第二部 第38話 ギフテッドってチートだよ。使い方次第だけど。
「やってみたいこと?」
私が訊き返す。水晶の人型魔物が暴れて、みんなで応戦している中、ぬっくんベビーを抱いてぽつんと立つ愛依さん。
彼女の治癒魔法は的確だけど、ベビー係をしてもらってる。やっぱり異世界剣と魔法バトルは、いきなりは無理。
「うん。【アルヘオ・マギアス】なんだけど‥‥」
「「【アルヘオ・マギアス】!?」」
反応したのは附属中3人娘だった。あ、彼女たちも知ってたんだ。
「古文書にある、古代語の魔術でしょ?」
「あら逢初さん、使えるの?」
「へえ。だったら暖斗くんのマジカルカレント以来のうれしい誤算だね」
と喜ぶ3人に、春さんが水を差す。
「まさか!? 無理です。古代語の習得は王族のみ。一般人は読み書きはできません。エイリア姫ですら数種類しか行使できない魔法を、一体どうやって? まさか中の姫様が?」
それは愛依さんが否定した。彼女の中にいるエイリア姫は、眠った状態。愛依さんがその能力を行使できるワケじゃないって。
「えっと。だからやってみたいというか、試してみたい、っていうか」
「無理です。【アルヘオ・マギアス】とはすなわち古代語。逢初さんが図書館で、その類の本を閲覧したのは知ってます。でも、仮に字面をその『超記憶』で把握したとしても、発音まではわかりません。堪能な古代語話者ではないと、【アルヘオ・マギアス】は扱えないのです。考古学です」
確かに愛依さんは『超記憶・超計算』のギフテッドだよ。でもそれ以外は常人と変わらないし、あくまでそのギフトは「記憶力がスゴイ」「暗算能力がスゴイ」だけ、だとも聞いてる。
しかも、愛依さんのそれは「画像、映像記憶ではない」とも。
ガンジス島戦役、このラポルト16が戦った夏休み戦争で、愛依さんは敵兵に捕まった。ツヌ国の基地に連れてかれた時に、基地から歩いて脱出したそう。
その時には基地内の道順を「小説のように言語で」憶えていて、見廻り兵が歩哨するタイミングを計算しながら、それを躱したそうだよ。
私みたいな普通の子からしたら、それだってトンデモなチート能力だけど、神様みたいになんでもできるって訳じゃない。図形や音声は「超記憶」の範疇じゃあ無いってこと。
だから、事情をよく知る春さんが【アルヘオ・マギアス】、それの再現を「不可能」だと言うのもよく分かったよ。
「待った! 前衛ふたりがキツイ! フォロー!」
戦闘中にこんなやりとりをしてたら、まきっちに怒られた。魔法で射程攻撃してた子も盾役ふたりに【リンク】して、魔力供給をする。
結局守勢一辺倒になった。
「‥‥‥‥このままじゃジリ貧ね、光莉」
敵、人型水晶魔物の、殴ってくる勢いは衰える気配が無い。
「うん。今調べたけど、敵のダメージは軽微だ」
「全員の魔力が切れる前に、撤退するならすべきでしょ? 宝珠の残存魔力は残り40%切ったよ?」
附属中3人娘も敗勢を悟ってる。
全員がこのままじゃ‥‥ってなった時に、陣形の中心に魔法の光が起こった。
見れば愛依さんが、ぬっくんベビーを泉さんに預けて魔法発動、その身を青白く輝かせていた。私は思わず止めに入った。
「でも愛依さん!? 【創造妊娠】は非生物には!?」
愛依さんのあの超絶拷問スキルは、対生物なら有効だよ。対象を妊娠に似た状態にして、それを経験させてしまうんだから。
でも今対峙してるのは、水晶みたいな鉱物? を体に持つ物質系の魔物だよ。彼女を襲った野いちご魔物と同じく、相性悪いハズ。
いくらなんでも、あの魔物をその系統の魔法で攻略できるとは思えない。
あの剣も魔法も効かない半透明ボディを吹っ飛ばすような、エイリア姫の規格外の火力があれば、ワンチャンなんだけどね。
「ええぇ!? 逢初さん‥‥‥‥!」
らしからぬ声を上げたのは、冷静生真面目な春さんだった。
見れば、愛依さんが纏っていた青白い魔力光が、彼女の前面に集まり出している。
「‥‥それは‥‥?」
「魔法陣!?」
彼女の前面にできた光の、その正体を見極めたのも春さんだった。
青白い光は、愛依さんの前に平面を作って、幾重もの同心円と文様みたいなのを形作っていた。
みんなは‥‥附属中3人娘も含めて‥‥起こっていることの事態もわからない。
「どうしてその魔法陣を?」
「図書館で見たの」
「図形は憶えられないのでは?」
「文字で憶えたの。わたしのひいおじい様の言葉。『数学は言語だ』って」
「しかし、そんなバカな!?」
「理屈は簡単よ。見た魔法陣を、すべてxy軸上のグラフの図形と捉え、座標と数式に置き換えるの。それを丸暗記しておいて、今、思い出して計算しながら取り出しているの」
「「「はい?」」」
‥‥‥‥確かに言ってたよ。
・古代語魔術は、古代語で詠唱する必要がある。
・もしくは、それを図形に置き換えた魔法陣でも代用可能。
・ただし、魔法陣はかなり精緻に書かないと起動しない。紙に記した魔法陣も、紙がよれたり経年劣化で汚損したら使えない
七道さんの発言。
「あ~~確かにな。逢初の曽祖父、阿井染愛壱博士のお言葉は『私は世界の事象を数式という言語に翻訳しているに過ぎません』だったな。その魔法陣を言語に翻訳しちまった、と」
つまり愛依さんは。
複雑な文様の魔法陣を、数学の教科書に出てくるみたいな「図形の数式グラフ」に置き換えて全部メモリーして、それを今、再計算して出力してる、ってこと!?
「円を描くなら中心x、y、半径r」
「三角形なら底辺a、bと高さh」、みたいな?
パソコンが、魔法陣の画像を画像データで記憶するんじゃなくて、表計算で数字と方程式で取り込んだ、みたいな?
それを自らの前面にその魔法力で出力、「書き出してる」ってこと!?
これチートでしょ? デタラメが過ぎる! まさに「記憶力・計算力」のギフト!!
ってか、この方法を思いつくのがまずヤバい!!
「行きます!」
逢初さんの魔法陣が完成して、まとった青白い光が前面へと収束していく。
「【古代語魔術】、‥‥‥‥煌閃」
光の奔流。
まるでラポルトの主砲のようなビームが、轟音と共に魔物に向かって放たれたよ。
※なぜ愛依の持つギフトが「記憶」と「計算」だったのか?
物語根幹からの伏線回収です。
そして第二章のタイトル「マギアス」も。




