第二部 第51話 翼Ⅲ
※ 「翼」の投稿順序について。
投稿としては第一番目にくる今話の「翼Ⅲ」ですが、物語中の時間軸順では第一部の「翼Ⅰ」、第三部の「翼Ⅱ」の後となります。
なので、今話はいきなり「翼Ⅲ」です。
ややこしいですが、書いてるこちらは楽しいです(←おいコラ!)
ラポルトを運航して、ユーズナーカホカ村へ。
今回の騒動があって、魔王城攻略はリスケジュールされて。
私たちは、改めて少しの間静養期間をいただいた。
実は、ラポルトはグラロス朝との軍事同盟を、きっちり果していたんだよ。
私たちが朝食を食べていた時、魔物や魔族の襲来があった。あの時艦に残っていたのは紅葉ヶ丘さんのみ。
ラポルトのレーダーはこの異世界ではチートだから、彼女が一番最初に襲撃を察知したってことになる。
そのまま安全確認して上空1,000メートルへ。敵と距離を詰めながら砲塔展開してエネルギーチャージ。
敵魔族の目標もやっぱりラポルトだったみたいで、艦が停泊する方面から固まって接近したらしいけど。
距離5,000メートルで、主砲斉射。
ここで敵勢力の大半をやっつけてくれたみたい。完全な不意打ちで、敵がまだひとかたまりだったのも功奏したよ。
その後第二射。
この頃王宮では、ラポルトが緊急浮上したのを見張りが確認。
あらかじめの取り決めで、非常灯を点けながら緊急浮上した時は異変か敵襲だと決めてあったそうで、王宮では騎士の緊急招集がかけられた。
王宮内で作戦会議をしていた子恋さんと渚さんにも、この頃知らされた。
生き残った魔物が、王都へ特攻しだした。あのまま砂漠にいたら、ラポルトに狙い撃ちされるだけだからね。たぶん魔族がそう判断して「とにかく街に入れ」って命令した、と。
で、この頃王都に警報が流れる。人々も異変に気付く。ラポルトは市街地に向けては撃てないから、停泊地に戻って乗組員の収容を開始する。
いやあ。ラポルトの主砲は海を越えて何百キロも離れた艦隊を茹でてたもんね。曲射砲撃だっけ。私たちに音が届かない郊外で、こんなことになっていたとは知らなかったよ。
あと紅葉ヶ丘さん最強すぎ。もう対魔王軍ひとりで良くない?
まあそれは冗談として、やむなしとはいえラポルトのエネルギーも減ってしまったので、私たちは少し休養。愛依さんの禊の件もあって、ユーズナーカホカ村へ再び来たのでした。
「‥‥‥‥」
前回あれだけ恥ずかしがっていた愛依さんが、泉の前で入念に身体を洗ってる。こっちが目のやり場に困るくらいだよ。
ここは丘の中腹。ドローンだったら愛依さんの裸体は丸見えになりそうな状況。なのにそれよりも洗うことを優先する、ということは。
誰かにもう見られてしまったから? 奪われてしまったから?
やっぱりあの小屋で、「そこまで心境が変わる何か」があったのかと勘ぐっちゃう。
ぬっくんは、前回通り丘の入り口で見張りをしてくれてる。
伝えよう。私のキモチ。ふたりのために。
何より、私自身のために。
***
わたしは、温泉街の旅館に泊まることになっていて。
その宿屋の二階、べびたんが泊まる部屋をノックする。
「愛依?」
「うん」
「待ってたよ」
「ごめんなさい遅くなって」
ここは、少し南に向かったシュゼッツテンプル村。あの古代語魔術の本があった図書館がある、ユーズナーカホカ村と同じ感じの温泉街。
ラポルトを動かして、わざわざわたしのためにユーズナーカホカ村まで来てもらった。ゼノス王子たちに受けた屈辱を雪ぐべく、身体を清めて温泉に入った。
源泉の効能は変わらず。すごかったよ。ちゃんとわたしは浄化されたと思う。この身体が実は仮初めのもの、だって言っても、わたしが受けたことは感覚として記憶として、わたしの脳に刻まれる「消えない傷」のはずだった。
だけど、ひめさんが助けてくれた。
まず発現したという【固有スキル】で、わたしの負の感情も記憶も取り去ってくれて。無力感にさいなまれていた暖斗くんにもそうしてくれた。
そしてさっき、意外なことを言われた。
「愛依さんいい? わたしはぬっく‥‥咲見暖斗くんが好き。あなたが好きになるずっとずっと前から好きだったの」
「うん。‥‥麻妃ちゃんから聞いてるよ。そういう人はきっといるし、その人が現れるのも覚悟はしていたの‥‥」
「でも私はヘタレだから、暖斗くんの最初の奥さんになるのはあなたに先を越されたよ。これは自業自得だとは思う」
「う‥‥わたしはどうすればいいの‥‥?」
謝罪? 身を引け? そんな言葉が頭をよぎっていたのだけれど。
彼女は、邪気のない表情でまっすぐにわたしを見た。
「暖斗くんと早く『仲良く』なって。もっと早く。そうしないと私とか、後がつかえているんだからね」
宿の外は、もうとっぷりと暮れていた。
「ひめちゃんが、そんなことを‥‥‥‥」
「うん。それで、この宿を用意してくれたのよ。ここで『仲良く』してって」
わたしは浴衣姿のまま、仰向けの彼の胸板に身体を預けた。
最初少しひんやりして、そして暖かい。
「ひめちゃん、僕にはそんなことは一言も」
「でも、彼女がべびたんを好きなのは知ってたんでしょう?」
「うわ。『べびたん』って」
「言うよ。わたしは、人生の大切な瞬間には、ちゃんと暖斗くんを『べびたん』って呼びたいの。で、気がついてたの?」
「う、うんまあ。ひめちゃんはすぐテンパるから。それに麻妃が冷やかしてきたし。‥‥あ、‥‥あれだな。中学入ってひめちゃんだけ別の中学になって、麻妃のヤツが『ひめがああした、こうした』って勝手に情報投げてきて、『逢いたくない? 逢おうよ』みたいなフリばっか多くなったから‥‥‥‥」
「なるほど、ね」
「さすがに、僕でも気がついたよ。もう、ほぼほぼ答え言ってる時もあったし」
彼はずっと、わたしの髪を撫でていてくれた。
でも今日その手は、髪以外のところにも触れている。
「ごめん愛依。また守り切れなかった」
「ううん。ちゃんと守って、救い出してくれたよ。わたしは守られたよ。‥‥‥‥でも今回は、さすがに色々されちゃったかも」
「ごめん」
「いいの。知ってる? わたしたちあっちの世界に戻ったら、ここの記憶とか全部無くなるって」
「え?」
「らしいのよ」
「本当?」
「うん‥‥‥‥だからいい意味で、彼らに受けた屈辱も忘れるし、悪い意味で、今からあなたとする行為も忘れてしまう」
「痛しかゆしか。でもいいや。あっちの世界に戻って、ちゃんと、一から婚前同居をすればいいんだよ」
「うんっっ!!」
わたしは少しだけ、浴衣の襟を開けた。
「わたしの『超記憶』でね、今から正確に言います。わたしが、あの小屋で、『彼らに、何を、どこまでされたのか?』、を」
彼がわたしを、無言のまま力いっぱい抱きしめた。
「だからわたしのべびたんは、それを上書きする、すごいことを‥‥わたしに‥‥‥‥して」
声がうわずる。耳元で囁くつもりが、キスになった。
「忘れさせて。お願い、わたしのべびたん」




