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第124話 時代を拓くということ。⑦






「娘、紘国語がわかるのか?」

「んだとてめぇ!」


 この記者会見は、空気がピリついたり和んだり忙しい。落差がすごい。


 まあその原因は。僕もけっこう加担してるんだけど。

 主役は例の男性記者で、ついに「ザ☆直情型」のコーラが参戦していた。



「礼儀も知らん。そんな辺土の日焼け娘に何が祝福だ?」



 その物言いにはさすがに、僕も叫んだ。

「‥‥それはッ‥‥!!」


 思わずカッとなった。「辺土の日焼け娘」もガンジス島の女性をディスる用語だよ。


 一体、生まれたばかりの赤ちゃん、オリシャさんの娘さんが何をしたっていうんだ!? コーラたちだって。ガンジス島だから!? 女性だから!?


 完全に頭に来た!!

 コイツ、クソだ!! 質疑の時の意趣返しのつもりか!?



「さっきの小僧か? はっ、くだらん。赤ん坊が生まれたから何だ。女じゃないか。紘国民を名乗りたいならせめて男子を産め。女ばかり増えても‥‥」


「てえぇんめええぇ!!!!」


 僕よりも速く、コーラが跳んでいた。弾丸のように接近して、あの記者の胸ぐらを掴む。


 さすがにそれはいけないっ!! って思ったけど、もう遅い‥‥!


「なんだッ小娘!」

「いい加減にしろ!」

「この手はなんだ!?」

「アンタが売ったケンカだろがよっ!?」

「‥‥異邦の穢れた日焼け娘(エトネコレ)がッ! ‥‥ただで済むと思うなよ!」

「上等だゴラァ!!」


 コーラが記者の、ネクタイあたりを掴んで手前に引き込む。流れるような動きだ。記者の人も、思わずあたりの机を掴んで抵抗を試みる。

 格闘技の試合だったら、コーラの技が決まっていたかもしれない。でも記者の人とコーラじゃ体重が倍は違うし、ここは会見会場だった。記者席のイスや机が密集して、コーラの動きを阻んでいた。


 そうして立ったまま揉み合ったところで、ようやく警備員さんが動く気配があった。騎士団の面々も腰を浮かしている。

 たぶんまだカメラは廻っている。さっきまで赤ちゃんとそれを愛でるラポルト女子を映してたんだから。


「やめんか下衆が」

「うるっせえ」


 もう止めないと。


 コーラが、あの記者に暴力行為、怪我を負わせたなんてハナシになったら、アマリア的にもマイナスだ。もう胸ぐら掴んでるんだけど。それでも。


 僕が一歩を踏み出した、その時だった。




「ふおっ!?」



 刹那、駆けつけた僕らの頭上にコーラの頭があった。言葉通りの頭上だよ。今変な声を上げたのはコーラだ。着慣れない式典礼装のコーラの五体がくるりと、高さ2メートルの宙を舞う。



 誰よりも、騎士団よりも速く動いて、コーラの背後に回っていたのは。




 同じ式典礼装。バインダーを片脇に挟んだままの、ソーラさんだった。



「ぶべ!!」



 この会場の天井は高くて、その、人の背の高さからコーラが落ちる。記者席だった机とパイプイスの中に、派手な音を立てて。

 僕らが「無事か?」と問う前に「てぇめえソーラ!」と彼女の上半身が跳ね起きた。



「‥‥コーラ。‥‥馬鹿なの? 今この人の首極めにいったでしょ!?」

「‥‥‥‥ふんっ!」


「『ムカついたから』なんて理由になんない。この人殺めて、その後どうすんの? アマリアの立場も考えて!」

「‥‥ビビらせようとしただけだ」


(ころ)‥‥!? ‥‥は? ‥‥え?」

 呆然とした表情の記者オジサンが、ゆっくりと首をさする。


 みるみる汗をかきながら、漏れ出るようにそう呟いた。



 カツン! と高く、ソーラさんの靴のかかとが鳴った。


「さっさと立ちなさい。殺しの武技を(あらわ)しておいてよく言うわ。せっかくラポルトの皆さんがこの戦争を死者ゼロで終わらせたのに、アンタが殺してどうすんのよ? 馬鹿! 馬鹿コーラっ!」

「バカバカ言うなうっせぇ‥‥」


 コーラの殺人武技? それを止めて、瞬時に2メートルの高さまで投げ飛ばしたソーラさんは、コーラを殺すつもりは無かったのか!?


 あの刹那! 僕に見えた限り。


 ソーラさんは、コーラの背後に回って片手で彼女の奥襟を掴んで、仰向けの彼女を自分側に引き込んで、背負い投げみたいにかがんで背中に乗せて、さらに両足含む全身のバネで跳ね上げてた‥‥‥‥と思う。

 一瞬のできごとだった。


 そういえば、コーラと組み手した時に似たような技を食らった‥‥気がする。


 色々ツッコミたいけど、今は止めておこう。まわりもスルーの気配だし‥‥。



 そしてソーラさんは、コーラがいた空間へと視線を向けた。その先には、膝を崩して机にしがみつく、男性記者の姿が。


「‥‥だからと言って、先ほどの貴方の発言を容認するものではございません。私たちも、好きでアマリアに生まれて、好きで女子に生まれた訳ではございませんから‥‥」


 起き上がるコーラを微塵も気にすることなく、例の記者に言い放つ。


「けれど、私はアマリアに生まれたことも、女性に生まれたことも、一切後悔や引け目は感じておりません。授かった命を言祝(ことほ)ぐことすらできないのなら、貴方の生まれもきっとそうなのでしょうね。貴方は誰からも祝われずに生まれ、そして死んでいけば良いのです」


 うわあ。ソーラさんもヤバい‥‥! 檄おこだ。



「‥‥ぐ‥‥む」


 記者さんは、口もとを緩めた表情で脂汗をかいていた。目が泳いでいる。

 本気の殺意を受けて一回凍りついて、でもその相手が派手に宙に舞ったんだから‥‥‥‥しかも今は、ソーラさんが言葉で殺しに来てる。



「あと、あらためてご忠告申し上げます。先ほど来アナタに無礼を働いたこの者、サニーサ=コーラは戦士として、私などよりも格上です」


 意外な発言。ソーラさんはコーラの強さを認めている?


「今は彼女の行動を読んでの、背後からの不意打ちでした。でも彼女が本当に戦場モードだったなら、私だけで果して、止められたかどうか?」


「‥‥‥‥ぐぬぅ」


 顔面蒼白って、初めてビジュアルで理解した。そのくらい記者の人の顔色はそんなだった。

 ソーラさんが暗に「今回だけは私が止めた。止めれたけど、アナタ一回死んでますよ? ソレわかってます?」って言ってるから。



 あらためて思う。このふたりは武娘(たけいらつめ)候補生。戦禍に泣くアマリアの、女性戦士の卵だったんだ。

 紘国に住む僕らとは、根本的に。そう、根本的に色々違うんだ。


 この顛末、全部地上波で流れてるよね? しかもこのふたりにはアバターが無い。素顔で動画が流れてるよ。たぶん。


 大丈夫か? アマリアが、このふたりが、ネットで叩かれなければいいけど。




 でも、実感する。胸に刻んだ、とも言える。



 ダメなんだ。僕だけじゃ。

 このアマリアの子たちとか、みんながみんなで世界を変えなくちゃ。今日みたいな日が、もう二度と起きないように。





 時代を、拓いていきたい。






今夜、【バンダナコミック 縦スクロールマンガ原作大賞】様に

拙著ベイビーアサルトを応募いたしました。

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