表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
480/520

第二部 第54話 王道と愚策①






「まあ後はもう、足し算引き算だね。このままゴリゴリ押すよ?」


 風向きが変わった。



 ラポルトによる四天王の撃破。

 実は、魔王軍に襲撃された戦略物資の集積所も、善戦したそうだよ。


 今ものすごいドヤ顔でコメントした子恋さんは「物資を盾にして逃げればいい」って言ってたけど、各国にはちゃんと「魔王軍が攻めてくるとしたら」って案を出していたそう。


 それでカミヒラマは敵を待ち構えて、魔王軍を包囲殲滅、まではいかないけれど、結構削ることが出来たんだって。さすが子恋さんの「伝説の握手会」の国。


 そしてカミヒラマと隣接する魔王軍領に、いくつかの国が逆に攻め込んでいるんだって。ラポルトはこれからしばらくその国々への兵站を担当することになる。



 四天王を葬ったラポルト。この戦艦は、残った魔族や魔物では到底太刀打ちできない存在。



「でもさ。やっぱ魔王との戦いって、人類側がずっとピンチで、何か切り札的な必殺技を使って、何とか勝つイメージなんだけど」


 わたしは食堂でぬっくんとお茶。夕食後のティータイムだよ。「ヒマだ」っていうまきっちもいる‥‥あ、今医務室から愛依さんも来た。


「ぬっくん~。そりゃゲームのやりすぎだ。別に魔王に、ラクに勝てんならそれでイイじゃん?」

「いや麻妃。絶体絶命からの一発大逆転ってのが男子的なロマンだからさ」

「意外とこの世界の魔王さんが、存在感薄いんだよね。でも私はまきっちに賛成かな。被害が少ないほうがいいじゃん」

「わたしも麻妃ちゃんとゆめちゃんに賛成。被害はないほうが」


 しかしまあ、「存在感の薄い魔王」って何なんだろう? 自分で言ったんだけど。


「被害っていうならさ。残りの魔族と魔物の討伐も、ラポルトがやったほうが良くない? そしたら被害ゼロじゃん」


「ああそれは」


 お茶をひとすすりしたぬっくんに、私が答えた。


「子恋さんがね。『ラポルトがやれば話は早いんだけどね、うん。やっぱりこの世界を救う戦いは、この世界の人がやらなきゃね』だって」

「う~~ん。何かものすごい正論言ってるぽいけど、ゼッタイ裏があるよね?」

「おう」

「そうね」


 うわ。ラポルト16(おなかま)から見た子恋さんも、そういう認識なんだ‥‥。




 ***




 翌日。


 物資調達で各国を訪れるついでに、市場にくり出す。


 遊びじゃないよ。泉さんに調査を頼まれたから。


「ラポルトの貿易によって各国に流通が生まれ、国が豊かになっていきます。つまり経済発展していくということ。そうするとマイルドインフレ、モノの値段がゆっくりと上昇していきます。仮に100円のモノが120円に値上がったとして、でも収入、お財布の中が100円硬貨一枚のままだったらどうかしら? 相対的に貧乏になった気になりますよね? これ、モノがあるのに通貨が足りない、という状況なんです。通貨の価値に対してモノの価値が下がってしまう、デフレです。じゃあ通貨を増やせば? ‥‥いいえ。この世界の通貨である金属硬貨は、急には増やせませんよね? だからこの簡単に増やせる『カノン・ギフト』で調整をするんです。経済成長する分、通貨供給量(マネタリーベース)も増大するべきなんです」


 う~~ん。


 立て板に水、ってこんな感じかな? 私は知識が無さ過ぎて反論できないよ。いや反論前提とかじゃないんだけど。

 なんか泉さんがものすごい正しいことを言ってる感じがして、でも何か少しだけ引っかかる気がして。

 でも普通の中学生じゃあこれに意見言うのはムリだよ。とりあえず泉さんの言う通り、市場の価格を調べて報告することにする。‥‥デフレになるのは良くない気がするから。



「でもどうやって国に『カノン・ギフト』を渡すんだろ?」


 市場でメモを取りながら、ぬっくんが呟く。


「はいっ、って渡すんじゃね?」

「それじゃ、差し上げる、のと同義ね」

「タダであげてる、ってこと?」

「あの泉さんが?」

「そんなことする?」

「あ、泉さんにメリットがあるなら、やりそうだけど?」

「『泉さんにメリット』って。『ラポルトにメリット』じゃね?」

「いやいや、『魔王軍に相対する人類同盟にメリット』で無きゃ、ダメだよ」

「真面目だな~ぬっくんは」

「ダメだよ。こんな状況を利用して、自分だけ金持ちになろうなんて」

「でも、泉さんがそんなことはしないとは思う」

「世界をより良くするべき最善手を打って、それで結果的に金持ちになってるかも、な可能性はあるかもだけど」

「あ、それっぽくね?」

「う~~ん」

「だめだ。状況が見えない」

「「う~~ん」」


 そもそも基本的な知識が無いから、議論にもならないよ。



「ああ、非常に良い質問です。それはですね」


 後で泉さんが教えてくれた。


「ラポルトが『銀行』になれば良いのです。‥‥というか、もう『ラポルト銀行』として稼働しています。A国は、例えば一億円の借り入れをラポルト銀行に申し込みます。そうしたらラポルト銀行はA国に、一億円の額面の『カノン・ギフト』をお渡しします。‥‥そして、今回のようにラポルトがA国から物資供与、補給を受けたとしたら、その借り入れの中から額面分を相殺します。例えばこのカミヒラマから1,000万円分の補給を受けたのなら、一億引く1,000万円で残額9,000万円の借金、ということになりますね。あ、ラポルト銀行視点では『マイナス9,000万の預金』でもありますが。あとはカミヒラマが国の公共事業とか、兵士さんへのお給金として「カノン・ギフト」を払えば良いわ。こうしてカミヒラマ国は、金属硬貨を作る原材料費や人件費、時間を費やさずに市場に紙幣を供給していくの。ウインウインですね」



 う~~~~~~~~~~ん。



 何か、こども銀行券の紙切れを渡して。

 食料その他を無料でゲットしてる気分なんだけど‥‥?


 ラポルトに借金して、「カノン・ギフト」を手に入れるって?

 金貨一億円分で、一億円分の「紙切れ(カノン・ギフト)」を売りつけてるのとどう違うの?



 う~~~~~~~~~~ん。



 本日の結論。





 やっぱり。泉さんも得体が知れない。怖い。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ