにとっ捕まったら? ひんむかれて兵士のエサだ。そんくらいわかる歳だろが」
「‥‥‥‥準々医師です」
「あぁ?」
「まあまあ。とにかく、責任を全うしようという君の姿勢は立派だけど、今は戦時だと理解して欲しい。端的に言えば、あの妊婦さんがまほろ市民病院に着くまでに万が一がある確率やリスクより、同行した君に万が一がある不利益のほうが高いんだ。君がこの戦艦を離れると、咲見君が稼働できない。そうだろう?」
「‥‥はい‥‥」
「俺らに任せちまいな。この島ならいくらでも裏道知ってるし、俺らが運べば敵も寄ってはこねえ。‥‥それともオメエ。‥‥わざわざ敵に捕まって慰み者にでもなりてぇのか?」
「‥‥いえ‥‥」
「だろ? オメエはあの特能小僧と、医務室で乳繰りあってりゃいいんだよ」
「上長‥‥‥‥‥‥今の発言もアウトです」
紘和60年 8月21日(水) 10:03
妊婦エンジア・オリシャさんを含むアマリアの病人数人。
滝知山氏と日金氏が、まほろ市に移送。
(すまんね。この人、口悪いしセクハラ酷いんだけど、根はそこまで悪い人では無いんだ。上長なりに君を心配してるんだよ。‥‥セクハラ酷いけど、ね?)
「‥‥‥‥わかりました。ありがとうございます。オリシャさんを、どうかよろしく」
「何してんだ? 行くぞ日金」
「すんません上長」
「「日金さ~ん」」
「ああ後輩ちゃんたち。またね。整備頑張ってくれ」
「‥‥‥‥。日金さん。お別れ?」
「あ~師匠。ゆづが黄昏れてま~~す」
「んだと? 私らにそんなヒマね~よ。‥‥だが早速‥‥日金さん直伝の時短テク試すぞ?」
「うい~っす」
「‥‥‥‥。了解」
***
同刻。空中戦艦ラポルトの艦橋。アマリア港上空。
附属中三人娘。
「もう少しツヌの数を減らしたかったな。うん」
「アイツ等アマリア港から、上手いこと撤退しやがったから」
「大分逃がしたわ。でもそれって、ちょっと贅沢な悩みじゃ?」
「もし仮にだけど、アマリア追撃軍をボコボコにして押し返して、あと基地や前線のDMTもボコボコにできたら、多国籍合従軍からツヌは抜けるよ。そしたらかなり変数減るし、後々計算しやすかったのになぁ」
「いくら暖斗くんでも無理だわ。それ」
「一応シミュレートしてみる? 暖斗くんのマジカルカレント能力を光莉ちゃん予想値の最大に設定しても、たぶん無理」
「そうだね、うん。そんなチートなご都合展開、用兵家としては失格の類だ。自省するよ」
「そうよ光莉。しっかりして」
「まあでも暖斗くん。岸尾さんが指摘してるけど、ちょいちょいマジカルカレント異常値が出てるんだよね。ほんの一瞬だけど。‥‥これが‥‥ホンモノだったら‥‥」
「澪。その話はもう終わり。私たちは軍人の卵よ。軍人はどこまでも現実主義者であるべきだわ」
「へ~~~い」
「で、これからどうするの? 光莉?」
「まず運営本部にお伺いを立てようかね。そろそろ敵も動くだろうし」
「じゃあ『ネットが繋がらない状態』を解く?」
「いや、万が一にも情報漏洩は避けたい。その設定はそのままで。私と陽葵が『黒電話』したほうが良いね。まほろ市に行く理由が無くなっちゃったから、他に何か作らないと」
「その時の留守番はお願いね。澪」
「了解~」
「ライドヒ・エルガーゼって男子高生をハシリュー村に運ぶ依頼があったんだけど、うん。キャンセルになっちゃったしね。それ」
「村長さんに頼まれてた例の。帝都に引き返しちゃったのよね。英雄さんがツヌの動きを紘国軍に伝えたから、まほろ市から村への定期便が運休しちゃったし、ハシリューは戦場に近いし」
「じゃあもうそろそろ、ベース・カタフニアに行く?」
「ポイント・カタフニアでしょ?」
「どっちでも同じよ。‥‥‥‥それで」
「その後、からこ市にでも寄ろうか。『一日上陸日を設けた』とかで」
「適当すぎない?」
「でも実際、みんな休養日が必要だ。気を張ってるけど疲労は静かに蓄積している」
「あんたは電脳戦闘室に引きこもってるだけでしょ?」
「からこ市には、あのラーメン屋があるし‥‥」
「澪、いい加減に野菜食べなさいよ」
「でも最終決戦を前に、一回リフレッシュしたいところだね、うん。確かにみんなの疲労は抜いておきたい」
「じゃあ、そうしましょうか。からこ市設置の『黒電話』はえ~と?」
(お兄様‥‥皇帝警護騎士団も。‥‥早めに来てもらったほうがいいかも)
「そういえば」
「何? 澪?」
「あのオッサン、なんでベース・カタフニアに近寄らないんだ? あそこの、本土への連絡要員使えばいいのに」
「ああそれはね、紅葉ヶ丘学生。基地の総司令官が、かつての部下だからだよ。滝知山さんにとってはね」
「な~~る」
***
紘和60年 8月22日(木)午後。紘国軍 軍事物資集積基地、ベース・カタフニア。
「ひめちゃんまで。悪いよ。なんか深夜までかかるかもだし」
「子恋さんに出撃許可貰ってるよ? い~の。私がぬっくんに勝手に付いてくだけ」
「わかったよ。無茶はダメだからね?」
「うん。で、ラポルト並みにおっきいんでしょ? その『カタフニア』って」
「そうらしいね。それで、僕のマジカルカレント能力次第で、支配下に入るかどうか決まるらしい」
「ぬっくんなら大丈夫だよ」
‥‥の付近の紘国軍極秘地点、ポイント・カタフニア
「う~んどうだろう? 正直何回か戦って、自分の能力が引き出せそうな時があった気がするんだけど。何かイマイチ全力が出て無い感が‥‥」
「『旭雷』や『フラッシュブート』ができるだけで、もう既にすごいんですけど? ぬっくんまだ強くなるのかなあ」
「修羅場が足りない気がする‥‥‥‥怒り? とかの感情が。エンジンを、まだ回せる気がするんだ」
「この辺? ポイント・カタフニア。ただの丘陵じゃ‥‥」
「待って! ひめちゃん!!」
「何‥‥‥‥?」
「やっぱそうか‥‥ひめちゃんには聞こえないのか‥‥。今、カタフニアを名乗るヤツが、僕の機体に通信送ってきてる‥‥」
「え~恐‥‥‥‥あっ」
「来たな!!」
「青空が一瞬で夜みたいになった。さすがに巨大だよ。戦艦用火力追加モジュール、自律思考型砲台、カタフニア」
「‥‥僕に‥‥『君のチカラを示してみて。すごかったらその、電力をボクにちょうだい』だって。コイツ子供か? ああ、総電力量だけじゃなくて、瞬間のエネルギー発生量が評価基準みたいだ。まさに。マジカルカレント能力者向けの試練だね」
「大丈夫? イケそう?」
「やってみるよ。ケーブルが降りてきた。これを『コーヌステレスコープ』に接続するのか」
「これ、危ないよ。カタフニアがまた空に上がると、ぬっくんも連れてかれちゃうかもだよ」
「それはなさそう。でも一応頼んどこうかな。そうなったら、ひめちゃんが劔でケーブルを切って。僕はひめちゃんを信じて、マジカルカレントに集中するから」
「わ、わかったよぬっくん。そうなったら、必ず助ける!」
「うん。任せた。‥‥‥‥じゃあ始めようか? カタフニア」




