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第二部 第49話 私の想い人はヒーローだった①





 みんなで朝食を食べに行った、王都グラロスのある朝。


 愛依さんが敵に攫われた。こんなにもあっさりと。


 まきっちもわたしも、もちろんぬっくんも、一瞬で何も出来なかった。



 ラポルトには、続々とメンバーが集結していく。子恋さんの発案で「我々の仲間に手を出したら滅ぼすぞ」放送もした。


 艦橋に、ちょうど全員集まった時だった。


「仲谷さん、いいかな?」


 椅子に座って頭を抱えていたぬっくんが跳ね起きた。「(とき)さんに連絡を」



 ぬっくんのアイデアはこうだった。

 秋さんの予知能力【予後(ネクストビジョン)】で未来を視て、愛依さんがどんな状況で発見されるか確認して、そこから逆算して動く、と。


「しかし秋の能力は万能ではありません。的確な命題か整理された質問で無いと、予知が歪みます」


 (やよい)さんは、妹を案じる素振りだった。


「それでもいい。一回まず愛依の未来を視てもらって、それに対応して僕らが動く。‥‥そうだな。ゼノスの国で発見されるんなら、僕らは今からそれを阻む準備をする。で、その未来を作った上で、もう一回視てもらう」


「なるほど、うん。未来を予見してその対処対応をして潰して、それでまた変化した未来の、その対処をまたすると」

 子恋さんはしきりに頷いていた。


「そう。それを繰り返すんだ。そうして最適解を出して、助けるんだ」

「待ってください!」


 決意した表情のぬっくんにすがりついたのは、春さんだった。


「理屈はわかります! 皆さんが愛依さんを助けたいのも。そもそも愛依さんが攫われたのは姫のガードナーである自分の責任です! しかし秋は‥‥」


 いつも感情を出さない彼女の、泣きべそのような表情。


「秋は、予知の連続使用はできないのです。以前にも複数の断れない依頼があり、試したことがありますが。予知の精度が落ちますし、何より秋が‥‥」


 春さんのこの動揺。秋さんの能力は反則級だけど、やっぱりやり放題じゃ無かったんだね。

 もし「使用回数無制限」なら、エリーシア国のクーデターも防げたし、エイリア姫が囚われたりもしないもんね。


「じゃ、可能な限りギリギリで頼む!」

「咲見さん‥‥‥‥!?」


 そんな春さんを無視するかのように、ぬっくんは言い放った。みるみる彼女の目に涙が溜まった。

「愛依に何かあってからじゃ遅い。頼む」


 真顔だった。絶句する春さん。


 ラポルトでグラロス王都に向かう手配をする。その間に、一回「双子通信」で秋さんに【予後(ネクストビジョン)】を使ってもらう。


「質問は‥‥愛依が今どこにいるのか? 見つかるのか?」

「咲見さん申し訳ございません。秋は今現在は視えません。それに質問がふたつです」

「そっか‥‥えっと」

「私も参加するわ。いいわよね光莉? 暖斗くんは愛依さんを助けたい気持ちが強いから」


 見ていた渚さんが加勢してくれた。


「そうね。愛依さんが発見される未来を調べたらどうかしら? いつ頃どこで発見されるか?」

「‥‥‥‥アトミス王国の王都で、半年後だそうです。その‥‥ゼノス王子の王妃エイリアとして、妊娠もしている様子だと」



 うっわああ!!!! 超絶バッドエンド来ちゃった!?!?


 そっか。エイリア姫の身体はクリスタル結晶の中のままだから、愛依さんをそのままエイリア姫に仕立て上げたってこと?


「しかも‥‥その‥‥愛依さんはゼノス王子になびいている様子だと。恐らく敵勢力の精神操作系の【スキル】に篭絡されている、と」


 しかも心までNTRされてる? そういうのは一部の人にしか刺さらないよっ!?




「質問を替えましょう。では、アトミス国への逃走経路を押さえたいわ。もちろん、愛依さんが何時、どういう方法でこのグラッセンの街を出たのか? どう質問したらいいかしら?」

「ちょっとお時間をください。‥‥秋が‥‥まだ回復しておらず‥‥」


「承知しているわ。回復したら教えて。‥‥それまでに論点整理をしましょう。どんな質問が有効か? それにはまず、秋さんの能力について詳しく知る必要があるけれど?」


「『未来視』って、どんな風に未来がわかるんだろ? 愛依がこの王都を出る日にちとかはわかるよね?」


「そうですね。秋の脳裏に映像が浮かぶ感じです。しかし、視た未来の映像に日付を示すヒントが無ければわかりません。それにそれ以外の能力は常人と同じです。あちらの世界のビデオのように、視た映像を隅々まで詳しく、そして何度も確認することはできません」


「そうなのね。もし映像の片隅にカレンダーが映り込んでいたとしても、そもそもそれを見逃したり、その日だと印が書き込まれているような手がかりが無ければ、日付はわからないということね」


 う~ん、と全員黙りこむ。そこへ。


「あのさ。紘国世界のツヌ国って、砂漠があるって聞いたけど、その、アトミスにはあるのかな?」


 ぬっくんがこんなことを言った。「あっ!」っと、子恋さんが短く叫んだ。


 なんでそんなことを。なぜなぜな~に? ぬっくん?


「砂漠、ありますね。このグラッセンからの行程だとまずあります。砂漠を迂回するのは恐ろしく遠回りになるので、まず選択しないルートです」

「澪!」

「地図出すよ!」

「なるほどだわ。迂回すると少なくとも数ヶ国経由する羽目になる。グラロスの友好国なら検問頼めるし、目立つエイリア姫、いえ逢初さんを連れて、は悪手ね」

「‥‥‥‥うん。そして仮に旅慣れていたとしても、砂漠は通らない、いや、通れないね」


 え?


「昼間は、ということだよ」


 子恋さんは笑った。例の暗黒微笑で。


「敵はこの空中戦艦があることをわかっている。砂漠で身を隠しながら移動するのは難しい。いや不可能だよ、うん。そういう魔法はあるかな? 春さん?」

「認識阻害や風景に溶け込む魔法は確かにあります。しかし砂漠越えの行程全てそれに費やすのは、それこそ姫様の【大魔力】くらいの容量が無いと。それに」


「うん。このラポルトなら、生体反応、金属反応諸々のセンサーがあるし、何なら岸尾さんにKRM(ケラモス)飛ばしてもらってもいいし」


 KRM(ケラモス)は、我が親友まきっちが得意とする、軍事用のドローンだよ。巨大人型兵器のサポートが主な仕事だから当然、カメラやセンサーは充実してる。


「このラポルトがある以上、日中に砂漠を超えるのは、無理。と、いうことは?」


 子恋さんがぬっくんを見た。


「私だったら、うん。ひとまずグラッセン郊外の森から外に逃げる『砂漠は通らず王都を去る』仕草をして、実はそのウラをかくかな? 夜に砂漠を越えるタイミングを窺うために。うん」



 彼は、ゆっくりと頷いた。





「奴らは少なくとも夜まで、この王都のどこかに潜んでいる。愛依を監禁しながら」






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