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第二部 第44話 星と雲Ⅱ②






 厨房でお料理作り。‥‥‥‥とは言っても。


 もしかしてこの国から、夜の饗応のお招きがあるかもしれない。


 なので、料理を作るといっても、保存がきく下ごしらえまでだよ。あとは、料理機器の作動チェック。まだ食材も揃わないし、異世界には冷凍食品も無いし。


 あ、そういえば。さっきのティータイムの時、ぬっくんスイーツ作りたそうだったなぁ。


 でもそっち系の製菓材料も無いのよね。「ふれあい体験乗艦」の時はハシリュー村のお砂糖ハシリトールだっけとかで代用したんだよね。それもすごいけど、さすがに今は小麦粉も生卵もバターも牛乳も無いもんね‥‥。



 と、各人持ち場でもあり、自分の得意分野のことをやってたら夢中になったのか。グラロス王宮から招待の使者さんが来たんだけど、みんな「え? もうそんな時間!?」って口々に言ってて笑えた。


 体験乗艦の時には支給されていた、式典礼装なんかは無いので、みんなそれぞれの異世界スタイルで王宮に赴くことになった。

 っていうか、王宮について門をくぐったら、迎賓館の控え室みたいなトコで着替えの服を貸してくれたよ。まきっちとかオンナ忍者みたいは風体だから、ちょっとまずいとは思ってたんだよね。


 みんな、簡易的なドレスコードというか、帝都のネズミーランドの貴族令嬢コスプレみたいな衣装だった。まあ、王様に会うんだからそうなるよね‥‥。

 あ‥‥‥‥! 多賀さんっ。踊り子衣装を名残り惜しそうに脱いで見つめてる‥‥! 見てはいけないモノを見てしまった気分。


 衣装係の人に髪も結い上げてもらって、すっかりみんなソノ気になったところで、広間に行くように言われたよ。あ、ぬっくんは燕尾服だ。なんか新鮮。


 子恋さんを先頭に、しずしずと、スカートが膨らんだドレスに身を包んだ私たちが広間へと並んでいく。そこはさすがに宮殿、という言葉にふさわしいきらびやかな場所だった。

 魔法石と思われるシャンデリアと、金銀をふんだんに使った壁や柱の彫刻。それに立食パーティー形式の、山と盛られた料理。


 そっか。このグラロス朝は農業国家だったっけ。ゴハンには自信があるのかな?



「よく参られた。ラポルトの者たちよ」


 王様、あ、コーラ姫のお父さんなんだけど、引退してるんだっけ? 今何て呼ぶかはわからないけど、中央の一段高い場所で一番豪華な椅子に座っている初老の男性がそう言って、パーティーは始まった。王様の近くの下段には仲谷さんがいた。


 あとはまあ、社交辞令的な会話が続いたよ。戦艦ラポルトのざっくり説明とか、異世界から来たこととかは、子恋さんが全部答えたよ。

 逢初さんが呼ばれていたなあ。エイリア姫と瓜二つだから、その関係だと思う。私はぬっくんとふたり、お料理を堪能していました。



 あ、そういえば、紅葉ヶ丘さんがいないっ!? 渚さんに聞いたら「あの子はいつもそう」、とのこと。王宮には「体調不良につき」と言い訳して、ラポルトでひとり留守番してるんだって。

 でも確かに、紅葉ヶ丘さんのポジションはPC関係で全艦のコンディションを把握する所だから、ひとりで留守番にはこれ以上の適役はいないんだよね‥‥。



 大臣や貴族の人からは何度も「そちらを同胞にすることが僥倖だ」、「どうか空からの防衛をお頼み申す」なんて言われたよ。‥‥まあ、これだけ歓待されて、色々食料とか貰っちゃったらやるしかないよね。あんまり魔王軍とかでめちゃ強い人とは戦いたくないけど。



 そんな、「魔王軍の強い人?」の話題で、会場の雰囲気が少し変わった。



「そうですか。カミヒラマの迷宮から出立するタイミングで、魔物が攻めてきましたか?」


 こう言ったのはでっぷり太った貴族のおじさんだよ。大臣かも。


「ええ。巨大なガーゴイル、そんな感じの魔族でした」


 と、子恋さんがそつなく対応する。


「うむ? 魔物でなく、魔族とな?」

「はい。人語を話し知性がありました。しかも、自らを『風のインフェガルド』と名乗っていましたので」


「むむっ!? インフェガルドですと! 彼奴め! 性懲りも無く!」

「やはりご存じでしたか」


 ここで、おしとやかに目を伏せてたコーラ姫が顔を上げたよ。


「大臣、確かにインフェガルドでした。あの声は私も忘れません。迷宮攻略を察知して、あの戦艦を亡き者にしようとしたようです」


 大臣さんは、目を丸くしていた。


「彼奴の攻撃を受けて、無傷で退けたのですな。なるほど。我が国の領空を守るチカラ、確かにありますな。‥‥正直空に浮く戦船(いくさふね)など‥‥一体どうやって戦うのかと首をひねっておりましたが」


 あ、これ大臣さんの本音かな? 空中戦艦が無い異世界で、その船がどうやって戦うとか、そういう概念、っていうか、基礎知識もないもんね。空に浮かぶ風船とかを想像していても、無理はないよ。


「それで、みごと逃げ切って、海を渡ったと。いやはや、大したものだ。このような年若き者たちにしては」

「え? いいえ。我が武力を以って、撃破致しました」



「‥‥‥‥え?」

「‥‥‥‥え?」



 子恋さんと大臣さん、同時に同じ方向に首を傾けた。


 王様や広間のみんなが、一斉にこちらに視線を送ってくる。急にざわざわとしだした。


「‥‥‥‥わ、私の聞き間違いか? ‥‥今‥‥何と?」

「魔王軍四天王の『風のインフェガルド』が出航のタイミングで襲来致しましたので、返り討ちで屠りましたが‥‥」


 それを聞いたグラロスのみなさんが、一斉にがやがやと騒ぎだした。「そんな?」、「まさか?」、「ありえんっ!?」なんて声が、部屋を埋め尽くしていく。


「待とうぞッ!! ヤツは倒しても分体です。何体にも別れた、その内の一体なのです。それならは我が国だって倒したことはあり申すッ!! しかし、分体全てが集合した本体を倒さなければ、ヤツを倒したということにはならんのですッ!!」


 大きな声だったよ。貴族服の陪臣の中に、キラキラ甲冑の男性がいた。ガタイが良くて頭ふたつは背も高い。いかにも騎士団長みたいな人だった。


「ええ、確かに分体全部かはわかりませんが、一応10体程の目標が散開して襲来し、それらが合体してひときわ大きなガーゴイルになった対象を、撃破しました。‥‥我々が索敵する範囲の外で、まだ分体を残していたかは‥‥わかりませんが」


 子恋さんのこのコメントで、会場の全員が騒ぎ出したよ。「まさか?」、「では、本当に?」、「し、信じられん!」なんて声が、たくさん聞こえてきて。



 結局、ラポルトまで馬を走らせて、渚さんがノートPCを取りに行くことになった。その時の映像がデータであるからね。

 それを見てもらって「撃破」か? 取りあえずみなさんの意見を聞くことになったよ。


 グラロス朝の使者じゃなくて渚さんが行くのは、紅葉ヶ丘さんが警戒してラポルトに近づけさせない可能性があるから。



「ほらやっぱり。通信網を構築しておくべきだったわ」





 渚さんはめんどくさそうだった。





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