第132話 突撃する赤ちゃんの物語Ⅱ ~異世界成分無添加Vr.~①
紘和60年 8月5日(月)15:35
接敵した、小屋敷小学校トリオ。
「あの小型は誘引役で、大型BOTが隠れてやがったゼ☆」
「渚さんの指示通り、慎重に行ってよかったよ‥‥あれ? ひめちゃん?」
「囲まれてるよ‥‥本体の大型以外にも‥‥隠蔽してる敵がいる!」
「え? ホント? 麻妃?」
「ウチからは視えない」
「来る! 逃げて、ぬっくんっ!」
「ひめちゃん置いて逃げないよ!」
「いた! 4時8時! 砲撃注意!」
「ぬっくん逃げ‥‥ああっ‥‥!」
「ひめちゃん! ひめちゃんっ!」
「UO-003、シールド残量ゼロ! 撤退だよひめ!」
「だめ! 私が引いたらぬっくんが!」
「だめだよ! 次直撃したらひめちゃんが!」
「きゃああ!」
「くそっ! テオブロマが捕まったっ!」
「ラポルトがこの空域に進出してくるって。でもどうする暖斗くん。アイツら、UO-003を人質みたいに拘束して盾にしてる‥‥これじゃあラポルトも手が出せな‥‥あれ?」
「‥‥‥‥ひめちゃんに、何してんだアイツら‥‥」
「暖斗くん?」
「許さない、許さないぞアイツら。俺が全機、ぶっ倒してやる‥‥」
「暖斗くん?」
「今助ける! ひめちゃん!」
「私は、ぬっくんの盾‥‥その役目‥‥なの‥‥に‥‥」
「うおおおおおお!!!!」
「うわ! 落雷!?」
「ひめちゃんをっ」
「何でっ!? 回転槍が一瞬でトップスピードにっ!?」
「放せっ!! 突撃ォ!!」
「紅葉ヶ丘学生、解析!」
「がってん!」
「ここにきて‥‥暖斗くんが覚醒するとか‥‥」
「姫の沢さんを助けるため、か。うん、なるほどそうきたか」
「ひめちゃんっ」
「あ、ありがとぬっくん」
「‥‥ってぬっくん、大型BOTも『手』も全部、削り倒してるよ‥‥いったい何が。なぜなぜな~に?」
「のんきだなひめ。絶体絶命だったのに」
「だってもう、敵ボロボロだし」
「『旭雷』だよこれ。重子力エンジンの回転数が一瞬で最大化した」
「あ、紅葉ヶ丘さん」
「お兄様でさえ、実戦での発動は無いのに。イキナリ旭雷だってさ。あはは」
「姫の沢さん、無事?」
「あ、はい。ぬっくんが助けてくれたので」
「まだピカピカ光ってる。暖斗くん無双が過ぎるゼ☆」
「うん‥‥‥‥あれが、‥‥私を救ってくれた‥‥光‥‥」
***
紘和60年 8月9日(金) 11:35
初陣を終えた桃山さん、初島さん、来宮さん。
シャワー後に昼食を兼ねた反省会。
「いやまさか、あんな所に現地の子供がいたとは。予想外っス」
「怪我も大したことなさそうで」
「ホント良かったよね」
「で、戦果としては」
「私と櫻と桃山さんで小型Bot1機ずつ。部隊Bとしてはまずまずの初陣だね」
「初島さん来宮さん、ありがとねっ! ふたりの連携すごかった」
「いやぁ。こっちこそ。実体弾防げずに悪かったっス」
「ごめんね。桃山さんの愛機にキズが」
「ぜんぜん全然。ふたりに前衛してもらって助かってるから。ほら私、ほとんど移動できないし」
「いや私らも、盾が『T-オーボイド』で、受けるってより弾く専門だから、さ。角度によっては実体弾が後ろにいっちゃう」
「じゃあパイセン。盾の種類変える? 暖斗くんみたいなゴツイ『L-マチュア』とか? あ、姫の沢さんの丸盾もいいっスね」
「まさか」
「やっぱり」
「ね? 聞いて桃山さん。私たちがあえて『T-オーボイド』使ってるのは」
「ふむふむ。使ってるのは?」
「「だって『T-オーボイド』ふたつ合わせると」」
「「ハート型になるから(っス)」」
「あはははは‥‥見た目重視‥‥JCの心意気ねっ」
「「そう(っス)!!」」
同日同刻 11:35 空中戦艦ラポルト、居住区3F。
暖斗の部屋。
「ひめです、ぬっくん。‥‥‥‥あのう」
「あ、どうぞ入って」
「ここがぬっくんの部屋。小学校以来だね」
「まあ実家じゃないけど、まあ僕の部屋といえば、まあ」
「私にとってはぬっくんの部屋だよぅ。あ~ちょっと緊張してるかも」
「そういえば麻妃は?」
「あ~~えっと。KRMの整備‥‥‥‥っかな?」
「あっそう。‥‥ん? ‥‥出撃してないのに?」
「うん。でもえ~と、なんか整備だって」
「あっそう」
「じゃ、あらためて、お疲れ様。ぬっくん」
「麦茶で乾杯~っと」
「あはは。乾杯~」
「ひめちゃんもお疲れ様。まあ僕らは、なんにもやってないけどね」
「そうだね。今回部隊Aは発進デッキで待機だったから」
「まあなんにせよ、Bが無事初陣を終えて一安心だよ。桃山さんに『何かあったら頼りにしてるからね』ってむちゃくちゃ言われてたから」
「フェンシングコンビも凄かったね。あの連携は」
「僕たちと違って、横二列のフォーメーションかあ。あんな戦いかたもあるんだ。あの刺突剣使ってみたいなあ」
「射程50メートルだっけ? じゃあぬっくんがやったら、テオブロマの背中に刺さるね」
「なんでひめちゃんに当たる前提なの!?」
「ふふふふふっ」
「あっはっは」
「たのしい。やっぱりぬっくんといると楽しい。えへへ」
「じゃ~~ん。これ」
「あ、小屋敷小の卒アルだ。ひめちゃん紙で注文したんだ?」
「うん。お父さんがね、『こういう思い出の品はちゃんと、モノとして手元にないと』って。追加料金かかってもいいって」
「ひめちゃんの船外持込み、非電子書籍って、これだったんだ」
「うん。そうだよ」
(もし再会したぬっくんと上手く会話ができなかった時用に、深謀遠慮で持ってきたんだよ)
「お~。懐かしい顔が」
「でしょう? みんな、みなと第二中でも元気だよ」
「そっかあ。いいなあこういう感じ。僕も紙で頼めば良かったかも。高かった?」
「ううん。希望者が100人超えたみたいで、それなりだったって」
「じゃあなおさら、紙で頼めば良かった」
「でもちょっと、置き場所に困ったりはするけどね。お母さんに『ゆめ、コレどこ置くの? ちゃんと片付けて』って毎回言われる」
「そんな毎回読んでるの? 小屋敷小の卒アルを?」
「う~~ん。だって私には(ぬっくんとの)大切な、思い出のアルバムだもん。毎日見てるよ」
「ふ~~ん。そうなんだ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥って、ま、毎日‥‥!?」




