第125話 テロの時代①
番組の予定したカリキュラムは終わったようだ。司会のお姉さんはいなくなり、急に会場がざわざわしだした。
アマリアのふたり。大立ち回りのコーラとソーラさんが駆け寄ってくる。
「は~~終わったかあ。なんだよ暖斗くん。アタシのカオに何かついてる?」
来るなりコーラが絡んできた。ああ。隣りのソーラさんも苦笑いしている。
「暖斗さんは乗艦中、紘国軍人の方と揉めたそうですね? 私たちも揉めちゃいました」
ケロッとした笑顔。でもこのふたり、僕の中では印象が変わった。
「う~~ん。確かに、あの記者の人には頭に来たんだけど、なんかちょっと違うな、と思ってさ」
「なんだよそれ。言う時にはガツンと言わないと。ガツンと。アタシはそうした」
「コーラは言う前に手が出てた」
「うっせぇソーラ。あ~あ。本土デビューがコレか。顔バレもしたし」
「自業自得よ」
コーラは僕の顔の前で拳を作って、噛みしめた白い歯を見せていた。
コーラもソーラさんも、何かすっきりしたような表情だった。
そこへ愛依が来た。すぐ隣に立つ。
「これで良かったのよ。きっと」
「君の戦闘記録を今解析していてね。記録を見たよ。あの滝知山さんと戦りあってるし、そこで啖呵切ってるじゃないか? 咲見くんは、どうして今日はそうしなかったのかな?」
背中から野太い声がして。予想通り錦ヶ浦さんだった。
記者席のさっきの記者さんにも聞こえたようだ。パソコンを開いて何か打ち込んでたけど、それを聞いて「え?」と身を乗り出した。
「あの『ぺポイ山脈の狂熊、滝知山少佐』が!?」
英雄さん、元少佐だったのか。それになんか強そうなふたつ名も。
「ああ。この咲見くんはあのお国の英雄さんを『正論パンチ』で殴ったりする中学生だ。あなたともそうなるかと予想してたんだけど、意外だったな」
「何ですと!?」
記者さんがさらに前のめりに。目を白黒させだした。
「咲見くんさあ。なんで『正論パンチ』出さなかったの? 言ってやれば良かったじゃないか? この子たちみたいに」
ポン、とあの分厚い手で肩を叩かれた。僕は考えをまとめようとする。
「ええと。‥‥‥‥ここで言い合いをしても何も変わらないのかな、と思って。記者さんの言う通りなのかな、と。僕は、この国の現状を変えて、女子がもっと悩まなくてもいい世の中になって欲しくて‥‥‥‥その」
「なるほど。それで矛を収めたのか」
「そんな。初めからケンカ腰のつもりでは」
「い~~や。ぬっくんはヤル気だった。最初はね。ゼッタイそだよ?」
麻妃が会話に入ってきた。大げさな身振り手振りをしながら。
「ウチは心配して動こうとした。一応テレビ局とかもいたしさ。けどそれを愛依が止めた」
愛依は「大丈夫だと思ったから。何となく」と。
「ふむふむ。目の前の討論でたとえ言い負かしても、効果的ではない、と。‥‥‥‥それは確かにそうなんだよな。ただの言葉の上での、一時の勝利だ。本当に世の中を変えたい、自分の言葉にそれだけの『重さ』、パワーを持たせたいなら、言葉だけじゃ、駄目だぜ」
それはちょっとだけどわかる気がする。それが正しいかは別として武力を見せたアマリアのふたりを目の当たりにしてるし。
英雄さんの「この国の女どものためにオレは武器を取ってきた」は重かった。実際に戦争をしてきた人の言葉だから。
「君の『発言』が重さを持ち、多くの人の心に届くようにするには?」
何だろう? どうすれば?
「『行動』さ。行動が伴わない口だけのヤツが何言ったってムダさ。そうだろう?」
錦ヶ浦さんはそこまで言うと4人の部下、隊長さん達の元へと戻っていった。
やけにあっさり答えを教えてくれたなあ。
でもまあ、少し考えればわかる、割と簡単なこと、なのかな。
***
番組は終了した。
退席する記者さん達と配線とかを片付けだす配信スタッフさんを見ながら、僕らはまた自然と集まった。コーラとソーラさんも一緒だ。
番組内での発表。あの戦争での「犠牲者ゼロが確定した」との報。
本当にうれしかった。
「そういえばこういうの、やってなかったねえ」
渚さんがしみじみ言った。彼女が言うのは全員での円陣と「ラポルト! ファイティン♪!」みたいな掛け声。(あくまで一例)。
僕ら16人には、こういった大人数グループでのありがちな「2派閥に分かれての意見対立」とか「問題児がいて和を乱す」とかが皆無だった。別に特別なことじゃない。
この「ラポルト16」。一人ひとり個性とか得意分野とかは分かれてるけど、そういう感情に任せた行動をする人間はいなかった。
意見の相違くらいはあった。当然に。でもそれは僕ら中学二年生16人は、感情抜きで議論して解決してきたよ。お互いがちゃんと相手に最低限の敬意を持って、どれが最適解か知恵を出しあうのが議論なんだよね?
逆にどうやったらケンカになるのか聞きたい。そんなバカなことはしないよね、大人はさ? だって、大人なんだから。そうでしょ?
そんなくだらないことに時間やエネルギーを費やしていたら効率悪いじゃん。そんなことしてたらこの40日間の旅なんて、成しえないよ。
「でも見たかったなあ。暖斗くんがあのオッサンと揉めるトコ」
コーラ。いた。チームの和を乱すヤツが。大人と揉めたヤツが。
そういえばコイツ。初対面の時はソーラさんみたいな真面目な話し方してたな。‥‥‥‥こらこら、スタッフさんに向けて脚を上げるな。
「じゃ、やるよみんな。円陣~♪」
音頭を取る渚さんが、左右と肩を組みだして、自然とみんな輪になった。僕の両脇は来宮さんと泉さんだった。なんか愛依たちとははぐれてしまったけど、みんな笑顔だ。あの子恋さんもケラケラ笑ってる。そうか、彼女の素顔は「ミーハー女子」だったね。
そんな彼女に「戦死者ゼロでの戦争終結は人類史上初。ガチで偉業!」って聞いてたから、余計にうれしかった。
腕を組んでたコーラも、ソーラさんに小突かれてしぶしぶ参加する。
「せ~~の!」
掛け声を決めて、輪の中央に手を集めたところで。
ピーロリ ピロリ♪ ピーロリピロリ♪
呑気な音。
スマホの着信音だ。
音は、騎士団の人たちの方から聞こえてきていた。錦ヶ浦さんがスマホを取り出す。またか。
「団長。マナーモード」
「ワリワリ」
「反省してないっスよね?」
「ワリワリ」
錦ヶ浦さんが、応えた手で頭を掻きながらスマホに出る。手が大きいからスマホが小さく見えるな。オモチャみたいだ。
なんて眺めてたら。
ヒュ~~イッ♪↗ ヒュ~~イッ♪↗
警報音。
ピロンピロン♪↗ ピロンピロン♪↗
続いて不協和音。
ふたつとも着信音じゃなかった。語尾が上がる、人を不安にさせる音。それが一斉に鳴った。
そう、一斉に。マナーモードであるはずの、この会場にある全員のスマホ、その全部からだよ。
記者会見会場に飽和していく警報と不協和音。室内の空気が一気に不穏になる中で、みんな手を止めてざわざわしだす。
「はい。‥‥‥‥‥‥はい。わかりました」
錦ヶ浦さんのイケボが会場に響く。喧騒の中本当によく通る声だ。スマホを耳から離した彼は、短くこう言った。
「敵襲だ」




