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第135話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅴ ~異世界成分無添加Vr.~②






 紘和60年 8月14日(水)22:45

 空中戦艦ラポルト 居住区 2F 岸尾さんの部屋。


 岸尾さん、逢初さん、ゆめさん、咲見さん(就寝中)。





「そうだよ。好き。‥‥‥‥自分のことが、もうどうでもよくなるくらいには、好き」



「やっぱり。ふふ」



「それで今回、行き過ぎたひめっちは暖斗くんに怒られたワケだけど」


「まあ女子なら丸わかりなんだけど、でもやっぱりね。ふふ。‥‥でね。そんな暖斗くん大好きなゆめさんが、そんなライバル増やすようなことを‥‥なんで?」

「そこはひめっちならではの、消極的な生存戦略だね。まあ紘国女子あるあるだし」


「うん。だってどうせこの国の男女の出生率は1対6とかでしょ。この悪夢のような恋愛競争率は変わらないし。だったら、私は変な子より愛依さんみたいな子に、ぬっくんの側にいてほしい」

「急にそんなこと言われても‥‥わたし‥‥結婚するつもりないし」


「そうだね。そこまで私が干渉するつもりはないよ。だからちょっとだけ。ぬっくんが愛依さんを呼ぶ呼びかたくらいを考えて、ちょっとだけ愛依さんとぬっくんの距離が特別になってくれればいいんだよ」

「ま~ほら愛依。中学生じゃまだだけど『開国派女子』とかはもう、男子に言い寄って手段選ばないじゃん? ひめっちはそういうの気にするから。なんせ暖斗くんと逢えない日々『もうゼッタイ誰かに盗られてるよ‥‥ぬっくん』って毎日泣いてたから」


「それはつらいよね」

「まあウチからしたら『そんなん泣いてんなら、さっさとひめが肉弾攻撃で暖斗くんに(とつ)って、ひめ自身が開国派女子になればいいじゃん?』だったんだけどさ」


「‥‥うう‥‥男子と関係持つとか、モデルのお仕事に迷惑かけれない。それに私がそういうことしたら、かえってぬっくんに嫌われそうな気がして」



「それは正しい。暖斗くんはそういう、打算でパンツ脱ぐオンナを一番嫌う」

「だよね」

「‥‥‥‥で、そういう方向性で一回嫌われたら、もうたぶん恋愛対象としてリカバリーは不可能」



「なるほどよ。だから麻妃ちゃんはゆめさんの、そういう悩みごとを毎晩聞きつつ『もういいから急いで逢え』みたいなアドバイスはしなかったのね」

「ひひ。そういうこと」


「やっぱりだよまきっち。愛依さんも私の味方だよ。たとえぬっくんが愛依さんを選んだとしても私、愛依さんみたいな子だったら、許せるかも」


「ええ‥‥? どうしてそうなるの‥‥?」


「愛依。ひめっちはドMなんだよ。実はひめと暖斗くんが会えない間、ウチに『暖斗くんにお相手が現れて、それが暖斗くんにとって良い人なら、その恋のお邪魔はしないで。私に義理立てしなくていいんだよ』ってずっと言っててさ」


「ふわ‥‥‥‥純愛」


「暖斗くんに対する親友の『想い』、暖斗くんが幸せになって欲しいという、親友の『願い』、ウチはこの二択で悩むことになる。‥‥まあ‥‥結局学校じゃそういう相手は現れなかったんだけどさ」


「ありがとねまきっち。結局私がぬっくんと再会するのに、一年半かかっちゃったんだけど。中途半端で無理して逢わなくて良かったよ。今ホントにそう思う」


「なら良かった。ウチだってどれが正解ルートかわっかんない中でだったから、まあ、結果オーライってことで」

「結果オーライってまだ、ぜんぜん気が早いよ~~」


「ウチが今決めた。ぬっくんが愛依を呼ぶ時は『愛依』って呼び捨て! ハイ決定~! いひひ」

「何? 唐突に??」

「意義な~し」

「ウチの決定はいつも唐突だゼ☆」


「わたしは留保。だって本人寝てるのに」

「そりゃ、ウチの部屋で勝手に寝落ちしたのが悪いんだって」


「‥‥‥‥こんな話しちゃって大丈夫? 実は、暖斗くん起きてるとか?」

「大丈夫じゃね? 暖斗くんは一回寝入ると、なかなか目を覚まさないタイプだゼ☆」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「どした? 愛依?」


「あのね? みんなは知ってる? 暖斗くんの寝顔」


「「寝顔!?」」


「うん。‥‥医務室で何度か見てるんだけど‥‥これ」

「さっきも言ってた? 赤ちゃんがどうとか?」


「あ、変わってな~い。確かに」

「ホントに昔のまんまだな」


「ああ、昔からこんな感じなんだ、ね」

「いやおかしいぞ。だって暖斗くんもう中二だゼ☆ 年相応の寝顔になってるハズだゼ☆」

「なに? 年相応の寝顔って。ウケる」

「そうよね。こんなに邪気がない、赤ちゃんみたいな寝顔って。うふ。かわいい」

「ほら。やっぱり愛依さん、ぬっくんのこと?」

「え、そうかなあ。でもこんな寝顔見せられたら、寝顔のファンにはなります」

「またメンドクサイことを。『ファン』じゃなくて『虜』」

「ちがうもん。そうじゃないもん!」


「ひめっち。愛依の弱点その2。討論(レスバ)が劣勢になると、語尾が子供っぽく『~じゃないもん』みたいになる」

「麻妃ちゃんひど~~い」



「‥‥‥‥ん‥‥‥‥ここ‥‥どこだ‥‥」



「タイミング良く赤ちゃんが起きたゼ☆ しかも年頃女子のベッドで寝ながら、その前後の記憶が無いというデリカシーの無さ」

「おはようぬっくんっ」

「ああひめちゃん‥‥‥‥おはよ?」

「まだ寝ぼけてんな暖斗くん。‥‥ひひ‥‥この策士麻妃様がいっちょ仕掛けるか?」


「暖斗くん」

「あれ? 逢初さん。おはよ」

「おおっと暖斗くん! そこは『逢初さん』じゃなくって、『愛依』! だゼ☆?」

「うん‥‥おはよう。愛依‥‥」

「呼んだ。‥‥呼んだよ『愛依』って」

「ひひひ。麻妃ちゃん天才!」

「あ、え~と暖斗くん、暖斗くんはわたしを下の名前で呼ぶの、抵抗ないのかな?」


「ね? ね? 予想通りだよ? ぬっくんみたいな草食系男子が、愛依さんみたいな知的な人を下の名前で雑に呼ぶと、なんかぞくぞくしない?」


「しないぞ?」

「ひど~いまきっち!」

「でもまあ、ミスマッチの妙があるのは理解したゼ☆」



「あ~、え~っと。今、何の時間?」


「暖斗くん。どうか落ち着いて聞いて欲しい。あなたが寝ていたこの四年間に、あなたが愛依をどう呼ぶかが決まりました」

「「あはははは」」

「僕が逢初さんを‥‥‥‥んん?」


「賛成2、保留1、寝てたヤツ1。以上の結果を以って、暖斗くんは愛依のことを『愛依』と呼ぶことになりました。ほれ。さっきみたいに呼んでみ? 『愛依』って」


「ぬっくんお願い。愛依さんをそう呼んで。お願いだよ」



「‥‥‥‥‥‥‥‥呼ぶわけないじゃん」



「「だよね~~!! あははは」」



「ああ、ちょっと理解したわ。これが小屋敷小トリオのノリなのね。ふふふ。‥‥それじゃああらためて、暖斗くん?」


「何? 逢初さん」

「わたし、留保してた投票をします」

「はい‥‥‥‥?」




「わたしからもお願い。わたしのこと、『愛依』って呼んで」




「え? 愛依さん?」

「なんだ愛依。妙に乗っかってくるじゃんか」


「ええ? ‥‥‥‥そんなこと急に言われても」



「わたしも、この『輪』に入りたいの。この、暖斗くんを中心とする『輪』に」





「だから」








※作者注。用語解説。


①「開国派女子」→ 男子に対して(本格交際も視野に入れて)グイグイ行く子のこと。肉弾攻撃上等、先にツバつけてなんぼ。


②「鎖国派女子」→ 男子に対して、敢えて距離を取ってそれを付加価値にする戦略の子のこと。婚前まで身持ちが堅いケースも。紘国ではこれが割と多い。


③「尊雄攘衣派」→ 一見鎖国派。それで行く予定だけど、運命の男子だと思ったら一瞬で開国派になる女子。紘国で次に多いが、「経験済み」だと男子から忌避されるのでは? と気にする女子も多い。


紘国女子あるあるです。

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