第136話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅵ ~異世界成分無添加Vr.~①
紘和60年 8月19日(月)午前。 アマリア港奪還作戦。
ツヌ軍とアマリア軍が対峙した地点の、はるか西側。
部隊A。
「成り行きとはいえ、本物のツヌ軍と戦うことになるとは‥‥」
「まあコッチは、陽動と砲撃だけしとけばいいんだけど、ね」
「大丈夫! 前衛は私に任せて!」
「だからひめ、本気出しちゃダメなんだってば‥‥」
「コンギラトから宣戦布告かあ。条約機構軍、って強そうな名前だよね」
「まあウチら紘国は、戦争吹っ掛けられんの慣れてるからなあ」
「でも10年ぶりだよ?」
「前回、何で戦争になったんだっけ?」
「あれだよ麻妃、紘国が重力子エンジン開発して無双しそうだったから。それで」
「コンギラト、東方10国と戦争」
「でもその重力子エンジンがすっごくて、勝っちゃったんでしょ? 今回は大丈夫かな?」
「大丈夫じゃね? ‥‥でもさ、じゃあ何で敵は攻めて来たんだろか?」
「そうだよね。重力子エンジンみたいなすごい発明、最近してないよね?」
「ラポルト?」
「ラポルトは違うっしょ。AI自動運航がスゴイっても、そんな超軍事機密だったら中学生だけで乗せないっしょ?」
「そっか~」
「そうだよね~」
「中学生って言えば、アマリアの武娘候補生ってみんな同年代だったね」
「そうだった。意外だった」
「オーラさんとかニーラさんとか、語尾がみんな『ラ』だった」
「オーラさんなんて居たっけ?」
「さあ。今適当に言った。でもアマリアってそういう感じで名付けるんだね」
「ひめっちだったら『ヒメーラ』か」
「まきっち。それなんか果物の品種みたい」
「品種(笑)」
「名前は憶えてないけどさ。みんな礼儀正しくていい娘だったね」
「ぬっくんはそう感じた? ‥‥‥‥そっか」
「え? 違うの」
「私はちょっと‥‥あ、いい娘ってのはそう思うよ‥‥」
「あ~ひめ。わかる」
「まきっちも? わかるでしょ?」
「何々? 何の話?」
「あ~暖斗くん。アマリアの子ってさ、なんつ~か違和感あんのよ」
「違和感? ほう」
「なんかね、アマリアの子ってもっと活発な感じするんだけど、あの場では大人しくしてた、って感じ」
「猫かぶってんな。あいつら」
「ああ、まきっちは言いかた悪いけど気にしないで。アマリアの子に悪気は無さそう。たぶん女耳村だから男の子の前で取り繕っちゃうんだよ。どうしても」
「ふ~ん。僕は全然わかんなかった」
「あ~暖斗くん。本当に全然気づかないんだ」
「でもまきっち。ぬっくんは悪くないよ! そういうの見透かしてくる男子のほうが私はいや! ぬっくんは、今のまま、そのままでいいんだよ!」
「いや~ひめっち。そんなムキになんなって。‥‥まあでも、確かにそうかもな。色々見透かすヤツよりちょっくら鈍感なくらいのほうが、ウチもウザくないかも」
「そうだよ!」
「しかしまあ、戦闘配置中に、この会話緊張感無さすぎだな」
「余裕だゼ☆」
「さっきのアマリアの武娘見習いの子って、今回参戦してるんだってね」
「えっと一番年長のほうのふたり。確かコーラさんとソーラさん」
「ああ、同学年だって娘だね」
「ニーラさんなんて、やっぱいないじゃんか」
「うるさいな麻妃。適当に言っただけだよ」
「武娘かぁ。本土じゃああんまりニュースにならんね。そういうのネットで燃えやすいから」
「やっぱ中学生くらいの子がパイロットやるのは、不味いよなあ」
「ぬっくん。私たちも中学生だよ!」
「そうだけどさ」
「オマケにアマリアの戦争に参加しようとしてる。ウチらも歴とした少年兵だゼ☆」
***
「部隊B率いてる渚さんから通信。アマリア苦戦だって」
「マジか‥‥」
「それで本陣が予備兵力に囲まれて、大ピンチだって」
「本陣ってアレ、あの候補生の子っちがいんじゃね?」
「オーラさんとニーラさん」
「コーラとソーラな」
「そのふたり、そうだよ。『私たちは戦わずに、先輩に武器を渡したりする雑用だけです』って言ってた」
「本陣落ちたら負け確じゃんか。どうすんのこれ」
「しかも、あの子たち捕虜になっちゃうよ?」
「ツヌってさ、ウチら女子からしたら一番捕まりたくない国なんだよね?」
「え!? どゆこと?」
「あ~~男子は知らんか。ひめ説明してやって」
「ええ‥‥私が‥‥? えっとねぬっくん‥‥あの、ツヌって女子より男子が多い国らしくて。紘国の女の子狙ってるんだって。‥‥でね? 甘い言葉で国に連れ去って‥‥その‥‥女の子にヒドイことしたりするんだって。女衒部隊とかもあって、だからとにかく私たち女子は、ツヌの人に騙されないように、ついて行かないようにって、先生とかからすっごい言われてるんだよ」
「ぜげんが何かはわからないけど、女子の敵っぽい国だってのはわかった」
「そう。わかってくれて良かったよ」
「助けよう!!」
「はい?」
「そんな国じゃあ、あの娘たち捕虜になったら可哀想じゃん。悲惨じゃん? 僕らは武装してんだから、助けに行こ‥‥あ、ごめん。‥‥ふたりを巻き込んじゃうから、僕ひとりで行くよ」
「何言ってんの? ぬっくん」
「ごめんひめちゃん。ちょっとひとりで盛り上がっちゃった。ダメだよね。そんなことしてもし、麻妃やひめちゃんが捕まったら、大変だよ」
「そんなことない」
「え?」
「ぬっくんの盾」
「え?」
「私はぬっくんの盾。私が守る! たとえ、相手が誰だろうと!!」
「ひ、ひめが何か変なスイッチ入っちゃった‥‥‥‥」
※作者注 アマリア港奪還作戦は、暖斗の「対英戦」が無いため、一日繰り上がっています。




