表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
423/521

第124話 時代を拓くということ。⑤






「ではそろそろ、お時間ですので質問のコーナーを終わりにしたいと思います。ラポルト16のみなさん、お疲れのところ、ありがとうございました」



 僕の「お気持ち表明」からひと呼吸の後。

 アナウンサーのお姉さんからこのアナウンスがあった。


 僕と討論をした新聞記者の人も、僕のセリフを聞いて少し何か言いたげだった。だけど今は視線を落として手元のPCに何か書き込んでいる。終わりか。


 と、僕らが座る反対側、マスコミの席やカメラがあるあたりで、アナウンサーさんに向けた「次、差し込み」、「ゲスト」みたいなカンペが見えた。番組のADさんからだ。


 え? これで終わりじゃないの?



「では、ここでラポルト16のみなさんにサプライズです。後ろのアマリアのおふたりも前へどうぞ」


 アマリアの? コーラとソーラさんのことか?


「え? あ、はい。わかりました」

「うわっ!? ちょ!? アタシまだ本土デビューの心の準備が‥‥!?」


 慌てて戸惑うコーラと、腹を決めてその手を引くソーラさんが対照的。


「では、こちらに」


 会見場のそでから入ってきたのは、ひとりの女性だった。



「あああ~~っ!」


 最初の声を上げたのは、角度的に最初に彼女が見えた麻妃だった。いつもは後ろのほうで「にしし」とか余裕かまして笑ってるキャラなのに。


 でもそれだけ、今の僕ら、特に女子には意外で、うれしいゲストだった。


 愛依「お久しぶりです。その後お加減は?」

 泉 「ご健勝そうで何よりです」


 入ってきたその女性、その胸には生後間もない赤ちゃんが抱かれていた。


 桃山「逢いたかった~。オリシャさん」



 ゲストというのは、あの「まほろ市民病院攻防戦」の最中に出産したアマリアの妊婦、エイジア=オリシャさんだった。


「咲見君。みなさん。この度は妻と娘を救っていただいて、ありがとう」


 オリシャさんの傍らには、スーツを着込んだ紘国男性がいた。彼女の旦那さんか。


「こうして娘も元気です。この度本土の軍病院で看ていただけることになりました。本当に。本当にありがとうごさいます」


「いっ、いえ。そんな。ねえ? みんな」


 僕はびっくりしてしどろもどろになった。後ろのみんなのほうを振り向く。


 子恋「そうです。うん。少なくとも我々は軍人としての務めを果たしたまで」

 渚 「はい」

 紅葉ヶ丘「へい」


 七道「国防大学校附属中学(ふぞく)はそうだろうよ。まあ私らも海軍中等工科学校(こうか)として、やる事やっただけだな」

 網代「だね~~」

 多賀「‥‥‥‥。うん」


「しかし多国籍合従軍が迫る中、あのままでは間違いなく病院は占拠されていました。そうしたら手術も、妻や娘もどうなっていたか‥‥」


 男性の声に反応したのか? オリシャさんの胸の小さな手が、空を掴んで動いた。


 浜 「か、かわゆし‥‥!」

 多賀「‥‥‥‥。女の子ですか?」


「ええ。名前は『エイーラ』。ほら、エイーラ、みなさんにご挨拶なさい」


 確か1500グラムの未熟児だったはず。紘国の先進医学でもう大丈夫だからココに来てるんだろうけど、気が早いよなあ。あ、でも、それが母親ってヤツか。


 麻妃「あれ? アマリア村の女の子で『エイーラ』?」

 コーラ「そうそう。ソコ気になった」

 ソーラ「イマドキのアマリア女子は、名前の語尾に『~ラ』が標準(デフォ)です」

 網代「あ~~。じゃ、もしかして?」


「そうです。愛依(えい)先生から、いただきました。ね? エイーラ」


 オリシャさんが、少しだけ身体を揺り動かしながら、腕の中の愛娘をのぞき込む。


 初島「へ~~。カワイイ名前」

 来宮「やっぱそうっスか」

 紅葉ヶ丘「そのまんまか」

 渚 「こら、澪! ねえ、みんなで見よ?」

 折越「見たいぃ~~! 赤ちゃん!」



 愛依「うれしい。‥‥あ、でも『先生』はおやめください‥‥」



 それから、オリシャさんを取り囲んで、女子たちはきゃあきゃあ言ってた。僕と旦那さんは少し離れて、カメラがその喧騒を外から撮影してた。


「どうですか? みなさんが護った生命(いのち)ですよ」


 女子アナさんが近づいて、ラポルト女子にマイクを向けだす。みんな赤ちゃんを見てテンションが上がったのか、中学生らしいキラキラしたいい笑顔だった。

 確か僕らはアバター出演ではあるんだけど、雰囲気は伝わるハズだ。こういうのはテレビ向きだよね。


 そんな、制服女子が団子状態になって赤ちゃんを囲む様子を、あの記者がじっと眺めていた。ふと、目が合った。


「‥‥‥‥」


 なぜだろう。僕は胸を張って、強い視線で彼を見ることができた。


 記者のオジサンは目線を外すと重そうな荷物を持ち、背中を丸めて帰り支度を始める。


「‥‥それでいいんだ。君の勝ちだ」


 錦ヶ浦さんがポン、と肩を叩いてくれた。

 会場には、高い音で騒ぐ女子たちの声が響いていた。


 時代を拓く。僕にできるのかはわからない。‥‥けど、今日思ったことは忘れたくない。




 愛依の名をもらった女の子。彼女が。





 もっと笑顔、ずっと笑顔で育っていく、そんな世界を。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ