第二部 第36話 出た! ダンジョン。攻略実況する?⑤
地下3F。ううむ。
ここは今までとちょっと違ってた。二股に道が分かれてて、それぞれに3人分の参加用くぼみがあった。
両方とも同じ作り。バスケットコートくらいの大きさの部屋が区切られていて、通路からは四角い窓みたいな穴が開いていて、中を覗ける。暗いけど。
ちょうど学校の廊下があって、両側に教室があって。廊下の窓から両方の教室を覗けるみたいな感じ。お題の看板がぶら下がってた。
右側の部屋のお題は〖兵棋演習 其の棋力にて彼を撃破せん〗‥‥なんて読むの?
左側の部屋のお題は〖実戦演習 其の武力にて彼を撃破せん〗だった。
「うん。それはね、『へいぎえんしゅう』と読むんだ。姫の沢さんシミュレーションゲームってわかる? 将棋みたいに実際にミニチュアの駒の軍隊を動かして、試しに戦わせるんだよ」
ふむふむ。ぬっくんが好きな戦略系のゲームみたいなのね! じゃあこれは!
「そう。私たち『国防大学校附属中学』の生徒なら普通にやってるわ。しかも私と光莉が組んだら勝率100%!」
「そうだね。うん。3人となってるから、当然最後の一席は、澪!」
「はぁぁ。私もやるのか~」
「そうよ。やるわよ!?」
「ぎゃ~~」
頷く子恋さんと、すかさず紅葉ヶ丘さんの首根っこを掴む渚さん。
紅葉ヶ丘さんは、あくまで面倒くさそうだった。
「こっちの部屋は『実戦演習』? 実戦! 要は普通に戦えばいいのね!?」
この張り切った声は初島さんだ。
「っスね。自分らにピッタリでしょ。あと、物理攻撃得意な脳筋組は」
「もぉ。やるわよぅ。変なお題の時にやりたくないしぃ。あと、ちなみ脳筋じゃないしぃ」
来宮さんと折越さん。3人揃った。
特に折越さんは「ふれあい体験乗艦」の時より異世界のほうがニーズあるもんね。あんなに格闘術が強いって知らなかったし。
グーパンチ3人娘だよ。
「じゃ、同時に行きましょう」
「「了解!!」」
それぞれが左右に分かれて、教室の入り口、地面のくぼみに足を入れる。
一瞬それが光って、各部屋に3人ずつが転送された。
「「あっれえ?」」
最初に変な声を上げたのは左側チーム、脳筋‥‥もといグーパンチ3人娘だった。
「『実践演習』‥‥だよね?」
「もっとこう、中ボス的なのがど~んとくるかと」
「え~~。マス目があるよ。駒があるよぅ!?」
実践演習チームが入った左側の部屋。参加者が転移して部屋の様子がわかったら、なんか想像してたのと違ったよ。
大人ほどの大きさの駒が並んでて、地面には正確に正方形のマス目が、市松模様で書かれてる。並び方は、チェスとか将棋みたい。手前側三列が自分の陣地? で、手駒? なんか、「人間将棋」そのものみたいだ。
ちなみに私たちが見てる窓は、そのチェス盤を見下ろす高い位置にあった。なんか体育館の2Fから、バスケの試合を見てるイメージ。
「あ、じゃあこっちはもしかして?」
その声を聞いた渚さんが部屋を確認した。右のほうだ。
「う~ん。『兵棋演習』って割には駒がないね。ただの平地だ」
「‥‥これ普通に練兵場じゃ?」
「そうだね。うん。兵棋演習的要素は残念ながら、皆無だね」
転移して明るくなった部屋を、子恋さんが確認していた。
両方ともバスケットコートくらいの広さ。片方には正方形のマス目と駒。片方は平地。
あわわ? これってヤバいでしょう!?
「え~~!! お題が左右逆じゃない!?」
私が悲鳴を上げると、泉さんが各部屋の表札を確認に走った。
「‥‥!! あっ、このお題外せる‥‥!? やっぱり入れ替わってるかしら」
「えぇ!? 外せるの!?」
驚いたけど、そこじゃない。今から試練が始まるというのに。
適正のあるメンバーが、それぞれ真逆の部屋に入ってしまっている。
つまり。
〖兵棋演習〗をすべき試練に、初島・来宮・折越の実戦派3人!
〖実戦演習〗のほうの試練に、子恋・渚・紅葉ヶ丘の頭脳派3人!
ヤバいよ‥‥最悪だ!
左の部屋のマス目に置かれた駒が、数体動き出した。まさにチェスみたいな意匠で、前衛の盾役、戦士、後衛の魔法使いみたいなデザインだ。それが6体陣形を組んで、こっちエリアの駒に攻撃を当てだした。駒は味方だけで24個ある。敵陣地にも同数。
「初島さん! こっちも何かしたほうが!」
「え? そうだね! ‥‥取りあえず敵の真似してく!」
バスケットゴールの位置に本部があって、そこにさらにもう1体。王様っぽいゴーレムが置いてあった。胸には魔石。その王様に触れれば、盤面の駒の配置を変えれるみたいだ。駒だから動きにルールがあるけど。
小柄な七道さんが背伸びして窓を覗いた。
「不味いな。初島・来宮は周防中学出身。スポーツ進学の脳筋だ。言っちゃ悪いがこんな将棋みたいな頭脳ゲーム分が悪い」
そうだよね。あそこ、周防中はだから「スポ中」って呼ばれてるワケだし。スポーツに青春捧げてるから、ボードゲーム的なのはたぶん苦手。残るひとりは‥‥?
「折越さんはどう? 武術の達人って知らなかったし、意外にこういうの得意とか?」
私の質問に、七道さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「‥‥‥‥アイツはウチの中学、海軍中等工科学校の商業科だ! 女子の頭数が増えて間に合わせで増設した学科だよ」
うん。七道さんこのハナシすっごい嫌そう。‥‥この話題に近づくのやめよう。
「‥‥‥‥。次元収納に何か入ってないかな? 逢初さん。武器とか。あの3人に渡せないかな?」
右側の部屋の窓から声がした。多賀さんだ。
多賀さんと網代さんは私と反対のほうをケアしていた。桃山さんと浜さんも心配そう。
「う~~ん。特に無いみたい。わたし、自分のしまった物は出せるけど、姫様がしまった物はうまくイメージできないの。前もって知っていないと」
そっか。あっち側もヤバい。近接戦闘特化の3人がやるハズだった試練「実戦演習」。
附属中のほうの3人が入ってしまっている。軍の士官候補、ある意味泥臭い実戦と、一番縁遠い3人が。
初島、来宮さんは武器生成スキル持ちだし、折越さんは太ももに「拐」っていうトンファーみたいな得意武器を隠し持ってる。
けど、あの3人は丸腰だよ。だから多賀さんが武器を渡そうとしたんだ。
ああダメだ! 後ろを振り返ったけど桃山さんの弓は専門性高いし浜さんの盾は壊れ気味だし!
私が万策尽きた、と頭を抱えたところで。
子恋さんの声が聞こえた。
「‥‥まあ、うん。‥‥ひとたび戦場に立てば、想定外なんていくらでもあるしねえ」
「そうね。まさに想定外。むしろそれが通常だわ」
「‥‥‥‥私、なんにもしなくていい‥‥‥‥?」
驚いたことに。
附属中3人娘は平常運転だった。特に紅葉ヶ丘さんは例の、バランスボール大の宙に浮く宝珠に、ぐったりと乗っかったままだったよ。
冷静なのはいいんだけどさ。でも。
まさか、紅葉ヶ丘さん? この期に及んで。
まだ何もしないつもり?




