表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
446/521

第129話 青天井システム③

 





 殿下のお言葉は、耳には入っていた。


 でも正直、あまり憶えてはいなかった。‥‥ただ、「神経毒を撒くかも」っていう言葉には反応した。



「麻妃!」

「はいよぉ! 砲戦重視!」


 麻妃の設定変更! 僕の乗機のエネルギー配分が、ビーム砲に振り分けられる設定に変わった。(オミフリ)と再接続して残り二機に光の弾幕を浴びせる。

 すぐ敵は沈黙した。防御を突破されそうになった向こうは、逆にシールドバリア重視に設定変更せざるをえない。


 その隙に、上空のKRMが降りてきた。槍を受け取る。


「あっ?」


 持った瞬間そうなった。色々装飾が施されたド派手槍。見た目、刃部が超重そうだったけど。

 ぜんぜんそうではなかった。前後の重心バランスが絶妙でものすごく取り回しやすい。これひとつでも確かに名品だと、僕でもわかる。


「国宝だァ!」


 錦ヶ浦さんの声は無視する。


 今の僕には、ありがたい。この自分の怒りをエネルギーに換え、それを余さず暴力に換えてくれる道具がある、ということが。



「ふっ!」


「「おぉお!?」」


 男性陣の驚く声が聞こえた。構えた回転槍(サリッサ)が一瞬で高速回転すると、風圧で海水が吹き飛んで、少し海の底が見えた。引き潮みたいになった。


「「マジか!?」」

「こ、これが『瞬間起動(フラッシュブート)』なんですね‥‥!? 団長しかできない‥‥という‥‥」

「正確には、俺は数回できたことがある、ってだけだけどな‥‥」



 以前「まほろ市民病院攻防戦」で超大型(アパイロン)と戦った時には、空中浮遊(プロテシス・サーカス)で翻弄しながら戦った。


 でも今の僕は、そんな器用なことをする気にはならなかった。



 怒っていたから。



 故郷である、みんなが住むみなと市に、こんな手で押し寄せて来たから。



 愛依を絶対に悲しませてしまう、因縁の毒なんて持ち込んで来たから。



 刃部の回転で砂浜の砂が飛んでしまわないよう、槍先を海に向けながら敵に歩いていく。

 撃ってこないとわかった敵が、また猛砲撃をしてきたけど、シールドバリアで軽くはじく。


 接敵寸前に、またエンジンが唸りを上げた。地獄の咆哮だ。みなと市のみんなは五月蠅いだろうなぁ。

 刃部もありえないほど回転する。旭光と刃部のプラズマ光が眩しくてうるさい。


 クソな敵が瞬間逃げようとしたんで、一瞬で差を詰めて槍先を差し込んだ。


 当たった先は敵の大盾(アスピダ)だった。そのままガリガリと削れた。


「!?」


 盾が無造作に削れる!? なんだコレ!!


「だから御物(ぎょぶつ)だって!」


 敵の大盾(アスピダ)を貫通して本体に届く。同じ感触で樹脂装甲を研削、容易に貫通して金属部分、骨格(スケルトス)に到達する。


「まだだ。もっと出力を上げよ」


 サリッサ刃部と超大型(アパイロン)の金属骨格が当たり、花火のような血飛沫のような火花が上がる。


「敵機超大型(アパイロン)は当然最硬度配合の規格(イソス)だ。だが、我が槍『後勿答(しりこたえぬ)』の真価は‥‥!?」



 不思議な感覚だった。普通回転槍(サリッサ)をねじ込めば柄から振動が伝わってくる。反動がある。それに樹脂装甲からは切削紛、内部器材から延焼煙が出るし、金属骨格に達すれば火花が出るはずだった。


 でも。


「削り倒せッ!」

「御意ぃ」


 夢中でマジカルカレントを上乗せしたら。




 手ごたえが無くなった。


 僕が敵の機体に刃部を差し入れた分、その空間が三角錐の形にきれいに削り取られていた。CGかと思った。


 驚いて固まった僕に気がついたのか? 対峙した超大型(アバイロン)が後退して距離を取る。敵は僕の機体の全高ほどの巨大な剣を、片手で振り上げていた。



 僕は、呟く。


「‥‥突撃(アサルト)



 土砂を巻き上げて肉薄。モニターの遠景の敵が、一瞬で視界いっぱいに広がる。そのまま、かざしていた槍先を突き入れ、横に薙ぐ。


 今度は少し手ごたえがあった。


 敵機から目の光が喪失した。肩とか腰の重力子回路起動光も。胸元に穿たれた三角錐の空隙は敵機の主要動力を寸断して、胸部に風穴を空けて。


 背面に一瞬で到達した刃部は、削りながら敵機をぶった切っていた。


 三機目の上半身が手前に、下半身が奥へとゆっくりと倒れていった。




「ぬっくん!」


 うん見えている。最後の一機が、陸上のクラウチングスタートみたいに腰を沈めていた。ホバリングで後退しながら、たぶん背後に背負った神経毒を散布する動きかも、だ。


 ここから動いては、もう間に合わないだろうね。


 四機目の、背後に背負った円柱状のタンクは、とても堅牢そうだった。その上部二ヶ所が、バシャンと上に跳ね上がって噴霧口みたいのが展開した。間に合わない!


「じっとしてろ!」


 一旦上がったタンクの噴霧口が、無理矢理降りた。‥‥‥‥いや、僕がやったんだ。目視できたから、重力攻撃を発動させた。自機の各所にある重力子回路を使ってね。


 骨格(スケルトス)を折るほどの座標特異的な超重力を以って、タンク噴霧口を元あった場所に押し込んだんだ。粘土みたいに。これで一瞬稼げた。



 僕は回転槍(サリッサ)の回転を一度止め、自機の重力子エンジンをもう一度臨界まで吹かした。隔壁操縦席(ヒステリコス)がその咆哮でビリビリと揺れる中、槍先を最後の敵機に向ける。


 そして。


(こぼ)‥‥」

「見よ! 余の『青天井システム』の成果を! 天文学的な電力を受け取る各種関節! 膨大な負荷に耐えうる強靭な骨格(スケルトス)! そして! 横切りドリル(ゼックリダス)でも無い刃部での剪断‥‥」


 皇太子殿下の声で、僕の必殺技を放つセリフがかき消されてしまった。



「こ、(こぼ)てッ!!」


 集中を高めて言い直す。


 急激に回転を開始した回転槍(サリッサ)の刃部は、瞬間的に大気をかき乱す。その惑星上ではありえないほどの速さが、海を割った。


 生み出された波動が海底の道を作り、加速された大気中の粒子がピカピカとプラズマ光を放ちながら、瞬時に敵機を通りすぎると、堅牢なDMTが渦に飲まれたように粉々になった。


 かつて、英雄さんの機体にやったことだよ。その強化版。

 でもあの時は刃部を目標物に密着させてた。今は、ハーフ戦闘距離(スタディオン)(90メートル)離れた所からやった。


「刃部の剪断、こんな芸当が出来るのは‥‥む?」



 殿下が話している中で、発動して破壊していたんだ。



「ふう」

 僕は安堵する。もうコイツに乗るとは思わなかったから。背部のエンジンも、音色が低くなってきて。もうすぐ落ち着くだろう。んん?


 僕が持っていた例のド派手回転槍(サリッサ)が、灰色の煙を出していた。‥‥何か「シュ~」って音も聞こえる。



「で、殿下‥‥これ‥‥」

「ああ、過回転だ。『ご使用時は既定の回転数を守りましょう』だ。逝ったな‥‥」


 脱力した錦ヶ浦さんの「あなたもうすぐ死ぬんですか?」くらいの意気消沈した声が聞こえてきた。





「‥‥‥‥国宝ェ‥‥‥‥」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ