表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/518

第20話 寛容とは②

 




「むしろ、逢初さんの顏は白くて綺麗だし、黒い髪もつやつやしてすごく綺麗だよね。だから、ちょっと得した気分かな」



 え!? この人何言ってるの? 視界がぐるっと回る気がした。ちょっと!? え?



「いや! あ~! えええと、今のはナシ! 今のはナシで!」



 暖斗くんは顔を真っ赤にして、こう言い出した。また動こうとしたから、痛がりだしてしまったが。



 そんな彼に、わたしは。


「‥‥暖斗くん。わたしの昔のあだ名知らないでしょう? 知ってたら、そんな事言わないよ?」


「あだ名? そんなの付けたら先生に怒られるよ?」


「先生にもわからないように、こっそり呼ばれてたのよ」


「大丈夫だったの? いじめとかじゃない?」


「今はもう大丈夫。あることを境に陽キャになることにしたの。ちゃんと陽キャになれたかはわからないけど、あだ名とかはもう消滅したよ」



「なんだ。それならよかった」



 暖斗くんは、ふうっと息を吐いて、続けた。


「昔、かあ。そういえば、僕ら同じクラスなのに、この戦艦に乗り込むまでほとんど話とかしてないよね」


「そうね。でも男子って、いつも男子だけで固まってるし、そんな男子にどんどん話しかける女子と、そういう争いをさける女子に分かれるから」


「争い?」


「うん。‥‥やっぱり男子は、っていうか、暖斗くんは意識してないんだね。みんな必死だよ、女子は。凄まじい競争率を勝ち抜いて選んでもらわないと、余り物になっちゃう。男子はどんどん結婚しちゃうからね。目指せ 第一席配偶者(ファースト)!! って」


「で、逢初さんは、競争しない方針だと」


「うん。さいわい資格を取るのは得意みたいだから、その資格で食べていく方針で」


「なんかもったいないなあ。あ、医者になるのは賛成だよ」





「ね。暖斗くん」



 わたしは、再び切り出す。こんな雑談をしてくれるのは、彼なりの優しさから、だから。



「‥‥‥‥許してくれるの? わたしの事。暖斗くんの手をマクラにして寝てたんだよ?暖斗くんが寝ている隙に」


「ほっぺたに痕が付く以外に問題ある?」


「暖斗くんが病気で動けない隙に、医者の立場の人間が勝手にやったんだよ?」


「う~ん」





 わたしは、暖斗くんの顔を見つめて、彼の言葉を待った。





「‥‥‥‥ぼかぼかしたんだよね」


「え?」


「ぽかぽか、暖かかったんだよ。『右手』が」



 彼は微笑んだ。



「さっきも言ったけど、僕は不安だったんだよ。独りでいたら、もっとストレスを感じてたと思う。でも、君がいつも医務室にいてくれて、一生懸命看病してくれたから、僕は戦えてるんだ。その君が僕が寝た後も僕のそばにいてくれて、右手を暖めてくれてたんだから、お礼を言うのは僕のほうだよ」





 うれしい。


 彼の言葉を聞いたわたしの素直な心情だった。




 でも、わたしはそれに甘えてはいけない。

 暖めてもらってたのは、わたしのほうなのだから。

「いっそ罵倒してくれた方が気が楽だった」って、ドラマとかでよくある台詞だけど、本当にそうして欲しかった。



 あ、でもそれで、ひとつ思い出した。

 なぜ、わたしが彼の右手に(こうべ)を預けたのか。




「わたしね。男の人の手にトラウマがあるの。今はっきり思い出したよ。なんでこんな事しちゃったんだろうってずっと考えてたけど、やっとわかった」



 ――――言葉を選びながら、恐る恐る、口にした。




「‥‥それって、話してもらえる?」


 彼は、事も無げに言う。わたしは彼の言葉に、ドキリ、とした。



「えっと、それは」




 それは、わたしと家、母の名誉に関わる話だった。正直ためらった。でも。




 わたしは正直、この話は他人にしたくない。わたしの家は、いい状態だとは決して言えない家だから。そんな家だとわかったら、わたしという人間が無価値な存在だという事が、彼にバレてしまうような気がしてしまう。


 でも、仕方ない。これがわたしへの罰なのだろうと、受け入れることにした。



 わたしは、覚悟を決めると、深呼吸をして、口を開いた。





「うん。聞いて。わたしの『右手』のおはなし」






※「右手」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ