第二部 第36話 出た! ダンジョン。攻略実況する?①
子恋さんの呼びかけに、前へ出てくるふたり。七道さんと網代さん。
「お? なんだ子恋。ああなるほどな」
「あ~しらの【スキル】使うんじゃ~?」
さっき渚さんが「カギの形が秒で変わる鍵穴」って言ってた。たとえ鍵師さんがカギの形を把握しても、そのカギを作成する時にはもう別のカギの形になっちゃってる、っていうこと?
「うん、ここはおふたりに。お願いします」
「ふ~~ん」
「あ~~。あ~しの【スキル】高速で使うってのはダルイな~」
ふたりは扉に顔をくっつけてジロジロ見てたけど。
「柚月も来い」
「‥‥‥‥。はい。師匠」
多賀さんも呼ばれた。「メンテ3人組」が揃った。
「どう思う? 丁番がやけに頑丈なんだよな」
「‥‥‥‥。ここ何かあります。女の勘」
「ゆづの勘は当たるからな~。音もおかしいし」
3人でごにょごにょ話してから、扉へのアタックが始まった。
「【光学印象】!」
まず両手を広げて、扉を抱きかかえるようにして七道さんの【スキル】が発動。彼女の【スキル】は3次元スキャナーで物体の形を読み取ること。この能力でまず扉全体の立体データを数値化して取得する。
「【リンク】!」
そしてそのデータを、身体に触れることで網代さんに移送する。肩にかけた手越しに。
「は~~い。【積層充填】~~」
網代さんはそれを基に扉のカギを高速で生成。彼女の【スキル】は手の中にイメージ通り、データ通りの樹脂部品を生成することだよ。
まるでCGみたいに端っこから形が現われてくる。樹脂製のそれが完成したら速攻で鍵穴に突っ込んだ。
‥‥‥‥ガチャリ。
重厚な金属音がして、あっさりと扉が開いた。
「おお。すごい!」
「まさか開くとは!」
私たちも歓声を上げたけど、後ろの医療部隊の兵隊さんのほうが驚いてたよ。本当に長い間、開かずの扉だったんだね?
でもこれだけでは終わらなかった。
「【リンク】!! 柚月急げ!!」
「はいぃ!」
さらに七道さんと多賀さんが【リンク】して、多賀さんが扉の中に飛び込んだ。
「【切削形成】!!」
中から多賀さんの甘めの声がして発光! ‥‥やがて光が収まった。
「‥‥‥‥。済みました」
ひょこっと顔を出す多賀さん。そう言えばラポルトの時は素顔を晒さなかったみたいだけど、異世界だとやらないのかな?
多賀さんが中で何をしたのか? 「私は魔法は詳しくね~けどな」と前置きして七道さんが解説する。
「こんな凝ったカギ設置するヤツが、扉自体に手ェ出さね~ワケねえだろがよ。あったんだよ。観音開きを開いた後、また閉まる仕組みがな」
入り口付近、扉を奥に押して90度開けた辺り、壁に接する所に、扉を押し返す突起があった。
「‥‥‥‥魔力で連動しています」
春さんが壁伝いに手をかざして確認する。どうやら施錠が解かれて扉が開かれると、押し棒に接触して魔力を伝達。そして魔力が一定値に溜まったら鹿威しみたいに押し棒が発動して伸長。また勢いよく扉が閉まる、という仕組みだったようだよ。
「‥‥‥‥。なので、私の【切削形成】で押し棒自体を削り取りました。今起動中ですが扉にはもう届きません」
「危なかったね。最初から、『鍵の仕組みを解いた数人』しか入れないカラクリだったんだ。知らずにいたら扉に挟まれるかもだったし、入ったグループと入れなかったグループで分断されるところだったよ」
子恋さんが感心してた。
彼女、多賀さんの能力は物を自在に削ること。網代さんと似てるけど、無から生成するワケじゃあない。工場とかにあるCAMと同じ能力だね。
でもこれって?
「うん。このダンジョンは特殊なんだ。この先こんな仕掛けが行く手を阻むと思う。けど私の【君の名は】と澪の【8番から8番】で観測した結果、同様の罠が張られてる可能性が高い」
私は胸に浮かんだ疑問を口にする。
「子恋さん。このメンバーでここに挑む理由は? そう考えるのにも理由があるんでしょ?」
「‥‥‥‥。流石姫の沢さん。異世界で鍛えられていて中々に鋭い。そのふたつの答えは同じなんだ。観測結果から類推されたんだよ。だから私たちはここにいる」
やっぱりだよ。無暗にダンジョンを攻略したいんじゃなくて、理由があってやってるんだ。
でも、それ以上は教えてくれなかった。
全員でゆっくり洞窟に入っていく。昨日子恋さんが予言した通り。内部は石畳で平らだった。照明用の魔法石もあり、触れて魔力注入すれば暗闇も照らすことができた。
一応陣形っぽいのを組んで歩みを進めていくよ。愛依さんとぬっくんベイビィを中心にして盾役の来宮さん浜さんが先頭、殿を私と春さんが受け持つ。
通路は一本道だった。魔物も出てこない。
「出てこないね。魔物」
前を歩く全員の無事と後方に目を配りながら、春さんに訊いてみた。
「出てきたほうがいいですか?」
「いえいえ。でもこういうダンジョンって固定種がいたりとか」
「そうですね。紘国のゲームみたいに迷宮内を徘徊してエンカウントしてくる魔物はいませんね。こんな閉ざされた世界で生態系も構築はしていませんし。ダンジョンコアなんてものもありませんよ? ――でも、アイテムや特定個所に封じ込めたトラップ的な魔物だったら、出現するでしょうね」
意外にも彼女、私たちの世界のゲーム事情に、なかなかに詳しかった。
「ええ。あの戦艦にいる間に、色々調べました。咲見さんがよくやるゲームも教えてもらいましたし、ファンタジー系のゲームあるあるも。元をたどればこの世界からの渡来人が『あちらの世界』で世界観を構築した可能性が高かったですから。研究して逆輸入するつもりでした。こっちの迷宮攻略に役立てようと」
そうなんだよね。この異世界が紘国のファンタジーゲームそっくりでも、やっぱり現実的なところまでは似てなかったりする。――確かにダンジョン歩くだけで無限に魔物と遭遇するとか、それは「ゲームだから」だよね。実際とは違うよ。
そんな訳で、迷宮1Fは特に何も起こらないまま進んだ。拍子抜け? いえいえ現実的なんです。
そして、一本道の突き当り。地下1Fに降りる扉の前に、石像があった。典型的なゴーレムで、男の人くらいの大きさだよ。
春さんが先頭に駆け寄る。
「私の土魔法では使役できないわ。もっと上位のチカラで管理されているゴーレムみたい」
泉さんが肩を落とす横で、網代さんが石板を見つける。壁に埋め込まれたそれには、文字が刻んであったよ。
〖この石像を倒したくば、胸の魔石に炎を当てよ〗
読んでる刹那、ゴリリ、と音がして石像が動き出した。岩なのに動きは早い。
前衛の盾役がパンチを受け、3列目の桃山さんが弓矢を当てたけど無傷だった。
春さんが叫ぶ。
「このゴーレムは試練です。石板の文言が攻略法です!」
「じゃ、ウチの出番?☆」
3列目にいた、まきっちが飛び出していたよ。




