第124話 時代を拓くということ。②
「‥‥記者さんは、実際に目で見てないものを、こうだと断定して記事が書けるんですね。すごいですね」
「うあ? 何だ急に? 君か?」
大きめの声で言った。わざと。‥‥っていうか、どうしても大きくなった。
会場の、他の記者、騎士団、軍や市の偉い人、みんなこっちを向いた。
「実際にラポルトに乗ってもない。あの場にいない。なのになんで女子が遊んでただけ、ってわかるんですか?」
「そんなものだろう? 井戸端会議ばかりで憂さをはらして、生産的なことはしない。女なんてそんなもんだろ」
「見ていないでしょう? ラポルトで彼女たちがどんなに頑張っていたかを?」
「ラポルト? ああ、あの戦艦の名か。軍のお歴然の前だから婉曲しますが、あの戦艦最新鋭でしょう? 何か仕掛けがあるんでしょう? でないと、いくらなんでも素人中学生が敵の大群を駆逐、撃退するなんてな。はっは」
「僕も全部は話せませんが。そうだったとしても、敵に立ち向かうには相当の覚悟や勇気が必要だった。戦略も。それを遊んでいた、なんて」
「いやいや。君らは間違いなく『救国の英雄』だ。軍がそう言うんだからそれでいい。だがさっきも言ったように、他の中学生でも代替可能だったろう。男子16人でも。君たち、特に後ろの15人でなければならなかった確たる理由があるのかね?」
「そんな言い方したら色んな可能性が色々出てきます。もう検証不可能なんだから、結果が出てから今さらここで言うのは、卑怯だと思います」
「ひ、卑怯だと!? 小僧が! 普通に考えればわかるだろう! 女なんかが戦艦に乗って活躍できるわけがない。常識的に男が乗ったほうが良い結果に導いたはずだ」
「良い結果、とは何ですか?」
「あの戦役でより多くの戦果を残した、とかだ。一例だがな。もっと多くの敵を倒したりできたはずだ」
「そうでしょうか? もし本当に『優秀な』紘国の中学生男子が集まってたら、こう考えたと思います。『万が一にも自分たちに犠牲者が出てはいけない。この国は男子は貴重なのだから。戦争には介入せず、ひたすらリスクを回避しよう』とか」
「むぐ、だがやはり戦争のような荒事には男が向いている」
「それはそうだとは思いますけど‥‥‥‥もう止めませんか。こんなこと」
「君が、貴様がふっかけてきた議論だろうが」
「えっと、止めると言ったのは言い合いじゃなくて、このことです。この国が、いつまでも女子を余り物扱いして、ちゃんと見てあげない、認めない空気を、です」
「そんなことを今さら。もう何十年もかけてこうなった結果だ。大衆が、男も女もこの形を望んだんだ。それで今の形になった。子供の君にはわからんだろうがな」
「だからこそ、もう止めるんです。かわいそうだと思いませんか?」
「ほら見たことか! 『かわいそう』だと!? いかにも中学生な意見だな! そんな感情論で口を開いていたのがバレたか。所詮は子供だな!」
僕の言葉に、あの記者はついに怒鳴った。
「‥‥あの‥‥」
怒号の余韻で静かになった会場に、女の人の声が響いた。‥‥そう。響いたんだ。
だって、その声はマイクを通した声だったから。
「司会の立場ではありますが、発言をお許しください。‥‥中学生くらいの子には実体験がないと思うけどね。紘国がこうなったのには経緯というか、歴史があるのよ」
とても滑舌の良い高い声は、司会の女性アナウンサーさんだった。
「まず始めに男の子の出生割合が下がって、結婚適齢期の男性が年々減っていったの。それに応じて重婚制度もひとり、からだんだんと4人まで増えていったけど、世の女性たちの焦りはどうしようもなかったの」
アナウンサーのお姉さんは、僕らのほうを向いていた。
「だったら『結婚を諦めてキャリアを積めばいい。独身で働けばいい』とも思うでしょう? でもそれは難しかったの。何しろ男の子が生まれて来ないから。当時の、いえ今でもだけど紘国女性にも出生数だけは維持しなきゃ、って風潮があったのね。ちゃんと結婚してちゃんと赤ちゃんを産みなさい、っていう国全体の空気が」
僕は後列の愛依たちに目をやった。
「とにかく数産めば6人にひとりは男の子だもんね。これで紘国は何とか維持できる。赤ちゃんを産むことは女しかできないんだから、私たちが頑張るしかない。‥‥当時も今も、私たち女性はみんなそう思って生きてます」
‥‥みんなたまに頷きながら、真剣に聞いてる。
「でもね。物事には良い面があれば悪い面も出てきたりするのね。‥‥重婚制度のおかげで相手男性に困ることは少なくなったけど‥‥ごめんなさいね。ちょっとあなた達には言いにくいんだけど、いわゆるシングルマザーとか、ええと。結婚せずに子供を授かる選択肢が選びづらい世の中の空気になったのよ。『子宝に恵まれた、つまり『できちゃった』のなら相手男性の何番目かの妻になればいい』って制度があるから、ね?」
そうか。このお姉さんの言いたいことが、だんだんわかってきた。
「さっき言ったみたいに、シンママは難しいの。それにこの女性の数でしょう? 結婚相手を探す競争率もスゴいけど、お仕事探し、就職も大変。女性が就きたい仕事の求人なんて、あっという間に埋まるからね」
その中で女子アナになったこの人たぶんスゴいんだろう。‥‥でもそれだけ苦労も多い、ってことなのかな。
「だから、みんな委縮してしまったの。この国の女性は。必ず誰かの何番目かの妻にはなれる。いえ。そうなる以外に選択肢がない。卑屈になった、とそう言ってもいいわ。みんな男の子に嫌われるのが恐くなってしまったの。たとえあまりそういうのを気にしない女の子がいたとしても、男子から不人気になってしまったデメリットは身をもって知るわ。色んな場面でね」
この人は、僕が言いたいことを察してくれている。たぶん。
その上で、記者の人との間に入ってきてくれているんだ。
「‥‥だから。男性だけが一方的に悪い訳じゃないの。男女比のバランスが崩れていく中で、何年もかけて、男と女の力関係も崩れていった。それが今につながってるのよ」




