第二部 第36話 出た! ダンジョン。攻略実況する?④
予想されてたけど、魔石を割られたゴーレムの反撃は苛烈だった。
「は~~~~」
みんな一斉に息吐いた。それだけ緊迫してたから。
今の見た!? ねえ今の見た!?!?
浜さんが、後ろを振り返ってひと言。
「わ、私の【固有スキル】、【硬化体】は物体をこ、硬化させて強度を上げる【スキル】。私にかけてあったから‥‥」
片目をつむっていた。右目のところ。高速飛礫の、まさかの顔面受け!
石が当たった個所だ。‥‥彼女は、前髪を少し上げながら石くずをぱらりと払って、それから右目をゆっくり開けた。
「そうじゃないでしょ!!」
その顔を見た私は、思わず叫んで彼女に詰め寄っちゃった。
「顔よ? 女の子の顔よ? ダメよそんな。大丈夫だからとかじゃないよ!?」
「ひ、ひめさんみたいにわ、私、キレイじゃないし。だから大事にしなくていいし」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「‥‥下手に避けたりしたら、う、うたこに当たるし」
「ちょおっともぉ!」
埒が明かない。助太刀を求めて後ろを振り返ったら、まきっちがいた。
「あ~浜さんはさあ。もうソレだから。それにひめっちもたいがいだろ?」
うう。確かに。私がドMなのは昔からバレてる。
附属中3人娘、メンテ3人組、姫様と仲谷さん、折越さんと泉さん、スポ中コンビ。
そしてぬっくんを抱く愛依さんも。
みんな、動揺してなかった。
「ごめんなさい。‥‥いえ。心配してくれてありがとね。姫の沢さん。でも、いちこはこういう子で、こうと決めたら絶対に避けないから」
申し訳なさそうに、桃山さんが頭を下げた。浜さんのかわりに。
浜さんと私は少し違う。私は「ドM」で、彼女は「恐怖心ぶっ壊れ」。浜さんのことをよく知ってるから、みんな騒いだりしないんだね。
うらやましい。ラポルト16の結束って、やっぱりすごい。
「あ、でもぉ、なんで盾じゃなくって自分にかけたの? 浜さぁん」
ゴーレムの消滅を確認しようとする中、折越さんが浜さんの肩をたたいていた。
「あ、それはですね」
彼女は、上部が吹っ飛んだ愛用の盾を見せる。
「もう、じゅ、寿命が近かったんです。ほら」
盾には、いくつか大き目のヒビが入っていた。
「さっきは咄嗟でした。わ、私、シールドチャージとかするから」
なるほど。‥‥盾の寿命が近くて、【スキル】で強度を上げても信頼性が薄かったから、咄嗟に自分のほうにかけて、「顔面受け」したと。
いや! ゼッタイ私じゃ思いつかないし、思いついてもやらないよコレ。
だいたいなんで「古い盾」より「自分の身体」のほうが壊れない、って発想なのよ!?
私が「ええええ!?」と目を回す中で。
不意に彼女の後ろに立つ、桃山さんの姿が目に入った。‥‥あ、そうか。
さっきの「顔面受け」。
唐突に理解したよ。
私も、ぬっくんを守る代償だったらやるかも。‥‥うん。やる。
そっか。浜さんにとっては、桃山さんもそうやって守りたい対象なんだね。
そっかそっか。それじゃあしょうがない‥‥‥‥の、かな?
***
「私の【スキル】はね、【貪食】。投擲したものを誘導して命中させる【スキル】なの」
「ふ~ん。ウチの【追従性】とは違うんだね?」
桃山さんとまきっちの間に、仲谷さんがすっと入る。
「ええ。岸尾さんの【追従性】は「打ち出した魔法を思い通りに操縦する」【スキル】、桃山さんの【貪食】は「一定条件内の目標への自動追尾」です。
「え~。ウチのより、桃山さんのほうが便利そう」
「一長一短です。追尾性能は万能ではないんです」
「そうなんだって、岸尾さん。私の能力が敵にバレてると、当たる瞬間に盾で防がれたり払い落されたりするから。その条件だったら、それを先読み回避できる岸尾さんの能力のほうが、優位みたいよ?」
なるほど。【スキル】戦闘も色々奥が深いです、と。ま、それはそれとして。
今は、全員でゴーレムの前面にせり上がった石の壁を排除中。魔物は倒せたけど、せり上がった壁の分だけ、道を塞いじゃってるからね。
ちなみに。
あの最後の一射、矢を3本まとめて、にしたのは、仮説があったからだそう。
魔石を先に10回撃ち抜けばゴーレムは倒せる。そうなったらその時点で壁のせり上がりは止まるんじゃないのか? という予測を元に実行したんだって。
提案したのは子恋さん。彼女らの【スキル】で調査済だから、このダンジョンのことに詳しいみたい
その予想は当たったんだけど。
でも上がってしまった分については、今こうして道を拓かなきゃきゃならない羽目なんだけどね。まあ、しょうがないか。
そんな地道な作業の中の、桃山さんの明るい声。
「ゴーレム撃破してました~~!」
よかった。弓の三本同時撃ちのあと、ゴーレムは壁の向こうに倒れていって。
壁の向こうが見えないから、当然ゴーレムがどうなったかも未確認。
それを、桃山さんが確認してたのです。
見事、ゴーレムさんは胸の魔石を撃ち抜かれ、活動停止していた。くぼんだ眼窩の光が消え、石でできた巨体もなんかボロボロ崩れかけて。そして1階でもそうだったように、その体は光の粒子に包まれて、消滅しようとしていた。
一応保険で、仲谷さんがいつでも反撃できるように準備はしていたよ。
よっし。この階層の試練クリア。
光粒が浮かぶゴーレムの背の向こうに、下へ降りる階段も見えたし。
全員で階段を降りていく。えっと、次は地下3Fだっけ?




