第127話 共同戦線①
さっき皇太子殿下が斬った、隕石してきた揚陸艦だ。大量の大型BOTだけじゃなくてDMTも積んでたんだ。しかも数機って。
「大洞台は高所取れ。俺と魚見崎、般若院と岩雀のペアでクリアリングする。こっちのレーダーで捕捉できないってことは隠蔽してっから、下手打つなよ?」
「「了解」」
騎士団の隊長たちが、正体不明のDMTを補足しに前へ出た。僕はその機影をモニター越しにみながら、自分が手持ち無沙汰なのに気づいた。
「あ、咲見くんはそのまま、ステイでいいからね?」
訊く前に錦ヶ浦さんに言われてしまった。でもまあ、僕は素人なんだから当たり前か。さっきみたいにあのオールスターメンバーに混ざって戦ってたのが奇跡なんだ。
「北側以上無し」
「南側も何も感知しないな。‥‥大洞台来てくれ。上空から目視で頼む」
「了解」
みなと市の沖合い。敵艦に近づくほど、もうもうと煙が立ち込めていた。僕が散々ビームで撃ったし、殿下の一撃で、飛散したものが多いからね。敵DMTは、その中に隠れてるのか?
「大洞台です。‥‥‥‥視界が悪くて何も見えませんね。もう少‥‥ヒュゥ」
‥‥‥‥あれ? 今何か変な音しなかった?
その後無音、体感で2分経過。‥‥‥‥あれ?
そのまましばらくじっとしてて、改めて異変を認識した。スピーカーから音声が、一切流れて来ない。一切だよ。
僕はあの騎士団の、KRMの人に連絡を取ろうとした。丹那さんだっけ。あの人ならこの辺をまだ飛んでいるハズ。
通信を試みた結果は「エラーが発生しました。再試行しますか?」のメッセージだった。最初は一瞬、僕のDMTの通信機器が壊れたのかと思った。
‥‥‥‥でもこの現象、僕は見覚えあるぞ?
あらためて「全体共有回線」も切れていてつながらなかった。不用意に退席なんてしてないし。
KRMはDMT部隊の諸々お世話をするポジション。こういう不具合には、真っ先に動いてくれる役目のハズだ。‥‥でも、もう何分も回復しない。これはおかしい。
普通KRMは、小隊とか大隊、DMTが何十機に一機の割合で配置されるらしい。ガンジス島で麻妃のKRMが、僕専属でついたのは、ひとえに僕が初心者だったから。
通常の配属で、KRMの人が忙しかったとしても、こんなに通信が出来ない状態が続くなんて、やっぱりおかしい。
「どうなってんだ? えっと、どうしたらいいんだ?」
静かな隔壁操縦席で、僕は焦りだしていた。モニターに映る海と敵艦の撃破煙以外情報が無い、というのは、不安を何倍にもする。
「どうなってんだよ。これ?」
通信の回復トライをするのと外の景色を見る、という往復を何回もして、焦りが頂点に達したところだった。
「暖斗くん!」
「え!?」
いきなり誰だ? この声は!?
「待った!? 麻妃ちゃん登場~~だ、ゼ☆!!」
え? 記者会見場にいる麻妃が?
「なんで麻妃が?」
「それは後で。今丹那さんとつないだから!」
「咲見くん。丹那だ。君と機体に異常はないね?」
「は、はい。‥‥でも全体回線が。索敵システムも」
混乱している僕に、新たにもたらされた情報は、さらに僕を混乱させるものだった。
「EMPだ!!」
「えっ!?」
「電磁パルス攻撃だよ! 恐らく上空で戦術核が使われた。このエリアが狙われた。今、各データリンクが消失している!」
「え、どういうことです!?」
そうだよ。今僕は丹那さんと通信できてる。それに麻妃だって。
「今僕は岸尾さんの助けでローカルエリアネットワークに入ったんだ。だから君とは通信できる。君たちが、ガンジス島でやっていたヤツだ」
そうだ。退艦後に聞いたけど、インフラが未整備なガンジス島では、電磁パルス攻撃の復旧が本土よりかなり遅かったそうだ。途中で多国籍合従軍も来ちゃったし。
だから、僕ら、というか紅葉ヶ丘さんが構築した旧技術も用いた通信ネットワークは、範囲は限られるけど電磁パルス攻撃の回復策としては有効だったんだ。
僕がさっき感じた既視感の正体。またこれを喰らうとは。
「それで咲見くん、まだ戦えるかな?」
「え? ‥‥はい。‥‥カタフニアはまだ蓄熱してますが」
どうしてそんなことを訊くのだろう?
「実は、敵艦に向かった隊長機を、ロストした」
「‥‥‥‥え?」
「紘国旗艦ティムールが崩れゆく敵揚陸艦から、DMTらしき機影が射出されるのを検出したんだ。調べるために、隊長たちがクリアリングに行った」
「はい、そこまでは知ってます」
「だがその直後に、電磁パルス攻撃があった。岸尾さんの助けで通信だけは復旧できたんだが、まだ5機を確認できていない」
「そんな‥‥‥‥」
あの紘国最強の面子が、錦ヶ浦さんが。信じられない。
「それも心配だが、もっと重要なことが。さらにもう一隻、衛星軌道に艦影があったよね。もしそれがここに降下してくるとすると、そちらのほうが早い。迎撃できるのは」
状況がわかってきた。
「迎撃できるのは、君のセプタシオンと、あともう1機」
もしその揚陸艦が、隕石してくるのなら、当然、僕の街にも被害が出る‥‥!! というか、そのために突撃してくる。
軍の施設にはみんな、愛依たちがまだいるのに。
その状況に対処できるのは。つまりこの街を守れるのは‥‥‥‥現状僕だけ! なんだ!!
「わかりました。僕がなんとか踏ん張ります。指示をくだ‥‥」
「違う違う! あともう1機いるんだ。戦える機体が。さっき母艦に帰投しようとされて、異変を知って戻ってきてしまわれたんだ」
「え? それってもしかして?」
僕は忘れていた。通信が途絶えてテンパっていたからだけど。この機体の前方にいて、いつの間にかモニターから消えていた機体を。あのド派手機を。‥‥‥‥そっか。さすがに母艦に帰ろうとしていたのか。
僕が。一介の中学生の。この僕が。
「皇太子殿下と‥‥皇帝機ヘクタシオンと‥‥共同戦線‥‥‥‥?」




