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第124話 時代を拓くということ。①

久々の本編です。





 僕たちの「ふれあい体験乗艦」は、そのカリキュラムを終わろうとしていた。

 退艦式からの記者会見。


 時の総理大臣の飛び入り生中継、というちょっとしたサプライズもあって。

 何より「戦死者の無い戦争とその終結」を僕たちが成しえたこと、その報告がひときわうれしかった。



 そして、中断していた最後のメニュー、会場に来ている各メディアの記者さん方との質疑応答。




 僕は気を取られていた。記者の人の質問を聞き逃してた。


(‥‥‥‥無理よ。何も変わらない。世界も、私の家も)


 今一瞬、僕の大切な人がとても重要なリアクションをした気がしたから。




「‥‥君だよ。君。さっきの発言はなんだね? 一体何が言いたいんだ?」

「え? あ‥‥はい」


 さっきの記者さんだった。さっきの発言? 女子が割を食う件、幸せになれたら、って言った件か?



 ドクン。


 心臓が脈打った。‥‥‥‥「まだ僕は何者にもなれていない」。


 脳内でその言葉がリフレインしていた。



「えっと。何でしょう?」



「さっきの君の発言だ。『この国では何故女子が割を食うのか?』とか。その前にも、『この功績は自分だけじゃない。後ろの女子も含めた手柄だ』とか」


「‥‥たしかにそんな感じのことを言いました。‥‥ダメですか?」


 記者の人は、50歳くらい。お腹が出ていて、いかにもオジサン、って感じの見た目だった。僕の言葉に反応して、鼻の上に皺を作り、犬歯をむき出しにした。


「ああ駄目だね。我々報道各社も今回の件、女子の活躍が顕彰されないよう気を使ってたんだ。それをああいうもの言いをされたら‥‥‥‥台無しなんだよ!」


「なんで女子の活躍が目立ったらダメなんですか? 事実です」


「事実!? 本当にそうか?」


 記者は、一歩踏み出して僕を指さす。


「君がそう思っているだけじゃないかね? 乗組員が全員男だったら? もっと成果をだしていただろう」


「‥‥ラポルトに乗ってもないのに‥‥断言するんですか」


「いやいや。君たちがやってきたのは戦争だろう? 曲りなりとはいえ。そんな荒事に女子が向いていないのは自明の理だ。少し考えればわかるだろう?」


「そんなことは」


「君こそ断言できるのかね? 女では不眠不休で働かせる訳にもいかん。すぐ感情的な判断や行動をする。まして敵兵を殺す、などできんだろう。むしろ、その敵兵に囚われでもしたら難事だ。抵抗もできず、生きて戻れてもスパイを疑われる人生を歩む」


 ざわっ。


 僕と、後ろの席が明らかに動揺してしまった。


 敵兵に二度捕らえられた愛依の件。外部には絶対に秘密にする、とみんなで決めていた。あの英雄さんには日金さんが口止めさせると連絡が来たそうだし、ハシリューもアマリアも「逢初先生は恩人だから」と完全協力してくれてる。


「そういう事態に見舞われることもなく、無事『ふれあい体験乗艦』を終えることができました。僥倖であったと思います」

「今回乗艦の機会を頂いたこと、皆様の支援の数々、大変ありがたく思っております」


 子恋さんと渚さん、同時の発言だった。阿吽の呼吸のふたりが、発言タイミングが被るのは珍しい。


「ふん」


 記者は顎を上げて、ふんぞり返っていた。


 良かった。愛依の件は外に漏れてはいなさそうだった。代わりに「女子より男子だったらもっと良かった」の反論ができなくなってしまったけど。


 ただ、僕自身もちゃんと反論する自身が無かった。実証するには、男子のみ16人選抜して、もう一回同じ条件であの7月25日からの航海をするしかない。


 不可能だ。


 軍用スマホのアノ・テリアが「ピコン」と鳴った。紅葉ヶ丘さんからのメールだ。


 出版社のホームページが貼りつけてあった。あの目つきの悪いオジサン記者のいる出版社。『女性に厳しい論調』が売りだそうだ。‥‥だから気にするな、受け流せ、と書いてあった。



「わかったかね? 君も男なら、女子のおかげだなどと言わず、堂々としていたまえ。この国は男子が少なく貴重なんだ。逆に女が多すぎて、余って余って困っている。女が割を食うのは当然なんだよ。これでいいんだ」



 当然?


「ああ、こんな不幸な状態がいつまで続くのか? 早く誰か出生確率が傾く原因を見つけないと、馬鹿な女ばかりになって、本当に国が滅びるぞ」



 馬鹿?



「今回の件もそうだ。茶番がすぎる。こんな、年端もいかない中学生の子供、しかもその面子のほとんどが女ときている。それが集まって、国を救うような事績が起こせる訳がない。さしずめ全自動の艦内でキャッキャと騒いでいたくらいだろうに。はっ。本当に。とんだ茶番だ」



「ぬっ‥‥!」「麻妃ちゃん!」


 後ろから気配がした。

 僕を止めようとした麻妃と、その麻妃を止めた愛依の気配が。


 でも僕は振り返らない。振り返っても結果は同じだから。今は前を向くことしかしない。


「今回は唯一いた男子のおこぼれで『救国の英雄』なんて栄誉に浴することができるんだから、後はちゃんと嫁いで男子でも生んで、せいぜいお国の役に立ったらいい」


「「‥‥‥‥!!」」


 背中が無言の悲鳴を感知した。やっぱりそうだ。この国は。


 何かがおかしい。歪んでいる。




 前を向いて、標的を静かにロックオンする。


 今何て言った? あの年配の記者は?


 共に旅した仲間を侮辱したよな? ラポルトに共に乗った15人を。



 俺の仲間を。





「‥‥記者さんは、実際に目で見てないものを、こうだと断定して記事が書けるんですね。すごいですね」







※「ぬっくん伝説」は二種類で構成されている。スイーツとは別に。

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