表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
468/520

第二部 第50話 【固有スキル】Ⅰ①






「ぬっくんの敵は! 私の敵だぁ!!」


 王子だなんて、私知らないっ!


 ヒドいことする人は、許さない!


 私は我を忘れて、王子の顔にグーパンチを入れ続ける。彼の手から愛依さんが落ちた。


 幸い、というか、障壁魔法を使って転移陣を守ってる敵三人と、ぬっくん方面に攻撃を続けてる部下さんたちは、わたしを止めるには手が足りなかった。


「ぐえぇぇ‥‥」

 体育会系の日焼けした爽やかな顔が、ボコボコになって腫れていく。マンガみたいに。


「私は【許さない】から!!」


 歯を食いしばって、腕を振りかぶって、腰を入れて。


 渾身の右ストレートをイケメンに叩き込んだ。


 ‥‥‥‥ってあれ? 私の拳が光ってる? ゼノス王子も‥‥顔がマンガみたいに変形して‥‥?



「も‥‥うにゅ‥‥ら」


 変形した顔面で発音もままならなそうに、ゼノス王子は何か口走って両手で顔を覆いながら転移陣に消えた。


 部下の人もそれを見て、煙幕みたいな大きな魔法を使って撤収していった。



「ひめちゃん!」

「愛依さん!」


 私は煙の中、愛依さんを確保していた。ぬっくんたちには、ケムリの中から愛依さんを抱いた私が出てきたように見えたかも。

 転移陣は消えていた。



「我が王都で賊が蔓延ったのは、こういう逃げ道を用意しておったからか」


 騎士団長さんが忌々しそうに、小屋の壁を叩いていた。



 助けられた愛依さんと、ぬっくんが目を合わせなかったのがちょっと気になった。




 ***




 私たちは、「義体(テンポラリ)」と「生長(プロビジョナル)補綴体(レストレーションズ)」について説明を受けていた。


 確かに、「生長(プロビジョナル)補綴体(レストレーションズ)」って生体とほとんど違いが無い。言われないとわからないよ。


 愛依さんは今回、(とき)さんの未来視で「無事確保」が予見されていた。後で私たちの作戦行動を秋さんと検証したけれど、大きな齟齬、未来視を壊すような行動は無かったから、愛依さんの「無事」は確定した、はず。


 だけどモヤモヤする。愛依さんが何かつらそうだから。


 私たちのこの身体はここ異世界では「借り物」、「レンタカー」、「アバター」だよ?


 って彼女には、みんな言ってたんだけど‥‥‥‥。



 やっぱり。



 ぬっくんへの、彼女なりの想いかなぁ。





 私はそんな気持ちを抱えたまま、厨房係を続けている。



「よっ! ひめっち」


 愛依さん奪還作戦の次の日の夕食後。


 厨房で食洗器の仕事をチェックしていた私に、まきっちが声をかけてきた。


「愛依さんは?」

「自室で寝たよ」


 彼女はあれから、ずっともの静かだった。病んでる、落ち込んでる、ってほどじゃないけど精気が無い。そんな感じ。

 まきっちがずっと付き添っていた。


「実はひめっちに朗報を持ってきた。愛依からだゼ☆」


 ウインクしながらそう言う笑顔が意味深だよ。悪い予感しかしない。


「何よ?」

「愛依のヤツ、ぬっくんとの婚前同居(コハビテシオン)を解消したいってさ」

「なんでよ?」


 ギリ予想の範囲内だった。ああ、愛依さんはそう思っているワケね?


「さあ? ‥‥まあぬっくんに‥‥女子として色々引け目ができたんじゃね? だから一回仕切り直したいとか?」

「それと私と関係あんの?」


「あるよ。じゃ~~~ん! ここで‥‥ぬっくんに声をかけるタイミングを逸して逃げまくって、挙句に第一席(ファースト)まで奪われたひめっちに大チャンス‥‥。朗報だべ?」

「なんでよ?」


「いやいや、ぬっくんと愛依のカップリングが解消されれば、もう次点でひめっちが繰り上げ当選確実じゃね?」

「ぬっくんは何て?」

「知らね」


 ‥‥‥‥「次点」とか、「繰り上げ当選」とか。


 もう! 何なのっ!?


「そんなんで私が喜ぶわけないじゃん? まきっち‥‥? アンタ私にケンカ売ってんの?」

「いやいや、よく考えてみなよ。ひめっちにはメリットしか無いって~」


「ぬっくんと! 愛依さんのキモチ! 私がふたりの間にわだかまりがあるまま! のこのこ自分のメリットだけ取りに行くワケないでしょ!? 気持ち悪いっ!!」

「あっそ」


「私‥‥‥‥愛依さんと話する! ぬっくんとも話してみる! ふたりの幸せが消えた世界に、私の追う幸せは無いっ!!」

「あっそ」



 私は濡れたダスターを調理机に叩きつけて、大股で歩き出した。


「きしし」



 後ろからまきっちの、我が親友の笑い声が聞こえた。



「‥‥‥‥そういうことなら‥‥‥‥まあ、せいぜい頑張んな」




 そう。







 我が、親友の。




 ***




「愛依さん‥‥まだ起きてる? ‥‥ちょっといいかな?」


 ドアが開いた。部屋着の愛依さんが下を向いていた。中へ入れてもらう。



「愛依さん、聞いたよ。別にまた、あの村の温泉に浸かればいいじゃん? ほら、なんだっけ? あの長い名前の変な名前の村の!」

「ユーズナーカホカ村」

「そうそう。その村のあの滝の温泉。あそこで穢れを祓えば元通りだよ。そう。元通り」


 ミナトゥ村で盗賊に「いっぱい触られた」のを気にする愛依さんを、そのユーズナーカホカ村の温泉で浄化したことがある。(やよい)さん曰く泉質が「聖水」、効能が「浄化」の、あの温泉。

 それで解決すると思っていた。だからとにかくまずそれを推奨した。



「だめなの‥‥‥‥」



 愛依さんは、目に涙をいっぱい溜めた。取りあえず抱きしめて背中をなでる。



 それから座って雑談をしたよ。こういうのはホントは桃山さんとかが得意かもしれない。


 でも、ここは私がやらなきゃならない気がする。



 しばらくして。


 愛依さんは小屋での話をし始めてくれた。



「‥‥‥‥わたしの中にエイリア姫がいて、姫はゼノス王子に【揺変(チキソトロピー)】って【固有スキル】をかけられてたの。だから姫は王子がいると気持ちが揺れてしまう。それはわたしにも影響したの」

「‥‥‥‥!!」


「それでね‥‥実はゼノス王子の中にもゼノス君‥‥あっちの世界のツヌ国のゼノス君ね。彼が潜んでいて、わたしの不意をついて、ゼノス君の【固有スキル】、【穿通(パスファインディング)】を受けてしまったの」

「‥‥‥‥それって!?」


「うん。ふたつとも精神操作系の【スキル】。相手の気持ちを揺らす能力と、相手に自分の気持ちを刺さらせる能力‥‥。わたしはそれを受けてしまったの。だからわたしがまたどちらかのゼノス君に逢えば、また気持ちが揺れちゃうかも。‥‥いいえ‥‥どんな行動をするかわからないから」


 愛依さんが言葉少ないのは、これだったんだ。



「あとね‥‥‥‥エイリア姫が『王子に何か仕掛けられた』ってこと‥‥うかつに人に言えないよね‥‥。公人だし、彼女の名誉を守らないと」



 彼女は、自分の下腹部に手を当てた。





「実は、あれからずっと、まだ‥‥‥‥ここが熱いの」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ