第二部 第56話 ありきたりな未来視能力者の、よくある世界線の改変②
ラポルトの食堂。みんなで、彼女を囲んで。
秋さんは、私の質問に、ゆっくりと頭を下げた。
「‥‥そう‥‥ですよね。やはり、知りたいですよね‥‥‥‥ごほっごほっ」
先日の「愛依さん救出作戦」。無理を押して未来視、【予後】の能力を連発した秋さんは、あれ以来イマイチ体調が戻らなかった。
「私が王宮を出てきたのはこのためです。ラポルトの皆さん、ひめさんに、直接、しっかりとお詫びしなくてはならないと」
彼女は弱々しく頭を下げた。
「本来、真っ先に謝罪しなければならないのは、春でなく私だったはず。遅ればせながら、皆様、大変申し訳ございませんでした」
事情を知ってるから誰も咎めなかった。
未来を予見する能力を持っている。だけど仕える主君の身体が囚われ、国は乗っ取られてしまった。
奪還するために、異世界を含めて、使えるものは何でも使って行動しなければならなかった。
でないと、奪還どころか主君の身の安全も危うかった。
「改めまして、私の能力、【予後】の詳細をお伝えします」
彼女は目を伏せた。
「先の愛依さん奪還作戦で、もう皆様ご存じとは思いますが。私のこの能力は無限には使えません。私の消耗が激しいため。‥‥それを宰相らクーデター派に知られ、‥‥能力の隙を突かれる形で国を、主君を失いました」
声が震えた。
「そして未来視も万能ではありません。質問を受けて強くイメージしたり、ある時突然脳内に映像が浮かんだりするのですが、そうして未来の事象をあらかじめ知ることとなります。‥‥残念ながら‥‥神のごとくすべてを予知するわけではないのです。‥‥先ほど申しましたように、ある程度の不穏な動きの把握と、それに対する準備はあったのですが」
なるほどだよ。だから、エリーシア国のクーデターは成功したんだね。秋さんも寝耳に水で、そういう想定での予知をしていなかったから。
例えばだけどさ。他の懸案事項とか収穫期の農作物、とかの質問で、秋さんのキャパをカツカツにしちゃえば「まさかクーデターが起こるか?」なんて予知する余裕が無い。
「そしてクーデターは起きました。その後の事象は先ほどの通り。私は未来を視ながら、適時春を通して『あちらの世界』の世界線を改変致しました。皆様の『ふれあい体験乗艦』もだいぶ様相が変わりました。特に、春の所為で特別枠、推薦枠から漏れてしまったひめさん。‥‥あなたには‥‥どうお詫びしたら良いかわからぬほどの‥‥‥‥」
「もう。それは春さんからも姫様からも、何回も何回もちゃんと謝ってもらったからいいよぅ」
「いいえ。それはそれ。この計画、この改変の真の首謀者は私。私が咲見様との楽しい思い出を奪ってしまった、張本人なのです」
あ~~もう。もう大丈夫許してるって言ってるのに。
確かに。気にしてはないよ? もういいんだけど、言われるたび思う。
私が参加する世界線だったら、どうなってたのかな? とは。
「それだよっ!」
私の疑問に、子恋さんが喰いついた。
「私も是非知りたい。将来部下の命を預かる者として。もし『異世界成分』抜きにして『ふれあい体験乗艦』が行われていたら? うんっ!! 是非っ!!」
「そうね。軍事に於いて『たられば』は無いんだけど、今回、私たちの作戦行動の答え合わせができるとすれば願ってもないわ。私からもお願いするわ」
「私は別に興味ない」
「澪~~!」
あ、附属中三人娘(約一名を除く)が、割と激し目に喰いついた。
「では、本題に移る前にお話し致しましょうか? 『突撃する赤ちゃんの物語 異世界成分無添加バージョン』を」
「なんだよそれ」
「まあまあ、ぬっくん。ウチは気になるなあ。だって」
「なんだよ」
「だって春さんが参加せずに、ひめっちが参加してんでしょ? 『小屋敷小トリオ』の連携フォーメーションがソレ、炸裂してんじゃね?」
「う!?」
「でしょ? ウチはゼヒ知りたいゼ☆ ぬっくんと愛依、ぬっくんとひめっちがどうなったのかも。ひひひ」
「「え~~~~!?!?」」
女子たちが一斉に反応した。私は抵抗する。話題を逸らさなくては。
「秋さんが今『本題』って! 『本題』って! なぜなぜな~に?」
「諦めろ姫の沢。『本題』ってのはこの仲谷妹が予知した、魔王攻略についてだろ? 妹の能力の説明聞けばわかんだろが。回数制限がある予知能力で、体調気にしながらぼちぼち未来視してたんだよ」
「仰る通りです。さすが七道さん」
「だろ。仲谷姉。‥‥で、今回‥‥『魔王攻略して、万事丸く収まるナカナカに良い未来、そこに到達するルート』が視えた、と」
「はい。やっと、やっと辿り着きました。これならば」
「そして、今『体験乗艦のたられば話』をするってことは、別にしても何にも問題ないってことだろ?」
「はい。‥‥いいえむしろ、最良未来への必須事項とわかったのです。‥‥皆様の結束が高まりますし、まあ、色々と‥‥」
「‥‥‥‥。師匠スゴイ」
「あ~~。今日は冴えてるね~」
「必須だってさ。じゃあもう、その話聞くしかないじゃん。ね? 姫の沢さん?」
「だよね~」
「っス」
「櫻の言う通り」
ダメだ。完全に孤立無援だ。
もうこの話を進めないと。女子のみんなは目をキラキラさせてる。
愛依さん。
あ、目があった。彼女は、ふんわり不思議そうな顔をしている。天然だね。きっと、何を語られてもふんわり受け入れるんだね。いいな~そういう性格。
ぬっくんは?
めっちゃ恥ずかしそうにしていた。普段の倍くらいのスピードで、頭を掻いていたよ。でもこれが普通の、中二男子のリアクションだよね?
私としては、なんか恥ずかしいなあ。その「もしかのルート」で私がどんなリアクションしてるかわからないし。すっごい変なことしてたらヤだな~。
「では。体力を考えて、春が語ります。わたくし秋は、なるべく当時未来視した記憶を拾うことに集中します。あいにく私は記憶のギフトなど無い常人。何ぶん憶えている限りの記憶なので、すべては語れないと思いますがご容赦を。‥‥吟遊詩人‥‥いえ書き物の物語のように語れば良いでしょうか?」
戦艦ラポルトの食堂に、人数分の椅子とお茶とお菓子が用意されて。他に仕事をしていた子も呼ばれた。
「では。こほん。わたくし春が語ります。語りかたは‥‥‥‥?」
「ひめさんの一人称? それとも神視点の三人称のほうがよろしいでしょうか?」
春さん‥‥‥‥もしや!
そこ。こだわる系の人?




