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第二部 第39話 異世界は空中戦艦とともに。④






「ん?」

「あっ。ぬっくん復活したの!?」


「お、それならちょうどいい。暖斗くん、姫の沢さんにラポルト艦内を案内してあげてよ? ついでに魔物がいないか見て廻りながら」



 ラポルトの重力子エンジンが無事起動、全長550メートルの戦艦に電気がまわり始めると、ラポルト女子たちは一斉に各所に散っていったよ。自分の持ち場がどうなってるか? 気になってしょうがないみたい。


 ‥‥‥‥ちなみに不慮の事態、魔物が入りこんでないか? それを踏まえて複数人での行動だった。紅葉ヶ丘さんが、全艦規模でセキュリティをチェックしてくれたけど、まだ十分じゃないんだってさ。


 で、私はブリッジに行ったよ。だってそもそも持ち場が無いんだもん。最初こそ春さんと愛依さんにくっついて食堂に行ったけど、別にやることがあるワケでもないし。


 で、中央エレベーターからブリッジに入ると、赤ちゃん姿から戻ったぬっくんがいた。なんかね。ラポルトの艦内で会うとヘンな感じだよ。ぬっくんも手持ち無沙汰なのかな。「ん?」「あっ」って声を上げたところで、暗黒微笑を口もとにたたえた子恋さんに、声をかけられたんだよ。


「適任だね。うん。姫の沢さんは魔法剣士で万能タイプだし、異世界での戦闘経験も豊富だし。魔物なんていないとは思うんだけど、最終確認はやはり、人の目でやらないとね」


 う~ん、なんか。

 ラポルトの艦橋(ブリッジ)にいる子恋さんは、目が輝いて生き生きしてたよ。



「じゃ、そうしようか? ひめちゃん」

「うん」


「あ、暖斗くん。何かあったら各所の固定電話でお願い。使い方わかるわよね?」

「あっそっか。今僕ら軍用スマホとか無いから‥‥うん。たぶん大丈夫。渚さん」




 私とぬっくんは中央エレベーターに引き返した。


「行ってらっさ~~い!」

「お気をつけて」


 支援ドローン、ケラモスの操縦ブースにいる泉さんとまきっちに一応挨拶して、エレベーターに乗った。


 泉さんは戦艦が航行する予定がまだ先なので、艦のドローンの有人操縦を手伝うそうだよ。




 ところで、ぬっくんいつ復活したんだろ?


「さっきだよ。愛依が医務室に入って、赤ちゃん姿の僕のメディカルチェックをしようとしたらしい。部屋の機材を確認していたら、ベッドに寝かせていた僕が光ったんだだって」


 愛依さん。ぬっくんベイビィ抱いて放さないもんね。


「でも驚いてたでしょ?」


「そだね。ってかパニックになったって感じかな。‥‥ほら、今の姿の僕に戻ったら服着て無いと思ったらしくて」


 わかる。愛依さんは、ぬっくんベイビィが元に戻るの見るの今回が初めてだろうし、まあ普通そう考えるよね?


「で、悲鳴が上がったから、春さんが厨房から飛んで来たよ。帯剣して」


 そうだった。医務室のバックヤードと食堂の厨房は通路でつながってたんだった。


「大変だったね。でもぬっくんはいいよ。結局はちゃんと服着た状態で戻るんだから。‥‥‥‥私なんて、ドラゴン化から戻る時、本当にすっぽんぽんなんだもん」


「‥‥いや‥‥それ僕に言わないでよ‥‥‥‥」



 なんて雑談をしながら、エレベーターが来るのを待って、そして乗り込む。

 うん。雑談だよ。別にぬっくん困らせたりしてないよ。たぶん。



「3F?」

「うん」


 ぬっくんは入るなり、3F行きのボタンを押して。そしてさらっと言った。


「僕の部屋がある階だよ。そこから探索しよう」




 いきなりぬっくんの部屋? ええええ~~~~!?!?




 と、不意にエレベーターのドアが開く。もう着いた? 戦艦だから? エレベーターの上下むちゃくちゃ速い!

 ってか私が、テンパってただけなのか?


 うう、3Fは男子階。照明は明るいけど人けが無い。


 ぬっくんが使ってた部屋は、エレベーターから少し歩いたところ。


 あの「ふれあい体験乗艦」の時の乗り組みメンバーは、男子ひとりに女子15人だったよ。で、修学旅行のホテルみたいに男子と女子は別階に配置された。‥‥まさか暖斗くんが女子の部屋に夜這いをかけるとは思えないんだけど、一応。運営さんの配慮ね。


「あ、ここが銭湯みたいなお風呂で、ここがアルファルファって草を栽培してた部屋でね~。‥‥あ、もう元に戻ってる‥‥。で、こっちが僕の部屋だったんだよ」


 そのお風呂とか。2Fの女子階では15人でひとつを使って、3F男子階では暖斗くんひとりが悠々、という事態が発生したんだよね。まきっちなんかはさっさと3Fのお風呂を使いだしたんだけど、それはそれで暖斗くんとニアミスする可能性があったから問題になったらしい。



「‥‥普通の部屋?」


 彼の部屋を見た第一印象。ベッドと椅子と、壁際の机。ビジネスホテルみたいな感じ。意外と? というか、とにかく普通のお部屋。


「そうだよ。僕が使ってたってだけで、退艦する時にちゃんと片付けて引き渡したし」


 そりゃ、そうよね?


「う~ん。据え置きのティーパックとかあったんだけどなあ。今はさすがに無いか。じゃあ食堂に行こう。何かあるかも」


 ふう。結局ぬっくんの部屋への「連れ込まれ」イベントは起こらなかった。ふふふ。まあ、他のみんなは働いてるんだし、悪いか。


 中央エレベーターへ行きがけに、さっきの部屋をもう一度覗きたい、とぬっくんに言われた。植物の栽培部屋だったところだよ。



「‥‥‥‥やっぱり。元に戻ってるなあ」

「どういうこと?」


「僕らが艦を降りた後、軍のほうで戦艦のオーバーホールとか整備をしたと思うんだ。その時にこの部屋も普通の部屋に戻したハズ。‥‥と、いうことは、それ以降のタイミングでラポルトは、この世界に来たってことになるね」


 そっか。私たちが異世界に来てるっていうことは、「あっちの世界」では私たちもラポルトも行方不明になってる、ってことみたいだし。


 それについては春さんが「心配ご無用」って言ってたけど、正直不安は残る。春さんが嘘ついたり、いい加減なことを言わない人だってのはわかってるんだけどね。


 悩んでも答えはないよね。そもそも異世界転移が異常な出来事なんだもん。



 で、食堂へ向かう。

 エレベーターから1Fへ。


「2Fは?」

「その階は女子部屋の集まりだよ。体験乗艦中だって一切行かなかったよ。麻妃のヤツがニヤニヤしながら、『たまには遊びに来なよ?』とか言ってたけどさ」


 そっか。


 1Fの食堂に到着。春さんがホットの麦茶を出してくれた。


「賞味期限は大丈夫です。紘和61年12月でした。ほら、ここに」


「ほんとだ。じゃあやっぱり。僕らが降りてからそんなに月日が経ってないラポルトだ。たぶん」


 麦茶の賞味期限は、ぬっくんの説をざっくり裏付けていたよ。


 は~~。あったかい麦茶美味しい。異世界(ここ)には麦もお茶もあるけど、やっぱり故郷の味は格別だよ。あ、おかわり飲みたいな。春さんに頼むの悪いから自分で淹れてこよっと。


「待ってください」

「へ?」


「麦茶はひとり一杯です」

「え?」





「子恋艦長からの、お達しです」






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