第二部 第50話 【固有スキル】Ⅰ②
愛依さんの、あの時の理由。
違和感の正体がわかったよ。
彼女はナゼか今も、「キモチを揺らされた」エイリア姫の影響を受けてしまっている。
あの時、ゼノス王子が愛依さんの布の中に手を入れて、彼女が恍惚とした表情で抵抗しなかったのも、諸々の【スキル】のせいだったんだね?
卑劣な!
卑劣だよ!!
国の王子ふたりがかりで【スキル】を以って、愛依さんを、愛依さんの心を、弄んでいた、ってことでしょう?
「‥‥‥‥こんな‥‥こんなわたしじゃ‥‥暖斗くんに顔向けできない‥‥‥‥だから」
ぽろぽろと涙が落ちた。
愛依さんはひとりで耐えてたんだ。しかも、エイリア姫の名誉も守りながら。
世の中には!
許せるイケメンと許せないイケメンがいる!
ゼノス王子は、わたしにとって後者!
これでぬっくんと愛依さんが別れたら、それこそダブルゼノスの思うつぼじゃない!?
「‥‥‥‥ぐぬぬ‥‥‥‥」
私は怒りで、愛依さんをなでる手が震えていた。‥‥‥‥そう、手が‥‥‥‥あれ?
私の手!
ってか全身!?
なんか光ってる!?!?
怒りのオーラみたいのが、音は無いけど「ふしゅうぅぅぅ」って感じで立ち上って。
「あ‥‥‥‥あ‥‥‥‥ああっ」
私が抱いていたからかな?
愛依さんが、そのオーラに包まれてしまった。
やばい! 私のチカラ? 何がどうなってるの?
その光は、くまなく愛依さんの全身を包んで、そのままゆっくりと消えていく。
その光が収まる最後、愛依さんの目から綺麗な雫が、その残光を集めながら滴り落ちた。
「‥‥‥‥無くなった」
何が?
「‥‥‥‥収まった」
愛依さん?
「ひめさんすごい! わたしから、お腹の火照りが消えたのっ! イヤな気持ちも! ほらっ!!」
愛依さんは、立ち上ってくるりと一周する。
「まるで! あの温泉みたいっ! いいえそれ以上よ!?」
とびきりの笑顔を向ける愛依さん。ああ‥‥‥‥そう。この娘はこんな風に笑うんだよ。
その後。
愛依さんに頼まれて、私はぬっくんの部屋の前に来ていた。
ラポルトの3Fは男子階。誰もいなくて怖い。
「どうぞ」
ぬっくんは、ベッドに腰かけて下を向いていた。
「ぬっくん」
「何?」
「愛依さんのこと」
「‥‥やっぱりそのことだよね。‥‥僕は今回も無力だった。愛依はまた敵兵に何かされたんだよ。様子が変だったし。無抵抗な感じだし。‥‥愛依に申し訳ない‥‥僕は無力だ」
「そんなことない。ぬっくんは重力で敵をやっつけたし、私にとってヒーローよ」
「‥‥ヒーローか。‥‥ははっ。ホントのヒーローなら、愛依がああなる前に、もっと早く助けるよね? 愛依は、あのゼノスと視線を交わしていた。一日中一緒にいたんだ。あんな薄着なんておかしいよ」
彼は俯いたままだった。
私は自分の服に目を落として、一瞬躊躇してから歩みを進める。
「ぬっくんお願い」
「何?」
「立って」
「‥‥‥‥いいけど」
「そしたらハグして」
「え?」
「いいからして」
「ひめちゃん?」
埒が明かないのはわかってたので、目をつぶって。
わたしから「えいや」と抱きついた。腕の中でぬっくんが固まってるのがわかる。
そのまま、あの性悪王子のにやけ顔をつとめて思いだした。
「ひめちゃん!?」
シュウウゥゥ‥‥って効果音は無いけど、例の光が無事発動。私の腕の内側のぬっくんは、光に包まれた。
「‥‥え? ‥‥えっ?」
光が収まったら、彼から苦悩が消えていた。表情からそう感じた。
「すごいよひめちゃん!」
「えへへ」
思わず彼が抱き返してくれた。
「ひぁっ!?」
私のひざが崩れる。
今、ぬっくんの悩みを消したくて私からハグしたけど。
あらためて彼に抱かれると、全身のチカラが抜ける‥‥‥‥!
「おっと?」
ぬっくんに支えられる。
と、お互いの身長差が目に入った。私のほうが、彼より数センチ高い。
「「んっ」」
同時だった。同時にぬっくんが背伸びして、私が膝を曲げたから、ふたりの身長が行き違いになって。
「「あはははは」」
それを見つけて、目が合って。
また同時に笑った。
***
「‥‥‥‥待っていました。ひめさん。その【固有スキル】の覚醒を」
次の日。
ことの顛末を春さんに報告したら、この言葉が返ってきた。
‥‥‥‥ああ。春さんは秋さんの【予後】で、この未来を予測していたかもね。
「で、一体どういう能力なの?」
「そうですね。精神操作系の【スキル】でしょうか?」
げっ!? それはイメージ悪い‥‥。
「いいえ。対象の悪感情を、つまり悲しい心境やつらい体験などを、そういう気持ちを反転させてポジティブな気持ちに変換させる能力のようです」
むお? それっていいこと?
「悪いことでは無いでしょう? 人間、生きていれば色々あります。ひめさんの能力は気持ちを『消す』のではなくて『浄化する』性質のようです。悩める人がいれば、救いの天使のような能力のハズです」
「そ、それならいいんだけど」
「すごい能力、のハズです」
「語尾が気になるっ! ‥‥それにだったら、‥‥私の能力で気分は変えられても、お悩みの根本原因はそのまんまよね? それって意味あるの‥‥‥‥?」
いまいちまだ実感が無いよ。試したのが愛依さんとぬっくんだけだもんね。
ラポルト勢は我が親友も含めてメンタルつよつよだから、これくらいのことがないと私のこの【スキル】は出番はなさそう。
う~~ん、と朝日に向かって両腕を伸ばしてストレッチをする。
まあいっか。
愛依さんとぬっくんを助けられたから。
取りあえず、今回はそれで。あ~~。
なんか急に、お腹空いてきちゃった。
「‥‥‥‥ふっふっふ。まさか、愛依さんにかけられたデバフを浄化してしまうとは。『靈能巫女魔法【真心】』、ついに覚醒しましたね、ひめさん。中々能力が発現しないので私はひやひやしましたよ。‥‥もちろん‥‥この能力はこれだけで終わるワケがありません。ええ、ええ、そうですとも。‥‥‥‥だって‥‥‥‥貴女はこの世界にただひとり生まれた、『聖女』なんですから‥‥。‥‥ええ。‥‥ええ。悩める人を救うのなら、教会の神父様でもできます。紘国世界の心療内科でもできます‥‥‥‥。そうではないんです。貴女は、その類稀なる【聖女の固有スキル】をもって、この世界に光を灯す存在なのですから‥‥‥‥」
「ん? 春さん何か言った?」
「いいえ(ニッコリ)」




