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第二部 第49話 私の想い人はヒーローだった③






「愛依を、放せ」


 強気なぬっくん。たぶん剣の勝負とかになったら分が悪いけど。

 こちらには仕込み済みの武器がある。ぬっくんの「重力操作能力」だよ。


 小屋に落とした石や、王子の剣をとした能力。


 日没(ディーシ)



 あらかじめ場所を決めて、その上に石を浮かしておく。それでぬっくんが任意で「重力操作」を解除すれば、手作り隕石みたいに想定した場所に落とせる仕組み。

 人の頭くらいの石(岩?)でも、50メートル上から落とすとかなりの威力になる。


 愛依さんが監禁されてる小屋を外して、外の施設を狙ったんだよ。



 でも、愛依さんの様子が、やっぱり変だ。まとってた白い布、よく見たら服やマントじゃ無いよ。それに下着姿? それに布巻いただけ?


 それに‥‥ゼノス王子が布の中に手を入れても‥‥驚かなかったよね。


 私のオンナの勘が警報を鳴らしまくってる! 愛依さん、大丈夫なの?



「今見えてる人で、敵は全部だね。じゃあ」


 地響きと共に、ぬっくんが浮かしていた石を全部落とした。あの小屋の半分が粉々になる。


 敵の魔法使いみたいな人が、ゼノス王子に首を振った。「魔素が動いた気配がほとんどありません」って聞こえたよ。



「何度も言わせるなよ。石につぶされたくなければ、愛依を放せ」

「‥‥いや‥‥この人質といるほうが安全そうだな。姫を解放した途端に石の餌食にするつもりだろう?」


 って言って王子は、愛依さんを引き付けてさらに布の中の腕を動かした。「やめろっ!」って思わずぬっくんが叫んだ時、愛依さんは地面に突き飛ばされていた。


「あっ!?」


 ぬっくんの視線が愛依さんに向いた瞬間、その後ろからゼノス王子が飛び出していた。素早く足下の短剣を抜きながら。手下も襲いかかって来る。


「うおお!」


 手下には春さんと私が反応していた。騎士団長さんが王子と切り結んで、王子の防具に刃を当てて押し返していた。

 再び愛依さんの元に戻ろうとする王子。また人質に取る気だよ!



 地面にぺたん座りする愛依さんに、王子の鍛えた腕が届きそうなところで、王子の足がもつれた。

「ぐぁ!?」


 王子は土の上を、運動会で派手に転ぶ誰かのパパみたいに滑っていた。愛依さんのほうに、彼女を求めるように手を伸ばしたまま。


 そしてその「手」も、どちゃりと地面にくっついた。


「させないよ」


「‥‥‥‥オマエの能力か‥‥‥‥」


 ぬっくんは答えなかった。


 ゼノス王子は思い至らないんだね。この異世界は人ならざる能力はみんな魔法だもんね。


 ぬっくんの「重力制御」は、あくまで「重力子エンジン」、正確には通電させれば重力を発生させる「重力子回路」が自身の近いところに無いと実行できない。これは魔法じゃ無いし。

 これ実は。「メンテ三人組」に装備を借りたんだよ。彼女たちはDMTとかを装備する時、いつも作業着だったよね? その作業着には空調とか七つ道具入れとかがあるんだけど、高所作業用に必ず重力子回路が装着されてるんです。


 紘国は男手が凄まじく足りないから、機械メンテはなるべく女子に担って欲しい。でもさすがに鉄製の重っっい工具を何本も腰からぶら下げたり、肩高18メートルの人型兵器のお手入れをするためにクレーンや梯子で高所作業するのは、女子には不向き。


 ということで、メンテ班の作業着には(男性用もだけど)安全用の超小型、重力子回路がついてるのよ。


 これで工具も重くないし、高所から万一落ちても怪我しなくてすむからね。


 で、さっきの作戦会議の時に「ラポルトからメンテ班が戻ってきた」って言ったと思うけど、その時にぬっくん用に作業着向けの回路を隠し着けたのさ!!



 ぬっくんの能力「マジカルカレント」があれば、ここ異世界でも重力を、このちっちゃい重力子回路でも十分に重力操作ができる、っていう寸法なのですよ。


 敵に触りもせず地面を舐めさせる。なんてヒロイックな能力でしょう?


 名付けて、日没(ディーシ)



「ぐ、動けんか。‥‥そうか‥‥あちらの世界の能力だな‥‥‥‥」


 地面に這いつくばりながら、顔を少しだけこちらに向けるゼノス王子。それすらもたぶん全力でやっていると思う。



「ざまあ、みろ」


 完全勝利かと思ったけど、ゼノス王子は悪態をつき始めた。


「ツヌ国ゼノスが愛依を捕縛した時、アイツは「いろいろやった」みたいなことを言っていたけど。結局それは全部、僕を動揺させるための嘘だった。今度は何だよ?」


「今回は本当に、いろいろ奪わせてもらったぞ? ふはは。しかし恨むなよ少年。運命の女神の定めに従ったまでだからな。ふはははは!」

「なんだよそれ!」


 ぬっくんが、光の消えた目で腰の剣に手をかけた。踏み込んだ前足の砂が王子の顔にかかって、彼は苦しそうに顔をゆがめる。


 私はぬっくんの腕に抱きついた。

「待って!」


 その時、私とぬっくんの身体が少し光ったような気がした。一瞬だけど。


「‥‥‥‥わかったよ。ひめちゃん」


 彼は優しいぬっくんに戻ってくれた。そういう能力とはいえ、地面に這いつくばった相手(しかも王子)に加撃するのは、たぶん良くないよ。


「‥‥‥‥岩場で愛依を助けてもらった恩は、あるにはある。アイツにはそう言っといて」

「‥‥アイツとはツヌ国ゼノスのことで‥‥岩場とはガンジス島の、あの洞窟のことか?」

「そうだ。だから命までは取らない」



 その時、囲みの外から物音がした。


「来たか!」


 ゼノス王子の掛け声と共に、数人の黒装束が囲みを飛び越えてこちらに降りてくる。

 一斉に魔法がバラ撒かれ、避けた形が愛依さんと引き離される結果になった。


「閣下!」 「うむ」


 敵の部下が防御壁を数枚張った場所、そこの中央にお札みたいなのを地面に打って魔法陣。陣に入った王子の部下がどんどん吸い込まれて消えていく。


「転移の魔法陣か。古代語魔術だ!」


 騎士団長さんがそう言うけど、もうほとんどの人が消えていた。


 ぬっくんが攻撃を受けたことで、王子はやっと動けるようになったのか、最後のほうで転移陣を目指して走っていた。

 その行く先には。



 いまだ潤んだ瞳で虚空を見つめる、愛依さんがいた。



 えっ!? と驚いたのは敵の部下たちだった。王子はこちらを振り向くとにやりと笑って愛依さんを担ぎ上げた。


「閣下っ! お早く!!」

 部下の人が、少し焦った様子で声をかける。王子は勝ち誇ったイイ感じのスマイルで、ぬっくんに振り返った。土のついた顔のままで。


「姫はもらっていk‥‥」

「そうはいかないわよっ!!!!」

「げぶっ!」


 私が転移陣に一番近かった。敵は王子を助けるため、その近くに陣を張って。

 わたしとぬっくんは王子の目の前にいたから。


 だから私が割り込めた。ゼノス王子が愛依さんに手を伸ばすのは、一瞬直感でわかったよ。


 ‥‥あれだけ、執着してたもんね?


「女の敵っ!」

「ぐぇえ!」


 殴る殴る! グーで殴る!



 私、人を傷つける人は大嫌い!


「ぬっくんの敵はっ! 私の敵だぁ!!」



 愛依さんをこんなにして!





「世の中には!! 許せるイケメンと許せないイケメンがいる!! あなたは後者よ!!ゼノス王子っ!!!!」





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