第二部 第45話 春と秋②
私がいる別室に、少し遅れてラポルトのメンバーが入ってきた。あ、呼ばれたの私だけじゃなかったんだ。
「呼びたててすまんな、お客人。広間でこの話はちと、できぬのでな」
ちょうど私の父親くらいの年に見える王様は、鷹揚に笑っている。そしてラポルトのメンバーは、「春さんがふたりいる」のに少なからず驚いていた。
まあ、いいでしょう。
元々春さんは、双子の妹がいる、みたいなことを少しほのめかしてたし。「秋」って名前も初見じゃないし。
まあ、いいでしょう。
エイリア姫もそんなこと言ってたし、ね。
でも何!?
春さんと秋さんが入れ替わってたって。私ぜんぜん気がつかなかったよ!?
「えっと? 私が異世界に来た時は、春さんよね?」
「ええ。そうです」
萌黄のドレスが首肯した。
言ってよっ!!!!
「で、‥‥‥‥で。い、いつ入れ替わったの?」
「ミナトウ村を出てすぐとか、でしょうか?」
「で、次に入れ替わったのは‥‥」
「僕も、ぜんぜん気づかなかった‥‥!」
「だと思います。私と秋が同じ格好して、見分けた人はいません。可能なのは我が両親とエイリア姫様のみ」
「もはや反則じゃないの!」
「あッ!!」
びっくりした! 短く叫んだのはぬっくんだった。
「あれ? そのミナトウ村でさ、ひめちゃんと春さんが来る前に、ちょいちょい春さんがエイリア姫のところに来てたんだけど。単独で。なんか報告とかしてる感じで。あれは?」
「私です」
一歩前へ出たのは、紅葉色のドレスだった。
「あう?」
「まって。ウチもう訳わからん。えっと赤っぽい色の人がその、秋さん?」
「そうです。私が秋です」
「ミナトウ村来てたよね。ウチとぬっくんとエイリア姫で暮らした時」
「はい。その時は冒険者風の装備だったと思います」
「『ハッ!』とか返事してた。片ひざついて。‥‥‥‥ええ~~。あれ春さんじゃ無かったのか‥‥‥‥」
「ちょっと待って。取りあえず萌黄色が春さんで、紅葉色が秋さんなのね? なのね?」
「はい」
「そこは親切設計なんだ」
「なんだよ親切設計って」
「いったん落ち着こう。うん。暖斗くん続きを」
「じゃあ、ええと話戻すよ? ミナトウ村の秋さんは‥‥僕もまったく気がつかなかった‥‥でもなんで」
「はい」
「それは」
そしてまた、萌黄と紅葉のシンクロ会話が始まった。「完璧に被る」んじゃなくて、「完璧に被らずに」一本のシナリオを喋ってくる、演劇部の会話劇みたいなヤツ。
彼女たちの意識が【リンク】してるってのはホントかも。だって、どっちがどこまで喋るかわかった上で、スラスラ分担して説明してくるんだもん。
「それは彼女、秋の能力が理由です。秋の【固有スキル】は【予後】。その能力は」
「ありていに言えば未来視、未来予知、です。そしてこれも先述の通り。私と春は意識記憶を常時接続して」
「いますので、秋が予知したものを私も知りえるのです。同様に私の【催眠】も常時【リンク】しているので」
「私が使えるのです。諜報や危険因子の予防的排除に、予知と催眠は相性が良い。危険な事態を予測して」
「カギとなる要人の行動を制御できれば、姫様の安全度が各段にあがります。そして」
「やはりオリジナルがやったほうが、【リンク】より確実堅実なのです。だから私たちが」
「適時入れ替わりながら、必要な任務を」
「こなしていた、という訳です」
「まあ秋が、たまには外の」
「世界に出たかった、というのも」
「ありますが」
あ、もうどっちがどっちかわからなくなった。
高速で入れ替わりながらひとつのコトを叙述する仲谷姉妹に、私は目を回した。どっちが春さんでどっちが秋さんか、もうわからん‥‥。
でも理解が追いついてきたよ。どっちがどっちかわからなくなって当然。だってふたりは意識も記憶もその能力もリアタイで同期してるから、もう両方とも同じ人なんだよ。
入れ替わっても同じ思考、記憶、【スキル】を持っているってことだよね? だから同一人物が二個体ある、って言ったほうが正確だよ。
ああ~~。なんて考えごとしてたら本当にどっちがどっちかわからなくなった‥‥。
咄嗟に服に注目。‥‥確か萌黄色の春っぽい服が春さんで|紅葉色の秋っぽい服が秋さんだよね。そこはわかりやすくて良かった。親切設計。
「姫様の腹心たる私たち。この春が愛依さんを守るべく異世界へと渡り」
「この秋が予知のチカラを以って危機を未然に回避していたのです」
「そして『ふれあい体験乗艦』は無事終わり、こうして」
「この世界へと戻って来た春と、このグラロス朝にて合流したという訳です」
ちなみに彼女たちの言う「姫様」って、当然エイリア姫のことだね。
納得顔でぬっくんは頷く。
「そっか。春さんはひめちゃんとこの世界に降り立ったけど、一方で秋さんは自分の能力と春さんの能力を使って、色々動いていた、と。‥‥あれ、でもそれだと入れ替わる意味が?」
「それはですね。特に秋の予知能力がやはり強力すぎますから。うすうす感づいた敵に狙われますし、最低排除はしたいでしょうね。だから時々私と入れ替わって、敵陣営に的を絞らせない戦略だったのです」
王様の笑い声が聞こえてきた。
「ほっほ。一応な。この仲谷秋の身柄は、このグラロス朝がずっと預かっている体だったのじゃ。実際は秋は春として動き回ったり、本当にこの国に身を潜めたりをしておったのじゃがな」
「「へえぇ~~!!」」
私たちは一斉に納得した。そっか。それならこの国に来て、急に春さん秋さんのネタバレをされたのも一応理解できる。ここが入れ替わりのホームだってことね。‥‥あ! 附属中三人娘! なんか退屈そうにしてる。子恋さん達はこのこと、既に知ってたわね‥‥?
なんて、みんな納得して、急にお腹が空いてきたからそろそろ広間に戻ってデザートを‥‥ なんて思いだしてたら‥‥。
「うあっ!?!?」
今日二回目。
ぬっくんが、また変な声を出したよ。




