第二部 第56話 ありきたりな未来視能力者の、よくある世界線の改変①
アルクトスの王都に数日滞在してから、グラロスへと戻ったよ。
あのシャンデリア落下事件から、エイリア姫への求婚はピタッと止まった。
どうやらアルクトス王が何か命令を出したらしい。王族も貴族も、会っても普通の挨拶しかしなくなったよ。いいことだよね。
まあ相手にしたって、エイリア姫に無理筋の求婚するたびに大広間のシャンデリアが落下したんじゃ、割に合わないだろうから、ね? ぬっくん?
「頃合いです」
王宮から戻った春さんは、決意の表情だった。
「秋の【予後】で、こちらの欲しい未来が視えました。時を逃さずそれを獲りに行きたいのですが。その、ラポルトの皆さんには‥‥」
言い淀んだ。
「は。ナメんな仲谷。どうせオマエの妹の未来視には、私らが協力する姿が映ってんだろ? 織り込み済みなハナシだろ? だったら、やるしかね~だろうが」
七道さんを皮切りに、みんな口々に賛成した。
「ここまで来たら協力するっきゃないでしょ?」
「そうだよね。私たちだって異世界転移して色々助けてもらってるし」
「いえ、それは。そもそも私たちの都合で皆さんをこの世界に召喚したのです。完全に私たちの都合で、です。なので‥‥」
「そんなことないよ仲谷さん。僕らがガンジス島で戦ってた時、こっそり色々フォローしてくれてたじゃん。あの戦いが戦死者ゼロだったのは、エイリア姫と仲谷さんが裏で動いてくれたから。僕はそう聞いたけど?」
「それは‥‥‥‥」
ぬっくんのこの言いかたは、少し大袈裟かもだけど嘘じゃない。
「春。それは私からお話しましょう」
「秋!? どうしてっ?」
王都グラッセンの郊外。だんだん空が広くなる農園横の空き地が、ラポルトの停泊場所だった。
そこに秋さんが来た。滅多に王宮から出ることがないのに。
秋さんの見た目は当然、一卵性双生児の春さんと瓜二つ。でも今は「グラロス朝の政治顧問で、コーラ姫の知己」って設定で王宮にいるから、来ている服はグラロス風の、南国みたいな物だった。そこがふたりを見分けるポイント。
そしてエリーシア、エイリア姫にとっては代替不可能な腹心だから、ずっとコーラ姫に預けて王宮の奥深くで人目につかない生活をしていたんだよね。
そして春さんとは、異世界を越えて通信できる。【霊信】だっけ。世界でこの双子のみに発現した、規格外にも程がある【上位リンク】。
あ、通信というかテレパシーって言ったほうがいいかなぁ。とにかくこの双子はつながってて、互いの能力も共有してるんだよ。あっちの世界とか関係なく、常時。そして。
秋さんの予言を春さんが受け取って、何かしらの未来を変える行動をする。
ラポルト16の「ふれあい体験乗艦」でも。
いくつもの「世界線の改変」があったらしい。
***
ラポルトの食堂に、みんな集まった。椅子に座った秋さんを中心に、思い思いの場所に腰を落ち着ける。私は厨房で飲み物を用意した。
桃山さんがどこからか、秋さんのためにひざ掛けを持ってきた。
「まず、ご存じの方もいるかもですが、この世界とあちらの世界。私どもは私の能力【予後】とこの春との最上位リンクの常時接続【霊信】にて、あなたがたの世界に介入、改変を行ってきました」
秋さんは、落ち着いた口調で話し始めたよ。
「頃合いです。心からのお詫びの意味も含めて、どこがどう変わった、改変されたのかを、一度整理してしっかりとご説明致したいと思いまして」
異世界に来てからの、秋さん本人からの種明かし。
これは未来視の【スキル】を持つ、秋さん自身だからこそ知ってることなんだけど。
「まずは、我が国エリーシアにクーデターが起こったことからですね。宰相らが主要なメンバーです。今思えば魔王軍の仕込みの可能性もあります。‥‥国王派、陛下と王妃様は辛うじて難を逃れ‥‥エイリア姫は王宮にて賊に囲まれました。‥‥そこで‥‥止む無く姫様はその【大魔力】にてご自身を守るため、クリスタル結晶の中にその身をお隠しになられました‥‥」
「私とこの秋は、クーデター派の策謀で別の任務に就いていました。姫様は当時、秋の体調にご配慮され、【未来視】の能力を乱用するのを止められていましたので‥‥。思えば‥‥不覚ではありました‥‥。彼奴らの動きは一部把握し、万が一の時の『私が紘国世界に渡る』手筈も準備しておりましたのに‥‥!」
仲谷姉妹は口惜しそうだったね。確かに、回数制限のある能力である【未来視】を的確に「クーデター発見と阻止」に全振りしてたら、こんなことにはなってない‥‥!
こんな感じで、私たちへの説明が始まったよ。
で、また長くなるから要点だけ整理するね。クーデターが起こって姫がピンチ! まで話したから‥‥。
①エイリア姫の精神が愛依さんに避難する。
②春さんが紘国世界に渡る。秋さんの予言でガンジス島の洞窟に医療資材を調達、配置(これは後で、愛依さんがツヌ国のゼノスをオペする用だよ)。
③②を以って、私たちが異世界転移する未来に、世界線が確定する。
④春さんはその【催眠】能力で「ふれあい体験乗艦」に潜入。
⑤自動的に私が落選。うはー。
⑥竹取山の噴火とその直後の電磁パルス攻撃は史実通り。
⑦ラポルト(ウルツサハリ=オッチギン)がベースカタフニアを目指すのも同じ。
⑧ハシリュー村での「愛依さんとツヌ国ゼノス邂逅」。春(秋)さんが結末を把握、許容。
⑨これは①が無ければ発生しなかったそうで、これでその後の世界線が変わる。
⑩⑨により「体験乗艦」で「英雄さんと揉める」が発生。その後の「対英戦」も。
⑪⑩でぬっくんが寝込んだから、コーラさん達アマリアを助太刀する分岐ルートに。
⑫アマリア港奪還作戦参加。成功。ツヌ国軍を撃破。
⑬⑫に起因して、アマリアの妊婦、オリシャさんを移送。
⑭「愛依さん二度目の拉致」と「ぬっくんとツヌ国ゼノスのDMT戦」。これは⑧と⑬が起因。
⑮ガンジス島戦役は史実通り起こる。でも変更ルート多国籍合従軍には、⑭があってツヌは参戦しない(⑫、⑭でぬっくんが壊滅、撤退させてるから)。
⑯⑬で妊婦さんを助けるために、戦役に参戦。ぬっくん達の頑張りとラポルトの無双。
⑰敵戦力の削減と「皇帝警護騎士団」が降下する時間稼ぎと地点確保、という大役を果たす。
⑱この裏で春さんと姫様が画策。まほろ市民病院の地下の重力子エンジンをパワーアップさせてバリア機能を強化。
⑲【大魔力】と【閾値不覚】コンボで、病院関係の死傷者ゼロに。
⑳敵が、ラポルト寄港後にみなと市に隕石敢行。皇太子殿下が撃退。
ガンジス島戦役はここまでだけど、半年過ぎた3月14日、ぬっくんと愛依さんの「小さな結婚式」で集まったラポルト16と私が異世界転生、っていうのが今私たちがいるルートってことね?
秋さんが適時未来を視て、それを春さんに伝えてるから、例えば愛依さんが二回目に拉致監禁されても、春さんは「想定の範囲内」だったそう。
だってさ。
う~~ん、けっこう元の世界線から変わってるよね‥‥?
ってあれ? 秋さん?
ラポルトのみんなは? ぬっくんは?
もし異世界転移ルートじゃなかったら?
本当の歴史通りだったら?
私は? 私の運命は?
どうなってたの?