第二部 第53話 情報戦②
ここが海で良かった。
愛依さんとぬっくんが生み出したものすごい火柱は、まっすぐ四天王のところに伸びていって、ものすごい水蒸気を発していた。
四天王はもう跡形も無い。‥‥ただ、彼らの足場だった岩が、どろどろと赤く溶けていて。
それも海水で黒く冷えながら、ゆっくりと波間に沈んでいった。
その景色を横目で見ながら、前部デッキ、そこに倒れていた私は身を起こす。
全員無事だよ。立ってたのは愛依さんとぬっくんだけだったけど。
「ぬっくん、今のは?」
一体何が起こったのか? どうして威力が激増したのか?
解説パートプリーズ。
「うん。みんなも、【大魔力】、って聞こえた?」
彼は消耗した愛依さんを気づかいながら、周囲に視線をひと回りさせた。
「成功したのですね。ああ」
「うん。何とかね」
冷静な春さんが、上ずった声を上げる。
「愛依は、今はその中で眠っているエイリア姫と交信したんだ。姫の【大魔力】と【リンク】したいってね。ほら、【リンク】って心の絆の太さが大切とかって言うじゃん? 愛依とエイリア姫はもともと同キャラ扱いなんだから、相性いいハズだろうから」
なるほど! ‥‥‥‥ってそんなこと、可能なの?
「あの‥‥‥‥」
愛依さんがよろけて、ぬっくんが後ろから力強く支えた。
彼女は、彼の胸の中で少し深呼吸をすると、ぬっくんの瞳を見て決意の首肯をして。
恐る恐る切り出したよ。
「‥‥わたし‥‥グラッセンでゼノス王子に捕まった時‥‥色々揺さぶりを受けたんだけど‥‥」
震える愛依さんの手を、ぬっくんが握りしめる。
「彼が、ゼノス王子が‥‥あの時土壇場でゼノス君に切り替わったのね。あっちの世界の兵隊さんの、ゼノス君。それで【スキル】を使用した。ゼノス君のほうの。‥‥‥‥えっと。‥‥だから‥‥わたしにもできるのかなあ、って」
涙が出てきた。
愛依さんは、そんな辛い体験の中でも、戦いのヒントを得ていた。
前を向いて進んでいた。
なんて強い、立派な女性なんだろう。
春さんが補足する。
「姫様は逢初さんの中では半覚醒状態、です。ですがその表現の通りここぞ、という時には起動可能、つまり愛依さんが姫様の【覚醒】、呼び出しが成功したということなんです。今回は、一瞬ですが愛依さんと入れ替わり、【大魔力】を発動、逢初さんとの【リンク】につなげたのでしょう」
え~~と?
つまり?
愛依さんの【古代語魔術】
エイリア姫の【大魔力】
ぬっくんの【閾値不覚】
一個単独でも反則みたいな能力の、まさかの三重の【リンク】‥‥‥‥!!
「そんな、エイリア姫の大魔力で愛依さんが古代語魔術放って、それをぬっくんが数倍の威力にするなんて‥‥」
「いえ、本当に反則なのは、あなたの【固有スキル】ですよひめさん」
え? 今何か言った? 春さん。
「いいえ。何でも」
愛依さんを労りつつ、ラポルト艦内に戻る「【古代語魔術】ブッパ班」。
そこには他のメンバー、附属中三人娘も集まっていた。
「いや~。望外の火力だった。うん。四天王お約束の『グギャアアアア!』も言えずに消し飛んでったからね」
「本当にすごかったわ。お疲れ様」
「お帰りいちこ。みんなも怪我は無い?」
などなどお言葉をいただく中で、私は思いだす。
「子恋さん! カミヒラマ行かなくていいの?」
彼女は冷静だった。
「うん。実は戦略物資の集積所は、分散して各所にあるんだ。だって『そこ一か所が潰されたので、人類の反撃の目が潰えました』、なんてギャグだからね。当然リスクは分散してある」
「弾薬を分散して貯蔵する、みたいなものね」
なるほど。‥‥‥‥でもそれが「助けに行かなくていい理由」?
「いや、実は守備隊には『勝てそうに無い戦力が来たのなら、物資を盾に逃げるように』って最初からお願いしてあるんだよ。うん。今回の魔王軍襲来の作戦目的が『集積所の陥落』なら、無暗に追撃して来ないだろうし、ね。今回は、『戦略家』として立案させてもらったよ。残念ながら集積所のどこかは潰される前提。でも他の集積所は残る。その中で、こっちは四天王をどれだけ削れるか? だった」
やっぱり。子恋さんは色々読んでたのね?
「あくまである程度だよ。三つの集積所に、四天王が各ひとりずつ来たかも知れないし、魔王自ら来たかも知れない。まあ私だったら能力未知数で目障りなラポルトに、戦力集中させるけどね。で、前に話したように、魔王軍に『焦りの感情』があって、やっぱりこっちに四天王が来た、ってこと。‥‥‥‥あと、まだ訊きたいことがあるんでしょう? 姫の沢さん?」
「そうだよ。ラポルトの特殊機動、必殺の『プリンセ・アサルト』は何で出さなかったの?」
私の代わりにぬっくんが訊いてくれた。
ちなみに「プリンセ・アサルト」は例のラポルトの「上空10,000メートルからの降下突撃」を、例の女子会議で名付けしたヤツだよ。他にも「ティア」(欧圏語で光の女神、の意)、「バシリス」(欧圏語で王女様、の意)なんて候補があったんだけど、わかりやすく「プリンセス」に落ち着いたらしい。
まあみんなで艦名を「ラポルト」に変えちゃう子たちだし。
ぬっくんの「ベイビー・アサルト」と対になってるのも、なんかおもしろいね。
で、ぬっくんの質問に対する子恋さんの回答。いえ、解答。
「読まれてた」
「「え?」」
「罠を張っていた。恐らく魔王が。根拠は、四天王の登場とその動き」
「「えええっ!?」」
驚愕!
「姫の沢さん。戦闘中に私が『魔王軍はラポルトの情報収集をしてたハズ』って言ってたの憶えてる?」
言ってた。確か。「確信を得たから、こうなってる」とか。
「そうそう。そうなんだようん。順を追おうか。じゃあ魔王軍視点で‥‥
①ラポルト出現。異世界の戦艦か? デカい。素早いぞ?
②急いで情報収取だ。ゼノス王子の周囲に網を張れ。
③王子筋の情報。あの戦艦は高火力と、上空から一瞬で地上に降りる機動をする。
④転移者発見。紘国関係者。やはりだ。特殊な機動をする裏が取れた。
⑤③と④の情報すり合わせ。ラポルトの能力を確定したぞ。
⑥では逆に、それで罠を張ってやろう。ヤツが得意の特殊機動をすべく上空に向かうのならその先に‥‥。
て、具合かな」
子恋さんはスラスラと、平然と言った。
「魔王サイドには、『これだけ情報を暴いたぞ。まだお前らは気づくまい』っていう奢りがあった。『そんな必殺技があるのなら、是非使ってくるだろうなあ』という誤認も。あと、これすごい重要なんだけど。二ヶ所以上から同じ情報がもたらされると、人間って、それを真実だと思い込んじゃうんだよね。あ、違う。魔王と魔族だっけ。で、まあ結局、今回彼らが集めたラポルト情報は真実だったワケだけど、それを逆手に取ってやったんだよ。『ラポルトは必ず上空に向かう』っていう先入観に囚われて、視野狭窄になると読んだんだ。彼らは、真実を得てしまったゆえに、ね」
いや、アナタ。‥‥真実を暴かれといて、それを逆にエサにするとは。じゃあどうやったら子恋さんに勝てるの?
「それにこちらの切り札。3人のコラボ【リンク】情報は秘匿できてたしね、うん。集積所1個と四天王3人の交換なら、断然こっちの戦果が上だね」
恐い。やっぱ怖すぎるよ。この人。
「いやあ。やっぱり情報戦は楽しいね。うん!」




