第二部 第52話 子恋光莉Ⅱ①
「ひっひっひ」
「どうしたのまきっち」
シュゼッツテンプル村の公園。私は親友と、星空を見ている。
「いやあ、愛依はクソ律儀だから、きっとひめっちをぬっくんの第二席あたりに推すんだろうなぁ」
「でも異世界での記憶って、あっちには持ち越せないって聞いたばっかじゃん? 春さん曰く『義体の上位互換である生長補綴体にも、異世界間を越えての記憶の保存は無い』って」
「じゃあ敵のゼノス王子とか、仲谷さんや姫さんは、どうやってこっちの記憶を持ったままあっちで動いたり、こっちに戻って来てたりするんだよ? おかしいゼ☆」
「‥‥あ‥‥!?」
「ウチは何かご都合でコロコロ設定変えてる気がするゼ☆ あ、たぶん今回春さんの言ったことは、嘘じゃあ無いとは思うけどね」
「う~~ん」
***
「おいで。ひめちゃん」
「‥‥‥‥は‥‥‥‥はいぃ」
翌日、戦艦ラポルトのぬっくんの個人部屋。
愛依さんからの鶴のの恩返し的なことが、早速あった。
重婚制度ゼロ世代だと、理解しにくいかもしれない。奇妙に映るかもしれない。
普通に多数の嫁をもらってた、紘国の戦国時代、側室制度的な感覚、と言ったほうが近くてわかりやすいかもしれないよ。
どうせ奥さんは四人来る。絶対来る。
だから第一席の子は、こう考える。
なるべく気心の知れた人に、第二席とかに来て欲しい。
「変な子にかき回されるくらいなら‥‥」って。
こっそり奥さんが、自分の親友をダンナ様に紹介するパターンは実は多いんだよね。これは女子だけの秘密。「重婚第三世代」の、私たちのコンセンサス。
ある意味切実とも言える、一夫多妻制を生きていく私たちの知恵だよ。
かくして私は、「ぬっくんの部屋にたまに遊びに行ける幼馴染」の人生を手に入れた。
***
ここのところ私たちは、まるでみなと港の船員さんみたいに労働している。
「ふい~~。ラポルトに食料積むのって、大半はドローンがやってくれるハズでは?」
「こ、壊れたら直せないから、渚さんが駄目だって」
「あ~~。あーし担当の3Dプリンターか」
「‥‥‥‥。私担当のCAD/CAMが使えたら」
「無理だったな。光重合型樹脂液も金属インゴットも無かったからな。機器は生きてたから、それさえあれば当面は何とかなったが」
「あ~~。樹脂液だけじゃなくって。分離材とか照射ライトの替えも」
「‥‥‥‥。金属の削り出しに大量の水と、刃のついた切削バーが要る」
「水は何とかなるけどそういう消耗材。異世界じゃ、入手はムリよ、ねえ?」
ムリでしょう? あったら驚くよ。そして。
女子に荷揚げはキツイ。なので、ちょっと手を止めて、一休み。
「ほらみんな、手ぇ動かしてぇ。ちなみみたいにしっかり働くのよぉ?」
「うるっせえ! 【身体強化スキル】持ちは倍働きやがれ!」
「痛い! 七道さぁん痛いっ」
ラポルトが主軸になって魔王城に各国陸軍を上陸させる作戦は、グラロス国首都襲来、という魔王軍の攻撃によって機先を制せられてしまったよ。どうやら魔王軍の諜報が各国に少なからず入ってしまっているらしい。
それで、日程再調整となりました。このままやってたら、逆に魔王軍の待ち伏せにあった可能性もあったし「逆に良かった」と子恋さんは言ってた。
「まあ、今回の各国の挙動で、どこにどれくらい魔王軍のスパイがいるか、見当ついたけどね?」
「そうね。すごくわかりやすかったわ」
「と、いうわけで陽葵?」
「‥‥‥‥ええ。ここからは私の出番ね」
まあこの会話、毎度な感じなんだけど。相変わらず附属中三人娘は恐い。
そういえば紅葉ヶ丘さんも。
「逆にこっちも色々情報仕入れてる。魔王軍は人類同盟のチカラを再評価しつつある。警戒レベルを上げて、魔王城に新たな防御システムの導入を決定したっぽい。‥‥まあ、結界とか魔法障壁の類だと思うけど」
だそうです。そして春さん。
「このタイミングで、各国陸軍が魔王城に攻め込めなかったのは痛いです。それを阻むための魔族による、グラロス王都急襲だったのでしょうか。だとしたら完全にこちらがやられました。後手を踏みましたね」
う~ん。私はムズカシイことはわからないから、とにかく目の前の仕事をがんばるよ。
ちなみにゼノス王子の国は、そのスパイを取り込んで今回の襲撃タイミングを画定したフシがあるよ。もし一味をひとりでも捕縛できていたら、それが証明できていたかもしれない。
愛依さんの件は、「対魔族のために人類が手を取り合わねばならない」というお題目のために、大きな問題にはできなかったみたい。あくまで王子個人が「愛依さん」という人材を勧誘しようとして「ちょっとやりすぎた」みたいな。だから。
ゼノス王子とアトミス王国の今回のやらかしは、公には糾弾できなかったよ。
うう。くやしい。釈然としない。
「あらあら。どうしましたか?」
泉さんが来た。「菜摘班」と「メンテ三人組」プラス私とぬっくん、の面子を見回す。
「物流で、人類側の対魔王軍能力を高めましょう」
先日、みんなが集まった艦橋で、そう言ったのは子恋さん、その後具体案を作成したのは泉さんだった。
「物流?」
「ロジスティクスのことですね。回漕業」
「あ~~! また仲谷さんが難しい言葉知ってる!」
「え? でもそれで倒せる系の存在なの? 魔王って?」
「さすがにそれは、ちょっと飛躍しすぎな気が?」
「うん。まあ聞いて。例えば生産量豊富なグラロスの農産品をカミヒラマに運んで、帰りに優秀なカミヒラマ製の武具をグラロスへと運んだら? 『どちらの国も豊かになって軍事力に割けるリソースも増えます』と、そういうことなんだ。別にこれだけで魔王を倒そうってワケじゃないよ」
「あ~~。あ~しらで出来ることからやってこう、的な」
「うん」
にっこりとうなづく子恋さん。でも。
あの時の彼女。例の暗黒微笑を浮かべてたよ。




