第二部 第39話 異世界は空中戦艦とともに。①
愛依さんが放った光の奔流は、巨大な魔物の上半身を吹き飛ばしていた。核となる魔石も塵と消えたみたい。
バラバラと砕けながら散っていく水晶のカケラ。貫通した洞窟の壁も崩れてきていた。
その瓦礫を魔法で取り除くと、壁の向こうの空間が見えてきた。ラポルトのある空間。
やはりそこは、私たちがいた洞窟と同じくらい広大だった。だってラポルトは全長550メートル。それがすっぽり入ってる洞窟だもんね。
みんなで巨大な艦影に近づいていく。‥‥あ、カミヒラマの医療部隊さんだ。あれ? 水晶魔物と戦ってる時、どこにいたの?
「うお~。近くで見るとでっかいね」
「ちなみが乗り込んだ時にはぁ、海上に艦橋部分だけだったしぃ」
「パイロット組以外は、ラポルトの全景あんま見てね~んじゃね~か?」
「‥‥‥‥。フジツボついてない?」
「あ~。代わりにツルみたいのが茂ってる~?」
このラポルト、空中戦艦という呼び名は仮の姿。本当は「潜空艦」という唯一無二の艦艇だよ。
「懐かしいね。ね? べ‥‥暖斗くん。むちゅ~」
剣と攻撃魔法は無理、だから治癒専門のぬっくんベイビィお世話要員、だったハズの愛依さん。
それがまさかのエイリア姫ばりのエグい超絶火力を発揮して、そして今はまたベイビィお世話要員に戻っていた。
「何時からココにあるんスかねぇ?」
「うふふ。ほんと何時からかしら。あ、ここから私が忙しくなるんだったわ」
「お? また、泉さんの出番?」
唯一無二、というだけあって、その艦の形も唯一無二だよ。
愛依さんはその形を「お風呂にいれるアヒルさん」と評したそうだけど、私もほぼそれで異論はない。
丸っこいというか、流線形じゃない、というか。とにかくそんな形。
あのガンジス島戦役では、その空に潜む能力で、多国籍合従軍をボコボコにした。
もちろん、ぬっくん達「ラポルト16」の活躍があってこそ、だけどね。
「動くのかな?」
ちょっと年季が入った感じで、洞窟の植物が蔓延った船体を見ると、ついそう言ってしまう。
「大丈夫です。きっと動きます。いえ動かせますから」
そっか。春さんや姫様は、ここにラポルトがあることを知っていたんだね? そして附属中3人娘も。
そしてこの洞窟は、それに乗り組む私たちを試す「試練」がある。ラポルトの格納と隠蔽、あと搭乗者の資格テストをするためのダンジョンだったんだね。
***
「敬礼!!」
「「はッ!!」」
子恋さんの掛け声によって、渚さんと紅葉ヶ丘さんもビシッと敬礼をしていた。靴底をパァンと鳴らして揃える、気持ちの良い敬礼だよ。
‥‥‥‥ま、紅葉ヶ丘さんは宝珠から降りる時ゴネてたけどね‥‥若干‥‥。
土魔法で階段を作り、艦体後部のハッチから入りこんだ。電源が落ちているのか、3人娘が非常用の手動装置でこじ開けてたよ。
艦の中に入る。‥‥‥‥何気に私は初めて。
「うん。ちなみにココは1F、A通路の最後部。異常は無いみたいだね。ああ、だけど魔物が入りこんでる可能性もあるから、単独行動は見合わせるよ?」
と言って早速医務室に行こうとした愛依さんを、子恋さんが止めた。
そう言えばそっか。みんなで固まって、艦のエンジンがある後方下部へ移動したよ。
ちなみにカミヒラマの医療部隊さんは、外で待機だった。
「さ、ここからは私の出番。逢初さん、次元収納をお願い」
泉さんが進み出た。エンジンルーム、といってももの凄い広い空間なんだけど、そこに巨大な壺があった。
泉さん。盗賊団の再襲の時もそうだったけど、「ここ」ってタイミングで出てくるよね? それまで空気だったのに。子恋さん並みに次の展開がわかってる感じ。
壺って言ったら変? プールみたいに大きな入れ物があった。とにかく高さ5メートルくらいで、直径は3メートルくらいだよ。壺、で違うんだったら、ラーメン屋さんのでっかいステンレスの鍋みたいなモノ。「寸胴」って言うの? あれの超巨大なヤツ!
泉さんは逢初さんに歩み寄って、預けていた、というモノを取り出している。
それは、大量の「カノン・ギフト」だった。
「このカノン・ギフト、裏面を水、火、雷の順番で魔法で炙ってくださいな。そうしたら接着成分が出てくるから」
「「は!?」」
「この世界の木の魔物から、膠みたいな原料が採れるの。それにも耐魔法性能があって。私の【不可逆性侵襲】を、既にかけてあるから」
「「‥‥何のために?」」
「おほほ。説明順が逆だったわ。その手順でギフトの裏面に接着成分を出して、この壺の内側に貼っていって欲しいの。それをみんなで手伝って欲しいのよ」
「ギフトの裏面ってどっち?」
「額面が書いてあるほうよ」
なるほど。この円柱状の空間の内側にギフトを貼ることが、ラポルト復活の前準備なんだね?
言われた通りにカノン・ギフトを水、火、雷の順番で魔法を当ててみたら、確かに何か染み出してベタベタしてきた。
なんかあっちの世界の、切手とか、宅配便に貼る宛名を書く紙を思い出していた。
「じゃあ、その接着面を、この容れ物の内側に貼っていって。お願いしま~す!」
と、いうワケで、壺状の容器に一万円札大のカノン・ギフトを、ぺたぺた貼る作業に突入。‥‥さっきまで中ボス相手に激闘してたとは思えない、呑気な展開。
とはいえ楽しかった。女子16人、文化祭の前準備みたいな雰囲気で。
「‥‥‥‥」
手を動かしながら思いだす。愛依さんの【古代語魔術】。
「ね? この世界は昔紘国の人がやってきたから、言葉とか度量衡とかが紘国のモノなんだよね?」
壺は大きいといっても、16人全員は入らない。あ、ぬっくん入れるから17人か。
必然的にぬっくんベビィお世話係、ギフト運ぶ係、魔法かける係、貼る係に分かれていた。
水、火、雷の三属性が必要だからね。このメンバーだと。
水属性は意外にも多賀さんのみ。
火属性はまきっち、七道さん、子恋さん。
雷属性は渚さん。
まあ私と仲谷さんはその三属性全部使えるから、私たちが魔法係でいいかな?
特に指示役がいなくても、自然と一瞬で、過不足ない適切な配置に行きついた。こういうの、ラポルト16の地味にすごいところかな。
「そうですね。昔、私たちの祖先がこの世界にいた時には、オリジナルの言語や文物があったそうなんですが」
魔法をギフトに当てる係。私のとなりには春さんがいた。
「こちら側から見てひめさんたち。異世界人が来るようになって、固有の言語がだんだんと衰退していったようです。最初は鳴国とか色々な国から人が来ていたようですが、紘国の方の比率が多く、この世界は紘国語で統一されていった、と」
「なんか文化侵略みたい‥‥」
「いえ。ひめさんがそんな事気にしなくても大丈夫です。異世界人はこの世界の人が呼んだのですから。文明を学び、紘国式に度量衡を統一し、言語もそうなりました。‥‥正直あの古代語、丸や三角の文様ばかりで文字としてはどうかと思う次第で」
春さんにそう言われてほっとした。
「先ほど、『私たちの祖先』と申しましたが、それも不確かな概念です。今となってはもう、この世界由来の人間がどれだけいたのかもわかりません。どれだけ他世界から来た人と混血したのかも」
そう、なんだよね。エイリア姫は名前こそ欧圏風だけど見た目は愛依さんと瓜二つ。
側近の春さんなんかはもう名前が「仲谷春」って紘国風だよ。
血も含めて、この世界は私たちの世界と密接、‥‥ってことか‥‥‥‥。




