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第二部 第49話 私の想い人はヒーローだった②






「奴らは少なくとも夜まで、この王都のどこかに潜んでいる」


 このぬっくんの言葉に、(やよい)さんが意見を添えた。


「もちろん敢えてグラッセンを出て、一度どこかの村などに身を寄せる可能性もあります。しかしそうするとアトミス国の人間は相当目立つでしょう。愛依さんを拉致したということは、グラッセン内に諜報拠点、身の隠し場所を作っているから。私ならそこで大人しくしていて、機を見て抜け出しますね」

「なるほど」


 そう首肯した子恋さんが耳のインカムに手を当てて「澪、もっと細かいヤツ」と言い、彼女が答える。


「詳細マップ出すよ。カミヒラマで情報収集したヤツだからこれ、最新かつ超精緻だよ」

「そうだね、うん。砂漠周りの国家群、地勢的なアレコレは私が全部把握してる。陽葵?」

「ハイ了解。地形は私に任せて。砂漠のここからここまで網を張るわ。ドローン全機行ける? あと、ここあたりで待ち伏せる手もある」


「ふっふっふ。私たち三人を相手にして逃げ切れると思ってるのかなぁ。ねぇ? 陽葵、澪?」


 漏れだす暗黒微笑‥‥子恋さん、顔! 顔!


「もし森林ルートを採ったのなら、森を抜けたところで捕捉しましょう。ラポルトより足が速い乗り物がないのよね。この異世界」

「私らの仲間に手出したコト、心底後悔させるよ。なんならアトミスも滅ぼす方向で」



 ぬっくんの一手。「敵は夜に砂漠を越えたい」で、捜索する範囲や時間帯がかなり狭まって。そして。

 絶対に敵に回したくない「附属中三人娘」がガチの本気を出した。これなら。


「着いたけど。ここでいいのかしら?」

 泉さんの声。浮上したラポルトが、1分かからずグラロス王都上空に着いた。緊急事態だからお城の上にいてもオッケーにしてもらった。


(とき)の未来視の連続使用は‥‥」

「わかってる。だからこれから僕が秋さんのところへ行くよ。二回目はそれからだ」

「え? あ、はい‥‥?」


 困惑する春さんをよそに、ぬっくんはどんどん王宮の奥へ歩いていく。


 王の間近くのVIPルームっぽい部屋で、秋さんは待っていた。



「二回目は何時できるの?」

 ぬっくんはいきなり訊いた。


「ば、場合が場合ですので、今すぐにでも」

(とき)っ! 出来ないことは言わないで?」

「愛依さんの中にはエイリア姫の精神があるのよ? (やよい)。ガードナーたる私たちがまず最初に身を削るべき‥‥咲見さん、私たちのことは気になさらず、姫を、愛依さんを助けましょう」

「待ちなさい秋! 無理をしてあなたに何かあるのは、大局的に不味いのよ!」


 もう既に、秋さんは顔面蒼白だった。



「‥‥お客人‥‥我らの失態をお詫び申し上げます」


 ケンカになりそうな双子の横から、甲冑の武人が現れた。王都の警備責任者の騎士の人だった。


 聞くと、魔物や魔族襲来で出来た警備の穴、一瞬の細い空白を、ゼノス王子たちが縫うように進んで愛依さんにたどり着いたらしい。私たちの移動するタイミングも含めて、偶然に偶然が重なったみたい。


 もう少しだけ質問内容を検討してから、結局秋さんはこの日二回目の未来視をした。


「‥‥‥‥おぇえ」

「‥‥‥‥ゔぅ」


 春さんが嘔吐して、秋さんが鼻血を出した。ぬっくんはそれを睨むように見ていた。



「‥‥え‥‥愛依さんは、今、グラッセン郊外の小屋のような建物に‥‥」

 準備していた絵師さんが、秋さんの言葉を手早くイラストにして、地理に詳しい人が場所の見当をつけていく。

「‥‥‥‥しかし愛依さんの、様子が変です。敵将と何やら視線を交わして‥‥これはやはり‥‥」




 ラポルトの格納庫から七道さんたちが戻ってきたのと同時に、コーラ姫も陣中見舞いに来てくれた。


「我が国の、しかも王都で、このような事態になるとは。何度お詫びしても足りません」


 繰り返し頭を下げていた。出来ることは何でもする、とも。


 でもこの王都も魔族の襲来を受けた直後だよ。

 あまり期待はできないよね?




 夕方になった。コーラ姫がまた顔を出してくれた。国の専門機関(たぶん諜報部とか、スパイとかの部隊)が、該当する小屋を割り出してくれたとのこと。何しろ認識阻害とかで何重にも防御魔法がかかっていて、普通に探しても見つからなかったそう。

 でも逆に「それ」がバレたら、これ以上怪しい場所はないよね。



 附属中三人娘が突撃計画を立案してくれた。ぬっくんも参加していた。



 そこで、臥せっていた秋さんが、今日三回目の【スキル】発動をする。顔面蒼白を通り越していて、見ていられなかったよ。春さんは秋さんと【常時接続】しているが故に、秋さんの不調をもろに受ける。その場でうずくまって動けなくなってしまった。


「‥‥‥‥‥‥‥‥ぐ」


 秋さんからの言葉は無かった。私たちの「愛依さん救出計画」をここまで煮詰めた先にある未来。

 ただゆっくり右手を上げた。バットエンドを回避した「OK」のハンドサインだった。


 宮殿内に、愛依さん救出の作戦本部が設営された。

 消化の良い食事が出されて、作戦参加する騎士さんと顔合わせ。国の騎士団長さんと子恋さんが細かく打ち合わせをして。


「同行します! 秋が【スキル】を使わなければ、私はもう動けますから」

 春さんが甲冑フル装備で現れた。参加するために、ひたすら体力回復に努めていたらしい。



 日が落ちてしばらくして、私たちは目標の小屋に向かった。




 ***




 敵はほぼ、秋さんの未来視通りの行動だった。空中に「設置」していた石を落とすと、敵は小屋から出てきた。

 でも出てきた愛依さん、彼女の姿にはドキリとしたよ。だって明らかに薄着、肌を露出した姿で、それを白いマントみたいなので隠してるだけ、なんだもん。


 さらに、彼女を拘束して、意味あり気にその布の中に手をいれるゼノス王子。愛依さんは潤んだ瞳で、ほぼ無抵抗だし。


 まさか!? あの小屋で一日何してたの? でも!?



 セーフ! 秋さんの見立てではこれでもセーフなんだよね? 心配にはなるけれど‥‥?




「放せ。愛依を」


 ぬっくんは、あまり表情を動かさずに言った。


 敵のゼノスって人、あたらめて見るけどかなり強いよ。細マッチョだし、身長190センチくらいはあるし。

 ぬっくんも再会してから筋肉質になってて「あっ!」ってなったけど、それでもそもそも普通の中学生の範疇。


 この人、王子様なんでしょう? 「ふははは」って笑うのかな? 


 ズドン!

「ぐっ!?」


 大きな音に驚いたけれど、ゼノス王子が苦悶の表情を浮かべていた。足元を見ると、王子が装備してた? っぽい剣が鞘ごと地面に落ちてた。足かどっかに当たって声が出たんだね。




「愛依を、放せ」



 痛がる王子を睨んだまま。





 ぬっくんは毅然とそう言った。





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