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第18話 8対1①

 




 8月3日、逢初愛依(あいぞめえい)は戦艦ラポルトの1F廊下を歩いていた。


 ふと食堂をのぞくと、見慣れた長さの髪の後頭部が目に入った。時刻は正午すぎ、ちょうどこれから昼食を取ろうと、混みだす時間帯だ。


 と、その見慣れた後頭部が座るテーブルに、相席する女子が2人いる。まだ空いている食堂で、わざわざ後頭部の主のいるテーブルに座るとは。


「これは」


 逢初愛依は、小さく呟いていた。





 同日、23時31分。停止していた戦艦ラポルトの哨戒用ドローンが、敵性Botを複数感知、23時47分、咲見暖斗(さきみはると)の駆るDMT(ディアメーテル)が艦より発進した――。




 ***




光莉(ひかり)、どう思う」


 艦のブリッジで、(なぎさ)が子恋に尋ねる。2人とも自室から飛び出て来ていた。渚は露出の多い下着のような、そして子恋は襟付き花柄、――――ふたりともパジャマ姿だ。


「まずいわね。今まで無かったのに。哨戒ドローンは異常ないのね?」


 と、子恋が答えた。


「そうよ。今までは咲見くんがBotを片付けて、掃空済みの空域の中で艦を停止させてたわ。なのに、寝込みを襲われた‥‥」


「敵Botが、索敵をしながら空域に侵入してきたってこと? だとしたら、夜は当直(ワッチ)を置かなきゃいけなくなる‥‥。ものっっすごく頭が痛いわ。この艦のシフトでそれは想定外だし、ひとつ大問題が発生しちゃうのよ?」


 いつも冷静な子恋が大仰に頭を抱える。その様子に驚く渚。



「‥‥‥‥あなたがそんなにビビるなんて、高等部の生徒会長に啖呵切った時以来かしら? 一体どんな大問題が‥‥‥‥!?」



 子恋は頭を抱えたまま、目だけを渚に向けて、恨めしそうに呟いた。


「親御さんの許諾書取ってないのよ? この運営。――――中学生の深夜労働で」


「――――うっっわぁ。 ‥‥‥‥‥‥この艦最大の泣き所ね」





素人中学生(みんな)に徹夜の見張りなんて頼める訳ないでしょ? かといって附属中(わたしたち)3人でやったら‥‥‥‥」


「破綻するわね。第一お肌に悪い。私パス」


「ちょっと陽咲(ひなた)。真面目にやってよ」



「真面目よ。悩める艦長さん。だけど、私には今お肌より気になることがあって」


「何? 今度は何よ」


「あなたに最初に聞いた事よ。ね、光莉、どう思う。特別な思考ルーチンで、索敵しながら侵入してきた敵性Bot、なのに今見える光点は3つ。3機しかいないのよ?」


 渚の言葉に、子恋はモニターの光点を見つめる。



「それは‥‥‥‥」


「そう、戦術科の見解として、シンプルに罠を張ってるわ」




 ***




「暖斗くん。敵は3機。初めての夜間戦闘だから慎重にね?」


 僕のDMT(ディアメーテル)麻妃(マッキ)の支援ドローン、KRM(ケラモス)が、暗闇の中で周囲を哨戒している。レーダーの光点を頼りに、最寄りのBotに接敵して、加撃しているところだ。


「うん。そだね。模擬戦ではさんざん練習したけど、実戦だしね」




 AIの観測では、敵Botに特別な仕様は無く、こちらの被弾を最小限にして、敵の装甲と頭数を削っていく戦法が提示された。つまりいつのも戦い方だ。


 今が夜ってこと以外は。




「今! ちょっと踏み込みすぎたよ。裏取られるなら逃げてよ」


「わかったよ。でもあとちょっとで倒せたのに。このBotマーキングしといて」


 モニターのBotに、ピッと、赤い光点がついた。


 僕は視認できる3機のBotと交戦していた。お互い回避をしながら、いくつもの火線が交差する。


 囲まれないように、被弾しないように、回避運動を入れて、少しずつだけどBotにダメージを入れていった。



「‥‥‥‥暖斗くん」


「何?」


「今渚さんと話してた。1回艦まで戻ってほしいって」


「え、何で? 押してるのに。あ、また戦艦襲われた?」


「イヤ、敵の引き方がね。『釣り野伏(のぶせ)』って戦法に似てるんだって」


「え? 何て?」


「『釣り野伏』。なんか昔の‥‥」


 その瞬間だった。




 ガガガガッ!!



 モニターが真っ白になって、警告音がなった。


 積層しておいたフォトンシールドが急激に減ったんだ。


 僕は、包囲射撃を受けていた。




麻妃(マッキ)!!」


「印加する!!」


 僕は反射的にバックステップしていた。敵は僕らを包囲網に誘い込もうとしていて、その入り口で僕らが艦に戻るそぶりを見せたので、攻撃に踏み切ったらしい。


 と後から聞いた。



 マジカルカレント発動!!


 もう力業で切り抜けるしかない。後ろへ跳んでいるその滞空中に、みるみるエンジンが吹き上がっていく。


 同時に予備回転を始めたサリッサが、夜の森に妖しく光りだした。両方ともすごい轟音だ。



旭光(きょくこう)だ。でも夜間戦闘だと、目立ってしょうがないね」


 と、麻妃。


「設定変えられないの?」


「無理だよ。そもそもマジカルカレントで刃部が光っちゃうのは設定じゃないし」


 僕の能力によって出力を増した回転槍(サリッサ)刃部の重力子回路が、有り余るエネルギーを光として放出しているんだ。



 後進した僕のDMTが接地すると同時に、一番近い、ダメージが入ってるBotの「あえて反対側のヤツ」に突撃(アサルト)した。敵のBot群は意表を突かれたみたいだ。



 ガガガガ!! バキン!!



 光る槍先が丸い球体を貫いて、火花と共に吹き飛んでいく。おかげで無傷のBotの方を1機倒せた。


 これで確定した。渚さんの推理通り、敵は司令塔みたいのがいて、そいつの思考で全体が動くみたいだ。レーダーに映る光点は残り7つだった。3機が囮で5機が待ち構えてたんだ。


 危なかった。ギリ包囲網が閉じる前に気付けたから良かったけど。




 1機倒して残り7機!





 僕は漆黒の闇に向かって、光る槍を構えた。






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