第129話 青天井システム①
珍しく子恋さんが感情を出したけど、まだ終わりじゃあない。
「麻妃ちゃん偵知せいこ~。褒めてホメて~」
いまだスキャナー類が不安定な戦域で、一回目の隕石があったみなと市沖から麻妃のKRMが帰ってきた。
んん? 麻妃? 「皇太子殿下の御前で平常モードすげぇ!」って思ってたけど、なんか様子が変だぞ? こんなはしゃぎ方するキャラか?
それはそれとして‥‥麻妃はちゃんと仕事をしてきていた。敵艦から放たれた巨大DMT群が、ゆっくりこちらに近づいて来ているようだ。
しっかり補足して、マップ上にマーキングしてある。
「‥‥敵は‥‥無人機のようだな?」
皇太子殿下が推論された。今回隕石で落ちてくる敵揚陸艦は、二隻とも無人、自動運転だった。別の言い方をすれば、自爆攻撃‥‥!
だから一隻目から投下されたDMTも、無人の可能性が高い。たぶんラポルトに使われているAI制御、まあ僕らの艦から見れば二世代前の性能なんだけど。
「セプタシオン=ラポルトのパイロットよ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「暖斗くん、‥‥殿下がお声を‥‥何か返事して」
しまった! 皇太子殿下に呼びかけられて脳が固まっていた。一瞬自分じゃないかと。
「は、はいすみません」
申し訳ございません、と言うべきだったか?
「咲見暖斗と申したな」
「あ、‥‥え? ‥‥梅園で‥‥」
「いや、そなたは母親姓を名乗っておると聞いていたが。違ったか?」
重婚制度だ。僕の父の姓は「梅園」で、第二席妻である僕の母親の姓が「咲見」。こういう公式な場面では、その姓で軍にも勤めてる父の「梅園」が普通優先されるビジネスマナーで、この場でもそうだと思っていた。実際、さっきの記者会見では僕を「梅園」と呼んでいる。
「『ふれあい体験乗艦』での登録は『咲見』、であったと思ったが‥‥はて?」
「あっはい、じゃなくて御意っ。‥‥ええっと‥‥咲見で大丈夫です」
渚さんや子恋さんに小声でアドバイスされて、やっと返答ができた。
でも驚きだ。あの皇太子殿下が、僕の姓の使い分けを把握してるなんて。超有名な配信者にアカウントをフォローされたみたいな感覚だ。
いや、こんな例えは不敬だな。
「で、咲見少年、返事や如何? ここに接近しているDMTは無人機だが、君が倒してはくれまいか? いい加減錦ヶ浦たちの戦いは見飽きたし、君の素晴らしいマジカルカレントを、余はもう一度見てみたいのだ」
「殿下~~。そりゃないっスよ~!」
「はっはっは。相すまん」
僕は再び固まっていた。え? 錦ヶ浦さんたちも戻ってきてるし、殿下ご自身も戦艦ぶった切るくらいに強い。
「お待たせしました。お持ち致しました」
「ご苦労」
全体回線で、丹那さんの声がした。そうだ。気配が無かったから忘れてたけど、この人は紘国旗艦ティムールに連絡を取りに向かってたんだ。
丹那さんのKRMが自機のモニターに映ってその後、背後から大きなKRMが二機、ぬっと姿を現した。
「あれは‥‥」
僕の脳が思いだす前に、ド派手な装飾の回転槍が目に入った。あの、皇帝機ヘクタシオンの、装飾の極致みたいなド派手剣、それと同等に意匠を施されたキラキラ槍が、二機のドローンに懸架されていた。
皇太子殿下のDMTヘクタシオン。その専用回転槍。
刃部が黒でもワイン色でも無い。他の素材なのか‥‥?
それともうひとつ。無線誘導で浮かぶ霧。背中から把持してDMTを飛行させるユニットだけど、単独で浮いている。
「これはそなたが使え。ラポルトに懸架されたまま格闘戦を行うわけにはいくまい」
「えっ、あっ僕が? じゃ‥‥なくて‥‥御意」
「うむ」
僕専用の飛行サポートユニットを、わざわざ持って来てくれたのか。見たらその霧は通常より砲身が短かった。運動性能重視ってことか?
「ほい。じゃぬっくん。ウチが撮ってきた動画見てみて。これ見たらたぶんぬっくんは‥‥」
殿下との会話の後、麻妃が動画を送ってきた。さっき、みなと市沖で大型DMT群を偵察してきたヤツだった。
モニターの解析ではかなり大きな機体だった。この骨格は超大型より、大きい?
「いや、咲見くん。超大型の規格だ。しかし背面のフレームがおかしい。エンジンルームが伸張してるし、背中に積んでいるのは‥‥?」
いつも鷹揚な錦ヶ浦団長の声が、神妙さを帯びていた。モニターを凝視する。
そこには、流線形デザインのDMTに似つかわしくない樽のようなタンクが映っていた。ちょうど敵DMTの肩の向こうに見える感じだ。
「何故俺らがさっき、敵DMTと接敵して海に落として来たか、わかっただろう?」
そうだった。錦ヶ浦さんたち隊長連は、みなと市沖に射出されたDMTの機影、そのクリアリングに行ったんだった。それで、撃破はせずに二発目の隕石に対処するために一旦戻ってきた、とも。
あえてさっき撃破しない、できない理由が画像からわかった。敵が防御特化で「みなと市に上陸するのが第一目的」だと判断したからだ。
そして、「第二の目的」も。皇太子殿下が、答え、つまり敵が積んでいるタンクの中身を言ってくれた。
「‥‥恐らく‥‥神経毒であろう。我が領海に、不埒な真似をしてくれたものだ」




