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第二部 第39話 異世界は空中戦艦とともに。⑥






 と、いう訳で、予想より不自由なスタートとなった異世界での空中戦艦の旅。


 っていうか、まだ旅立ってもいないんだけどね。


「気になってるんだ」


 とはぬっくんの弁。ふたりで食堂を出て、1Fの廊下を歩いていく。あ、この道って「A通路」って言うんだっけ。医務室や武道場、戦闘シミュレータがあるところ。


 私としては売店や映画館がある「B通路」が、どうなってるのか気になるけれど。


 その内、通路を塞ぐ金属の壁が見えてきた。私は思わず来た道を振り返る。すると医務室や食堂の入り口、そして、終わりの見えないはるかに続く廊下が見えた。


 そっか。この艦全長550メートルあるんだった。あれ? 家からみなと第二中学(にちゅう)行くのと、大して変わらなくない? とにかくおっきな船だよね。



「このドアから入るんだよ」


 食堂から右に曲がり、廊下の突き当りの壁。その金属製の壁面の隅に、小さ目ドアがついていた。ぬっくんは、そのドアについたまあるい取っ手をくるくるまわす。まるで、というか潜水艦の隔壁のドアそのものみたいだよ。


「この向こうがDMT(ディアメーテル)格納庫なんだ」


 彼はまだ、取っ手をくるくるしていた。


「出撃の時もそうやって開けるんだ。なかなか大変だね?」

「いや、そういう時はもうこの隔壁自体が電動で開いてるよ。緊急発進なのにこんなことしないよ。今はほら、電力足りないから」


 そっか。そりゃそうだよね。



 ギギィ、と甲高い音がして、金属製の分厚いドアが開くと、その向こうから光が漏れてきた。同時に鉄製の工具を扱う金属音も。


 私たちはドアを抜けてその向こうに足を踏み入れる。設備機械がある細い通り道を過ぎると、巨大な空間が現れた。




「‥‥‥‥やっぱり。DMTは無いのか」


 その巨大な空間には、全高15メートルの巨人を載せるベッド「クシュローシス」が、立てかけた本みたいにいくつもあって、その全部が空の状態だった。


 ぬっくんはすごいがっかりしてたよ。いえ、私もだよ。


 だってDMTに乗ったぬっくんの勇姿、まだ見てないんだもん。




「お、お前らか~」


 カツカツと靴を鳴らして、奥から七道さんが歩いてきた。両手をポケットに入れて、お弟子ふたりを従えて。


「あ~~。やっぱ来たか、暖斗くん」

「‥‥‥‥。ども」


 やっぱりこの3人はいち早くDMT格納庫に来ていた。で、ここの管理PCや修理のシステムを起動させてたみたい。


 しかしさあ。七道さんと網代さんは旅芸人一座の大道具小道具だけあって、異世界でもそういう裏方的な服を着てるんだけど。


 目を引くのは多賀さん。このおもっこそSFチックな戦艦の人型兵器格納庫で、おへそ出した異世界踊り子風な衣装なの、強すぎる。




「やっぱDMTは未搭載、かあ」


「今しがた全エリア確認した。ここには迫撃用の兵器が無い。哨戒ドローンがちょっとあるだけだったよ」


「そっかぁ」


 あらためてがっかりする、ぬっくん。


「あ~しらは3Dプリンターと」

「‥‥‥‥。CAD/CAM見てくる。‥‥動けばいいけど」


 ん? この艦にその器材があるのは知ってるけど。さっき通った通路にあったし。


 でもこの「メンテ3人組」、この世界での【固有スキル】は、まさに3DプリンターとCAD/CAMの能力じゃなかったっけ?


「‥‥‥‥。そうだけど、出力できる大きさが違いすぎるから」

「あ~しらの能力は、作れる部品はせいぜい手のひらサイズ」


「そういうこった。ちなみに艦のほうでCADで削れるサイズは? 柚月?」

「‥‥‥‥。180センチ四方」


「プリンターのほうは? 千晴?」

「10メートル四方」


「ふえ~~。そんなに違うんだ~~」


 素直に感心した。いや、3人の【固有スキル】もなかなかにすごいんだけどさ。



「そもそもだ。電源が来て機械が動いてもどうしようもねえんだよ。原材料の光重合型の樹脂液とか、削り出しブロックが調達できないだろうからな」


 ポケットから手を出して腕組みをする七道さんに、ぬっくんが問いかけた。


「でも七道さん。3Dプリンターはしょうがないけど、CADだったら運用できない? インゴットを削るだけなんだから」


 その言葉に、七道さんは気色ばんだよ。



「それな暖斗くん! その削るためのドリルは合金相手に5回も使ったら、刃が死ぬんだよ。潤沢な在庫、工業力に裏打ちされた部品供給がね~と、こういうのは成り立たないんだよ」


 彼女の言葉に気づかされた。


 例え異世界に空中戦艦があっても、運用できなければダメじゃない? やっぱりこの世界では、維持管理に限界があるんだね‥‥‥‥




 ***




 一旦3人と別れて、私たちは格納庫を進む。奥から来たから、外、発進デッキと発進口のほうへ歩いているよ。


 DMTが搭載されていないから、そのパイロットであるぬっくんは特にやることが無い。だから私の艦内案内に適任、そういうことね。


「まあさ。ラポルトが『潜空艦』だってことはひめちゃんも知ってるよね? 長期潜航、長期作戦遂行のために、一年くらいメンテナンスをしなくても大丈夫なように作られてるとは聞いてるけど」


「でもそれって、準備万端に整備して、機材や具材を十分に積み込んだ状態で発進したら、ってことよね?」


「そうなんだ。だからみんな、艦内をチェックして今この艦がどういう状態なのかを確認してる。このラポルトが異世界に来たのって、いつのタイミングなんだろう?」


「この世界に来た時期? いつからこのダンジョンに眠っていたかってこと?」


「それもだけど、あっちの世界の、いつのタイミングのモノがこっちに転移したのか? 僕の部屋は片付けられて、でも他の誰かが入ってる形跡もない。ってことは、やっぱり『ふれあい体験乗艦』が終わって、戦艦の整備が終わったくらいの時期なんじゃないかな?」


「そっか。次の作戦に発進したんなら、当然パイロットとか乗組員の人が住んだ形跡があるもんね。3Fは誰も住んでなかった。じゃ、他の階は?」


「そういうこと。ひめちゃん。1Fの施設とか案内するけど、その謎もちょっと考えてみようよ」





 うや~い。なんかぬっくんと謎解き探検してるみたいで、ちょっと楽しい!






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