第124話 時代を拓くということ。⑤
「ではそろそろ、お時間ですので質問のコーナーを終わりにしたいと思います。ラポルト16のみなさん、お疲れのところ、ありがとうございました」
僕の「お気持ち表明」からひと呼吸の後。
アナウンサーのお姉さんからこのアナウンスがあった。
僕と討論をした新聞記者の人も、僕のセリフを聞いて少し何か言いたげだった。だけど今は視線を落として手元のPCに何か書き込んでいる。終わりか。
と、僕らが座る反対側、マスコミの席やカメラがあるあたりで、アナウンサーさんに向けた「次、差し込み」、「ゲスト」みたいなカンペが見えた。番組のADさんからだ。
え? これで終わりじゃないの?
「では、ここでラポルト16のみなさんにサプライズです。後ろのアマリアのおふたりも前へどうぞ」
アマリアの? コーラとソーラさんのことか?
「え? あ、はい。わかりました」
「うわっ!? ちょ!? アタシまだ本土デビューの心の準備が‥‥!?」
慌てて戸惑うコーラと、腹を決めてその手を引くソーラさんが対照的。
「では、こちらに」
会見場のそでから入ってきたのは、ひとりの女性だった。
「あああ~~っ!」
最初の声を上げたのは、角度的に最初に彼女が見えた麻妃だった。いつもは後ろのほうで「にしし」とか余裕かまして笑ってるキャラなのに。
でもそれだけ、今の僕ら、特に女子には意外で、うれしいゲストだった。
愛依「お久しぶりです。その後お加減は?」
泉 「ご健勝そうで何よりです」
入ってきたその女性、その胸には生後間もない赤ちゃんが抱かれていた。
桃山「逢いたかった~。オリシャさん」
ゲストというのは、あの「まほろ市民病院攻防戦」の最中に出産したアマリアの妊婦、エイジア=オリシャさんだった。
「咲見君。みなさん。この度は妻と娘を救っていただいて、ありがとう」
オリシャさんの傍らには、スーツを着込んだ紘国男性がいた。彼女の旦那さんか。
「こうして娘も元気です。この度本土の軍病院で看ていただけることになりました。本当に。本当にありがとうごさいます」
「いっ、いえ。そんな。ねえ? みんな」
僕はびっくりしてしどろもどろになった。後ろのみんなのほうを振り向く。
子恋「そうです。うん。少なくとも我々は軍人としての務めを果たしたまで」
渚 「はい」
紅葉ヶ丘「へい」
七道「国防大学校附属中学はそうだろうよ。まあ私らも海軍中等工科学校として、やる事やっただけだな」
網代「だね~~」
多賀「‥‥‥‥。うん」
「しかし多国籍合従軍が迫る中、あのままでは間違いなく病院は占拠されていました。そうしたら手術も、妻や娘もどうなっていたか‥‥」
男性の声に反応したのか? オリシャさんの胸の小さな手が、空を掴んで動いた。
浜 「か、かわゆし‥‥!」
多賀「‥‥‥‥。女の子ですか?」
「ええ。名前は『エイーラ』。ほら、エイーラ、みなさんにご挨拶なさい」
確か1500グラムの未熟児だったはず。紘国の先進医学でもう大丈夫だからココに来てるんだろうけど、気が早いよなあ。あ、でも、それが母親ってヤツか。
麻妃「あれ? アマリア村の女の子で『エイーラ』?」
コーラ「そうそう。ソコ気になった」
ソーラ「イマドキのアマリア女子は、名前の語尾に『~ラ』が標準です」
網代「あ~~。じゃ、もしかして?」
「そうです。愛依先生から、いただきました。ね? エイーラ」
オリシャさんが、少しだけ身体を揺り動かしながら、腕の中の愛娘をのぞき込む。
初島「へ~~。カワイイ名前」
来宮「やっぱそうっスか」
紅葉ヶ丘「そのまんまか」
渚 「こら、澪! ねえ、みんなで見よ?」
折越「見たいぃ~~! 赤ちゃん!」
愛依「うれしい。‥‥あ、でも『先生』はおやめください‥‥」
それから、オリシャさんを取り囲んで、女子たちはきゃあきゃあ言ってた。僕と旦那さんは少し離れて、カメラがその喧騒を外から撮影してた。
「どうですか? みなさんが護った生命ですよ」
女子アナさんが近づいて、ラポルト女子にマイクを向けだす。みんな赤ちゃんを見てテンションが上がったのか、中学生らしいキラキラしたいい笑顔だった。
確か僕らはアバター出演ではあるんだけど、雰囲気は伝わるハズだ。こういうのはテレビ向きだよね。
そんな、制服女子が団子状態になって赤ちゃんを囲む様子を、あの記者がじっと眺めていた。ふと、目が合った。
「‥‥‥‥」
なぜだろう。僕は胸を張って、強い視線で彼を見ることができた。
記者のオジサンは目線を外すと重そうな荷物を持ち、背中を丸めて帰り支度を始める。
「‥‥それでいいんだ。君の勝ちだ」
錦ヶ浦さんがポン、と肩を叩いてくれた。
会場には、高い音で騒ぐ女子たちの声が響いていた。
時代を拓く。僕にできるのかはわからない。‥‥けど、今日思ったことは忘れたくない。
愛依の名をもらった女の子。彼女が。
もっと笑顔、ずっと笑顔で育っていく、そんな世界を。




