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第二部 第55話 異世界は空中戦艦とともにⅡ⑤






 思ったより少しだけゆっくり落ちるシャンデリアと、思うほど飛び散らずに宙を舞うガラスの破片。

 キラキラして綺麗で、一瞬見とれてしまったけれど。



 これは。


 ぬっくんの能力、「座標特異的重力攻撃」だよ。重力子回路とコラボしてある地点に、超重力を発生させるヤツ。

 重力子回路が近くにないと(プラスその回路がぬっくん名義になってないと)使えない技だけど?


 あ、「名義」について一言解説。

 回路に脳波を登録するんだよ。正確には他の人の脳波が来たとしても、それには反応しないようにキャンセルする仕様。マジカルカレントって言っても、「ある種の特殊な脳波=つまり電磁波」って全体的なくくりで、細かく見れば能力者一人ひとりに固有の周波数があるそうだし。


 戦場、DMT戦で、もしぬっくんのマジカレ脳波で敵のエンジンまでパワーアップしちゃったら、ぐだぐだでしょ? 迂闊に登録してたラポルトは、墜落しそうになったって聞いたし。


 紘国軍では「認証コード」で一括運用されてるとも。あんまり詳しくは教えてもらえないけど。コードと一緒にあらかじめ脳波を登録しておいて、武器の所有権みたいに切り替える、と。

 えっと、「スマホのブルートゥース接続みたいなもん」だってさ。

 ‥‥って私も、メンテ班三人組に教えてもらったんだけどね‥‥。




 あ~~見ちゃった。今その「メンテ班三人組」の七道さんが「へん!」って顔してた。


 ラポルトのみんなは気づいてるね、これ。ぬっくんのタキシードに、小型の回路が仕込んであるんだよ。もちろんぬっくん名義の。

 愛依さん救出作戦で、ゼノス王子にお見舞いしたヤツだ!



「皆の者、怪我は無いか? ‥‥無ければ良いが。よもや照明が落ちるとは。よもやのう。‥‥‥‥咲見殿。貴公の慧眼に助けられた。もし下に人がおったら、大惨事であった。のう、フェイダ」


 アルクトス王も、やっぱり何か気がついてるみたいな言いかた‥‥。




 でも、フェイダと呼ばれた王族は、収まらなかった。


「平民風情がッ! 一体何をした!」


 場が騒然としたところで、王子様が剣に手をかけた。

 このフェイダって人。私の記憶にはない。主だったアルクトスの王子様は名前くらいは把握してるから。たぶん‥‥王様の息子と妾腹との‥‥とかだよきっと。王位継承権からは遠い、王子様。


 ちなみにぬっくんは丸腰。このパーティーで武器持ってるのは、王族貴族とその護衛、つまりわたしと春さんも短剣を()いでいる。


「知っておるぞ? ゼノスの阿呆に仕掛けたこと! なにか魔法ではない妙な術を使うのだろう?」


 ぬっくんは冷静だった。剣を向けられてもなお。


 少し俯いた格好で、エイリア姫と王子の間に入った。

 いつでも「重力攻撃」で、王子に床を舐めさせることができる証。


「そこをどけ。死にたくなければな。栄えあるアルクトスの血を引く我が、ゼノスの手垢がついた宿無し王女を身請けしてやろうというのだ。光栄に思え!」


 ダン!!


 ぬっくんに向けた剣が、勢いよく大広間の床に刺さった。刺さりかたがオカシイ。バウンドもせず、べニア板に投げナイフが刺さるような刺さりかただよ。


 そして禁句だった。愛依さんは紘国世界で2回ゼノスに拉致監禁されてる。「英雄さん」とその件で揉めてる。一番彼女を傷つける言葉だ。


「愛依‥‥‥‥姫は、潔白です」


 王子の護衛も身構えた。今ぬっくん、「愛依が」って言いかけちゃったけど? 檄おこを通り越して怒り心頭だから、全員スルー。


 ガガガガガバキバキバキッ!!


 聞いたことない変な音を立てて、王子の剣が床にめり込んでいった。柄の部分とかはもう粉々になりながら。場を納められそうな子恋さんは、動かない。


 そもそも失礼なハナシだよ。


 そりゃ確かにエイリア姫はクーデターで国を出た状態だけどさ。エリーシア王の皇后様から生まれた子だよ。家格から言ったらアルクトスだって第一皇子とか正室の系統じゃないとおかしい。

 これがアルクトスの答えだってことだよね。傍系の王子をあてがって、エリーシアとラポルトを乗っ取ろうという、見え見えの下心。


 きっと私たちも「ラポルトの操作方法さえ奪えば。後はただの子供」くらいに考えてるよ。

 でないと「乗せろ」とかしつこく言わない。


 まあ、「ふれあい体験乗艦」をこっちの世界の人は知らないし、紘国世界でだって、こんなに年若い人間があんな超兵器を扱うなんて「あり得ないほどの非常識」だったもんね。


 だから、「ラポルト16はあの戦艦の操作方法を知ってるだけのただの子供」って思い込んじゃうのも仕方のないことなのかもしれないよ。


 でも。



「仕方がない」から「許される」ってワケではないんだけど、ね?



 パリン! パリンパリンッ!


 今度はシャンデリアが床に食い込み始めた。さすがにぬっくんは、面と向かって王族に啖呵切ったりはしなかったけど。溢れる感情が重力になって現象化してるみたい。


「潔白とは笑わせてくれる。こんな王女を押し付けられて、我だって本意ではないのだ。‥‥まあゼノスを狂わせたその美貌だけは認めてやるがな」

「阿呆が」


 聞こえた。王様の舌打ちが。きっとこの王子、性格とか行動に難ありの不良物件なんだよ。それをわざとエイリア姫にぶつけて、問題を起こさせようとしてるとしか。

 でも、わざわざこんなことして、アルクトスに何のメリットが?


 春さんが進み出た。


「フェイダ様。そして皇后様のご学友であった貴方のお父様、そしてお母様のことは、私も少しだけ聞き及んでおります。ですが我が主君エイリア姫に何の咎がありましょうや。どうかお気持ちをお鎮めください」


「黙れ! 黙れ黙れっ!」


 出た。エイリア姫のお母さんとこの人のご両親が、若いころ同じキャンパスだった情報。

 やっぱり。何か因縁があるんだよ。安直だけどイチバン可能性あるのは、三角関係だったとか? この人のお父さんがエイリア姫のママにフラれてる、とか。


 それは後で聞くとして。


 剣を落とした王子は、護衛の剣を抜こうとしていた。またぬっくんに叩き落とされるだけだと思うけど、もう会場の空気が最悪だよ。

 ぬっくんの能力がバレるのも良くない。これは本来切り札のハズだったのだから。



 大広間の、この場に居る人たちのイライラが私に刺さる。私は悲しくなった。


 なんでもっと仲良くできないの? ぬっくんやラポルトのみんなみたいに、心を正しく持てないの?



 春さんが王子の前で、呆けたみたいにこっちを見てる?



 どうしたの? 私が、みんなの心の平穏を願ったらおかしいの?



 なんて思ってたんだけど‥‥‥‥‥‥‥‥あれれ?




「ふん‥‥‥‥」

 王子は捨て台詞もなくこの場を去り。


「シャンデリアを片付けさせよ。この会は、これで終いじゃ」

 アルクトス王のこの言葉で、戦勝の宴はお開きになった。



 あれ?


 最悪だった場の空気が‥‥‥‥??


 みんな何事も無かったみたいに帰り始めたけど?

 どうしたの? あれだけ王子も拗らせてたのに?


 会場を占めていた遺恨の念が‥‥‥‥。

 あの最悪の空気が‥‥‥‥。





 消えた?






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