第二部 第41話 乙女Ⅱ②
「いや‥‥僕の目は誤魔化せないぞ。‥‥アマリアの女子は、初対面の男には作ったキャラで来るから‥‥」
あごに手を当てて思案顔のぬっくん。‥‥‥‥何のハナシ?
「咲見さん。このアーフィリア女王は、海を越えた大陸、そこにあるグラロスという国の女王様なのです。今回この空中戦艦が起動するにあたり、主に食料などの資材面で、援助を申し出てくださった方なんです」
「え? 春さんっ! この人コーラと瓜二つじゃん。だったら‥‥」
私もそう思った。私は直接面識はないけど、名前が同じで容姿がまったく同じ!
この「コーラ女王」とあっちの世界のアマリア村の「ラポルトで一緒に戦ったコーラさん」は同一人物だよね。
もちろん、エイリア姫と愛依さんみたいな感じで、って意味だよ。あっちの世界の愛依さんとこっちの世界の人で、別人なんだけど遺伝子とか色んな意味で「合わせ鏡」の状態、ということ。
この「エイリア姫イコール愛依さん」ってのは最重要機密だから、あまり大きな声では言えないけれど。
「ああ、失礼を致しましたコーラ女王様。どうやら咲見さんは、転移前の世界で貴女にそっくりな女性をご存じのようです」
春さんは、「女王様」にそう答えた。‥‥そっか。これは春さんにハナシを合わせたほうが良さそう。
「まあ、エシスで? それは興味深いですね。イディアとエシスは鏡写し、表裏一体の世界。全く同一としかいえない方が、あちらにいてもおかしくないそうですね? それにその方同士が何らかの【リンク】をしていることもあるとか。あちらの世界の私。逢ってみたいわ」
「‥‥失礼しました。‥‥そうなんです。てっきりアイツかと」
「私も動画で見たことしかないけど、本当に瓜二つで。思わずその人かと思っちゃいました」
姫様に、ぬっくんと一緒に「取りあえず謝っておく」作戦。
私は、このコーラさんの顔を知っていた。もちろん私の代わりに人型兵器DMT「テオブロマ」に乗った人、ってこともあるけど。
ぬっくん達が「夏休み戦争」を終えてみなと軍港に帰ってきた時、彼女、コーラさんもラポルトに同乗していた。
その後、軍港で退艦式や記者会見をやったんだけどさ。
彼女はその会場にいて、軽く大暴れをしたんだよね。
ひな壇の出席者、つまりぬっくん達は未成年だし、個人情報保護もあって顔出しNGだったよ。声は加工されて画面上の見た目もアバターに置き換えられてた。
でも、記者席の後ろにいたコーラさんは、式に出席する予定もないしそういう準備も一切無かったから、カメラに素顔が映っちゃったんだよね。まあ本人が気にしなかった、というか積極的にフレームインしていったんだけど。
「いえいえ。無理も無いことです。‥‥では‥‥また後ほど」
コーラ女王は、ゆっくりとお辞儀をして脱衣所を後にした。それに春さんが付き従う。廊下には、姫の随身みたいな人が数人待機していたよ。全員、例の民族服の女性だった。
「いや~~。びっくりしたね」
「いきなりコーラさんだもんね」
「アイツ、本当に別人なのかな‥‥‥‥」
「でも、そういう感じだったよね。初対面って言ってたし」
「う~ん。まあどっちだったとしても、他国の姫様にタメ口ってわけにはいかないか。向こうや春さんに合わせるしかないよね」
「そうそう。もし同一人物とか、コーラ女王とコーラさんが入れ替わるキャラだったとしても、私たちは普通にしてるしかないよ。春さんだってラポルトでコーラさんと会ってるんだよね?」
「そうだよ‥‥あ、そっか。‥‥もしあっちの世界と関係性があるんなら、春さんはとっくに知ってるハズか?」
腕を組み、考え込むぬっくん。
「しかし、アイツが女王様だと! ‥‥むう‥‥むうう」
ものすっっごい、釈然としない感じのカオだった。
***
ちなみにお風呂に浸けてあったあのタコ魔物。春さんに「貴重な食材が~~」って言われた。
でもこのタイミングでコーラ女王が物資を差し入れてくれたから、夕ご飯のおかずが一品減る、みたいな事態にはならなくて済んだよ。
「僕が尻尾を掴んでやる‥‥! アイツがあんなおしとやかなワケ無いし!」
妙にこだわるね。ぬっくん。
意外とコーラさんと相性良いんじゃないの? 女子の勘だけど。
女王様と取り巻きの御一行様は、居住区4FのVIPルームで休むそうな。
一応、今はぬっくんが私を艦の案内してくれてる態だから、様子見に4Fに行くことにした。さっき行ってきたばっかなんだけどね。
あ、子恋さんが私たちに「艦内の安全確認を」とか言ってたのも、桃山さんがそれが完了すると同時に4Fのトイレ掃除始めたのも、もしかして?
コーラ女王様御一行が4F使うからだよね。きっとそうだよ。
ぬっくんとこっそりエレベータに乗る。目指すは4F。
「ねえ。ぬっくんはなんでコーラさんにこだわるの?」
「別にこだわってないよ。アイツはゼッタイ素のキャラを隠してるから」
「ハシリュー村の露天風呂に一緒に入ったから?」
「‥‥げっ‥‥ひ、ひめちゃん何でそれを!?」
「大丈夫よ。不可抗力だって聞いたし、ぬっくんは紳士だったって信じてるよ?」
「‥‥そりゃどうも」
「私の『テオブロマ』を、私の運用思想そのままに使ってくれたって」
「それは認める。コーラの前衛役は即席とはいえ、ちゃんと機能してくれた。なんか変なセリフ口走ってたけど」
「‥‥‥‥(へ、変なセリフ? ‥‥ま、まさか‥‥ね‥‥?)」
なんて言ってる内に4Fに到着。
でも皆さん、さっさと部屋に入ってもの静かだった。私たちは魔物がいるか見廻る態で廊下をウロウロして、ただの不審者だった。客観的になったぬっくんは、すぐに「もう帰ろう」って言い出したけど、私がねばったよ。
だって。ぬっくんの腕を掴んで廊下をおそるおそる歩くの、ドキドキしてちょっと楽しかったんだもん。けど。
結局コーラ女王の情報を得られずに、無念の撤退をしました。
帰りのエレベータで私は訊く。
「でもコーラさん。なんでそんなにぬっくん的に、信用ないの?」
「じゃあ話すよ。ひめちゃんも動画とかで知ってるよね。切り抜き動画じゃなくてその前の経緯からちゃんとさ。あの、ラポルト退艦式後の記者会見で‥‥」
「‥‥アイツが大暴れしたハナシ」
※次回からしばらく(というかようやく)、第一部のお話に戻ります(なんかすみません笑)




