第二部 第39話 異世界は空中戦艦とともに。③
私たちの故郷「紘国」がある、いわゆる地球がある世界。
そしてこのエイリア姫や春さんがいる、この世界。
ふたつの世界に名前はない。だって。
どちらの世界も「他の世界があるなんて想定してない、唯一無二のはず」だから。
ただ春さん達のほうは一部の人が「地球世界」とを行き来したりしてるから、この世界の古い言葉で「エシス」、「イディア」と呼び分けてる。確か「エシス」が「あちら」、「イディア」が「こちら」という意味。
あくまで、春さん達視点で、私たちの世界を「あちら」と呼んでいるだけだよ。
そして「こちら」であるはずのこの世界に、「あちら」の文物である巨大空中戦艦が存在することがわかったよ。
もう何が何だかわからないね。
とりあえず。
私たちは動かない戦艦のあれこれの説明を受けているよ。
七道さんの電池の説明は続く。
「全個体電池つったって要は電池だ。時間が経てば充電した電力は漏洩して無くなる。ただそれだと、重力子エンジンを起動する時の電力も無いんだよな。それがこの戦艦復活させるためのネックだったんだよ」
それって、今の私たちの世界にある「重力子エンジン」と仕組みは同じだよね。「重力子回路」は電力供給されれば重力を生み出して発電機を回す。どこかが物理的に壊れるまで永遠に発電してくれる。で、その生まれた電力を回路に回して更なる電力を産む、を繰り返して徐々に増幅していく仕組み。
でもその一番最初の電気は、外から持って来るしかない。他の重力子エンジンの、起動用のバッテリーから持って来てもいいし、何ならホームセンターに行けば「回路起動用発電セット」が普通に売ってるし。
今の戦艦ラポルトは、バッテリーがアガった車みたいなものなのね。ふむふむ。
重力子エンジンあるあるだよ。どんどんエネルギーを生み出す夢のマシン、重力子エンジン。
無限にエネルギーを生み出す反面、やっぱり最初の起動の時にはそのための電力が要るんだよね。いざエンジンを動かそうして、アクシデントで全個体電池の電池が切れてたとか、断線とか、紘国でも割りとよくあるお話でもある。
ただ今回は規模が違いすぎるのか。こんな巨大戦艦の、巨大なエンジン。起動させるのにどのくらい電気がいるのかは、私にはぜ~んぜんわからないよ。
子恋さんと渚さんが補足の説明をしてくれる。
「カミヒラマ国ではね、このダンジョンにラポルトが眠っていることは知られていたんだよ。いや逆だね。ラポルトが眠る自然洞窟を発見したんで、その道程を整備してダンジョン化したんだよ。しかも、特定の能力が無いと入れないように細工したり、途中に訪れた者の能力を計る仕掛けを作ってね」
「その時に、ラポルトの状況も可能な限り調査されたのよ。大魔導士が魔法探査もしたそうよ。その記録があったから、私たちはこの洞窟の存在を知り、攻略のトライをすることができたの」
「うん。そういう訳で、このバッテリーの電力枯渇は予見できたんだ」
「予見ができれば対処もできるわ。そのために動いてもらったのが、泉さん」
泉さんは、にっこりとうなずいていた。
「魔力炉、って言ったらあまりにも安直かしらね? 私の【スキル】を使って即席で重力子エンジン起動装置を用意しただけ。本当に動くかは『メンテ3人組』にお任せするわ」
「おう。任された。配線等々は私らの【スキル】とこの戦艦にあるハズの修繕具材で間に合わせるからな。っつ~か、なんかそのための能力のような気はするな」
ばっち~ん。「痛い!?」
ナゼか私が、七道さんに背中を叩かれたよ。
魔法の火で燃えない性質を持つ「カノン・ギフト」。そもそも魔法耐性を持つ紙とインクで作られて、それを泉さんの【スキル】で永久定着させたからだよ。
もしそれを、壺の内側に隙間なくぎっしりと貼ったら? 魔力を通さなくなるよね。
その中に魔石をたくさん放り込む。外に魔力が漏れることが無いから、容れ物の中の魔素濃度が上がって、魔石が少しずつ崩れて魔素に還っていくんだって。
私たちは二班に分かれて艦内探索に入り、メンテ3人組はその巨大な壺、魔力炉と重力子回路を電気配線でつなぐ。
その間にも炉の中の魔石は崩壊していって、雷魔法を取り出しやすい状態になるんだって。
探索は1FのA通路、つまり医務室や食堂を確認して戻ってきて、他班は中央エレベーター横の非常階段から艦橋を見てきたみたい。
エンジンルームで合流した私たちは、そのルームから退避した。メンテ3人組の準備が終わっていたから。
他区画に移って、春さんが生み出したサンダーボールを。
「【リンク】!」
まきっちの【追従性】でコントロールした。
「ほい」
「そうです岸尾さん。そのまま魔力炉の上部突起に」
「あれ? 春さん。あの雷魔法はまきっちが動かしているの? なんで?」
「ええ。動かしているのは岸尾さんです。彼女の【追従性】を【リンク】で借りれば、確かに私は雷球を精緻に動かせます。でも、私の雷球を彼女に貸したほうが上手くいくんです。そもそも、岸尾さんの空間認知能力が非常に優れているからです」
なるほど。
確かに、まきっちはそういうの大得意だからね。伊達にドローンレースで入賞したりしてないもんね。スキルだけでは解決しない例もある、ということか。
安定して飛んだ雷球は、魔力炉の上に突き出た金属棒に静かに命中して、円柱状の巨体にバチバチッって稲妻が走った。
その雷光は配線から、重力子エンジンにまで一瞬で走って。
‥‥‥‥静寂。
‥‥‥‥沈黙。
え? 失敗? ‥‥みんな黙るの止めてよ。‥‥何かしゃべってよ~~! って言おうと思った刹那。
ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥!!!!
ものすごく低い地響きみたいな音を足に感じて、それがだんだん大きくなって。
そうしたら、音が小さくなって聞こえるか聞こえないかくらいの音量に落ち着いていったよ。
みんな、というか私以外のラポルト勢が顔を見合わせていた。みんな「ほっ」っとした顔だ。子恋さんが指を鳴らした。
成功だ! これは!
「作戦完了!」
※ 泉さんの能力は「異世界経済モノ」だけでは無かった、ということですね
(*^。^*)




