第134話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅳ ~異世界成分無添加Vr.~①
「大丈夫だよ。もう普通の食事、朝飯だってさっき自分で食べたし。今さら」
「えっとね。暖斗くんが安静にしてる時の数値が欲しいの。だから」
「手が動くのにこれってのも‥‥ある意味キツイな‥‥」
「まあまあ。医学の進歩のために、わたしのお願い聞いて。ね? 暖斗くん」
「まあ、それじゃあ。ひめちゃんの負担軽減になることでもあるし、ね」
「うん、よろしくね。‥‥‥‥じゃあいくよ。はい、あ~~ん」
紘和60年 8月13日(火) 8:45 空中戦艦ラポルト 授乳室。
咲見さんと逢初さん。
「はい、あ~‥‥っとっと」
「ごめん。息が合わないね」
「ごめんなさい。やっぱりゆめさんみたいにはいかないわ。ごめんなさい」
「いや僕が悪いんだよ」
「でも服の襟にミルクが‥‥何とかしなきゃ」
「いいよいいよこれくらい。それよりも‥‥」
「ん?」
「近いよ。逢初さん」
「あ、顔が? うふふ。ごめんなさいね。わたしは不器用だし、ゆめさんみたいに手足があんなに長くないから」
「そんな、悪く言ったつもりはないよ。それに」
「それに?」
「逢初さん別に、ス、スタイル悪くないじゃん。むしろ良いほう、じゃ‥‥?」
「え~、そんなの言われたのはじめて! でも違うよ。太いもん。ぷにぷにだもん!」
「えっと、どう言ったらいいのかな? そんなに無理して痩せてなくても、なんて」
「そう? でもスタイル良い人は本当に良いよ? この前お風呂行った、渚さんとか折越さん、もちろんゆめさんも」
「あ、行ったんだ。‥‥ハシリュー村?」
(しまった村の露天風呂は「秘匿事案」だった‥‥あ、でもわたし「お風呂」としか言ってない‥‥)
「そう。みんなで行ったの(平然と)」
「そっかぁ。まあ確かにあの三人なら」
「でしょ? ‥‥‥‥っていうか暖斗くん?」
「ん?」
「やっぱり男子って、そういうところはそういう視線で見てるのね? やだ、もう」
「え? いや!? ‥‥‥‥な、なんでこうなった!? あわわ」
「あ、そんなに動いたら数値が」
「あ、そうだったごめん」
「‥‥‥‥いいえ。これはわたしが悪いよ。ごめんね暖斗くん。思わず変なこと言っちゃった。言わなくてもいいことを。医療人失格」
「そんなに落ち込まなくても。と‥‥とにかく、逢初さんはスタイルとか、悪く思わなくて大丈夫だよ。男子の好みだと‥‥モデル体型よりそういう感じのほうが人気あると思うし」
「そうなの?」
「そうだよ。別にそんな、いちいち芸能人みたいな体型してなくても。僕は逢初さんみたいな感じが実は、一番好きかもだし」
「‥‥‥‥!?!? それって、わたしがゆめさんに勝っちゃうってこと? 暖斗くんの好み的な中で‥‥!?」
「うう、難しいなあ。でも、別にひめちゃんとは幼馴染で、モデル体型だから仲いいとかじゃないし」
「あっそっか。うふふ。うふふふふ」
「どしたの? 急に?」
「だって暖斗くん。男子としてはとっても正直だけど、男性としてはとっても誠実なんだもん。‥‥‥‥そっか。うふ。うふふふふ」
「うん? なんかピンチは脱出できたのかな? じゃあまあいっか」
***
「うふふふ。はい、あ~ん」
「ご機嫌だね」
「うん。うれしいの。暖斗くんが誠実だってわかったから」
「そうかなあ。あんまり実感ないけど。ってか‥‥さらに顔が‥‥近い」
「ごめんさない。わたし『れんげ市海軍病院』の小児科でバイトしてるのね」
「あ~駅南の」
「うん。小児の患者様相手だと、どうしても顔が近くなっちゃうから」
「そっか。子供相手でいつもこうだから、か」
「だからごめんね。うふふふふ」
「そう言えば。ひめちゃんのこと『ゆめさん』って呼ぶんだ?」
「うん。ゆめさんもわたしを『愛依さん』って呼ぶよ? あ、そうだ。そのゆめさんから提案されてたんだ‥‥」
「提案?」
「あのね。暖斗くんは麻妃ちゃんのこと『麻妃』って呼ぶし、ゆめさんのこと『ひめちゃん』って呼ぶでしょ? ふたりは暖斗くんを『ぬっくん』って」
「うん、まあ。はは。麻妃には許可してないけどね。公式には」
「ふふ。わたしそういう幼馴染いなくて。ゆめさんに『そういうのいいなあ。憧れる』って言ったら。『じゃあ愛依さんもぬっくんに、あだ名とかで呼んでもらえば? 私は全然オッケーだよ!』って言われて」
「あだ名? 君に?」
「うん。なにか思いつく?」
「いや~~。急にそんな言われても」
「だよね。うふふふふ」
「ああでもひめちゃん言いそうだ。小三で、三人初めて同じクラスになって、小五でひめちゃんとも話すようになったころ、言いだしたんだよ。お互い呼び名を考えよう、とか。その時に麻妃を『まきっち』って呼ぶのを勧められたんだけど、なんか女子っぽいから結局『麻妃』になったんだ」
「あれ? 麻妃ちゃんとゆめさんは小一で知り合ってたんだよね?」
「ああそう。ふたりはもう友だちだったんだけど、僕とひめちゃんとは小三で」
「あれ? じゃあ『ぬっくん』って呼び方は?」
「それは小五か小六の時かな。それまでは僕の異母姉の呼び方で、麻妃とかには『はーくん』って呼ばれたた」
「結構複雑ね。ふむ。じゃあわたしの記憶から整理するね」
①まず3歳の時に、暖斗くんと麻妃ちゃんが幼年教育舎で出逢う。
②6歳で小学校入学。ここで麻妃ちゃんとゆめさんが出逢って友だちに。
③8歳。小学三年生で三人同じクラスに。暖斗くんとゆめさんが知り合う。
④10歳で五年生、クラス替えがあったけど、また三人同じクラス。この頃から暖斗くんとゆめさんも友だちに。
⑤11歳の時、ドローンレースがあって、ゆめさんは応援に行ってます。
こんな感じかな。あ、年齢は誕生月が来てない計算だよ。あとゆめさんは10歳ごろから、モデル業も始めてるね」
「すごいな。スラスラ言えて合ってるし。さすが『超記憶』‥‥なんだけど、ドローンレースの話‥‥なんで知ってるの?」
「ゆめさんから聞いた桃山さんから教えてもらったよ。ふふ」
「‥‥‥‥。やっぱそうか」
「単純に『三人は同じ小学校で幼馴染み』って言っても、実際はこんなに細かいもんね」
「まあ、あらためて言われると」
「‥‥で、わたしから、‥‥暖斗くんにおせっかいな提案があるんだけど」
「ん? 何?」
「その幼馴染み、ゆめさんのこと。もう許してあげて?」




