第124話 時代を拓くということ。④
錦ヶ浦さんからの命題。「正しいこと」とは?
もうひとつ頭に浮かぶことがある。
ガンジス島に攻めて来た多国籍合従軍。いつも紘国が革新的なテクノロジーを開発してしまうから、周辺国は「征服される~~!」と疑心暗鬼になるそうだね。
僕ら紘国の中にいれば、「そんなことしないよ(笑)」って言えるけど、敵からはわからない。
だから各国が手を組んで、集団で自国の安全のために侵攻してくる。
他国って、ラポルトの能力はどのくらい知ってたのかな? あんな大きな戦艦作ってるのに、秘密が完全に守られてるとかは考えにくいよね。何千人もの人が開発に係わってるんだし。
その国の最高レベルの諜報機関だったら、ある程度の情報は掴んでいたかも。敵兵ゼノスがそうだったように。
あの「潜空艦システム」を本気で使えば、敵国の首都に突然現れることが可能。敵も迎撃準備をするヒマなんてない。ガンジス島で図らずもお披露目したけど、初手でいきなり使ったら回避不可能だ。初見殺しどころじゃない。エグすぎるだろこれ。
そう考えると、多国籍合従軍が攻めてきたのも納得してしまう。あ、コーラとかガンジス島の人たちからすれば「ふざけんな!」だけどね。
あの侵攻軍ってもしかして、ラポルトの正体を暴くため、その能力を「お披露目させる」ために画策されたのかも知れないけど、どうだろ?
あまり各国の連携が取れてなくて助かった面があるし、侵略軍のわりにそんなに紘国本土にガンガン消耗戦を仕掛けてこなかったらしいし。
敵国からしたら、侵攻するのにも一応「理由」というか「動機」というか。
言い分はあった、ってことになる。
英雄さん。敵兵ゼノス、侵攻軍。この三者に共通すること。
視点や立場が違うだけだよね? 僕は感情的にはそう考えることはしたくないけど、それぞれに一理ある行動をしている。
「正義」なんだ。
***
「わかりません」
ラポルト退艦からの記者会見。騎士団長の錦ヶ浦さんに「正義」を問われた僕は、色々と考えてみてから、正直にそう答えた。
「わからない、か。ずいぶん素直なもの言いだ」
「はい。さっき錦ヶ浦さんは『騎士団は救国するのが通常業務』だって言ってましたよね? それって、誤解される良くない言い方ですけど、敵が攻めてきたら国を守るためとはいえ、躊躇なく敵を殺す、ってことですよね?」
「そうだよ。当然だ」
「今回、ラポルトの、あのガンジス島での戦いの犠牲者がゼロだったのは、僕らがそう望んだからですけど、逆にいえば殺す覚悟がどうしてもできなかったから。たぶん兵士としては失格ですよね。だからわかりません。『正義』って言葉はきっと、立ち位置とか状況によって、毎回毎回、全然意味がかわってしまうから」
「そうだなあ」
思ったよりのんびりした口調の、錦ヶ浦さんだった。
「じゃあこの問題。君が言った紘国の中での女性の立場の問題は? これだって立ち位置や視点、状況によって答えが違うんじゃないかな? 『女なんておとなしく男の言うことを聞いていればいいんだ』とかから、『いやいや、私たち女性のほうにもこうなった原因があってですね』とか」
「そう‥‥‥‥ですね」
思わずこう答えてしまう。錦ヶ浦さんの言葉には柔らかさと重みがあった。
「そうだぞ」
さっきの記者さんが割り込んできた。‥‥いや、僕と記者さんの会話に割り込んだのが錦ヶ浦さんだったっけ?
「この国に男子が生まれてこないのは事実。男の頭数を何とか確保するために、已む無く出生数を爆上げさせた。結果、男女の構成比がどんどんおかしくなる中で、長年かけて今の世の中の形になったんだ。自然な形で着地したんだ。男女比が戻らない限り、そうだな。誰か天才科学者様が『紘国の出生率の偏移の謎』を解き明かさない限り、この状態が続く。君がここで何を言おうがな? 何も変わらんのだよ。何も」
それはその通りなんだろうな。‥‥‥‥でも。
「はい。でも僕は」
肩の力が抜けた。自然と顔がほころんだ。
「僕は」
何となく錦ヶ浦さんの問いの意図がわかったかも。
あれは答えを出すための質問ではなくて。僕の思考を整理させるための問いだ。
あの「正義」って言葉は毒饅頭なんだ。使い勝手が良い便利な道具なんだ。
色々な視点、立場によって内容が全然違う、変わるのに、外面の良さは驚異的に変化しない。そんな言葉。
でも逆に。
僕は僕の「正しいこと」を見出せばいい。それを見つけて主張するのは、まったくそれぞれの自由なのだから。
錦ヶ浦さんから、そう言われた気がした。
だから。そうする。
「これは僕の願いです。ラポルトのみんなが。世の中の女の子たちが。もっと笑顔で、そして、ずっと笑顔でいられる世界を」
「僕は、望みます」
※暖斗の想い。




