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第二部 第35話 聞こえている? 疑惑Ⅱ






 国境の町に予定通り一泊。


 そして徒歩でカミヒラマ国の関所を目指す。これも予定通り。


 総勢14人パーティだよ。あ、今は13人とベイビィひとり、か。戦力的には。



「ひめっち」


 まきっちに肩を組まれた。


 彼女は何も言わない。中途半端ななぐさめは逆効果だと知っているから。


 私が愛依さん(中身までちゃんと本人に戻った愛依さん)を見て、気後れしてるのを感じてるんだ。でも。


 それはもう散々悩んだこと。小さな結婚式(ミークロガモス)に向かうあの時には、気持ちに整理をつけていたはず。


 愛依さんの発する光に触れたからって、ぬっくんの安堵の笑顔を見たからって、今さら気持ちが揺れたりしない。そう決心できたはず。





 関所には、附属中3人娘が待っていた。


 何だろう。私たちが魔物に囲まれてそこに3人娘が現れて「‥‥加勢するぜ。フッ。どうやら間に合ったようだな!」みたいな、マンガみたいな展開が起こりにくい。波乱が起こる前にキッチリ待ち合わせてるんだもん。

 春さんや泉さんって、段取り良すぎるんだよね。瑕疵がない。


 でもまあそうか。この3人が来ないのにその他メンバーでこの軍事国家の領地をウロウロするとか、絶対フラグ立つし。



「まだ私たち3人はカミヒラマの軍人なんだ。予備役扱いだけどね。だけどこっちのほうが色々都合が良かったりもするから。まあ、攻略まで数日はのんびりしててよ。ようこそカミヒラマへ」


 子恋さんはハキハキした口調だった。――ん? 攻略? と疑問に思うと渚さんが。


「ダンジョンを攻略するのよ。このメンバー全員で。私たちは軍に上申して、攻略の許可をもらってるの。だからみんなで正々堂々と行けるのよ」


 あ、段取り良いのはこの3人もだった。話の全体は見えないけど、首脳陣が分かっているんなら心配はないかな。姫様が眠っちゃったんでどうなることかと思ったけど、心配は無いみたい。


「澪。宝珠から降りなさい。また魔法力浪費して!」

「え~~。やだぁ~~。陽葵ちゃんおぶってぇ」


 前言撤回。紅葉ヶ丘さんは相変わらずだったよ。




 ***




「は~~い。お風呂でちゅよ~~。一緒に入ろうね? うふふふふ」


 カミヒラマ首都の宿についてから、愛依さんは率先してぬっくんベイビィのお世話を買ってでてくれた。「自分は回復魔法くらいしかできないから。せめて」と。うん。やっぱりいい人だ。


 でも懸念も伝えておいたよ。「聞こえている疑惑」。


 ぬっくんが赤ちゃんに変身しちゃう当初、まきっちとかが普通にベイビィをお風呂にいれてたんだけど、もしかして「中の人」咲見暖斗の意識があるんじゃないかって。


 私たちのお風呂シーンが見られちゃってるんじゃないか? って。



「え~~。そうなの? そうかなあ。どうしよう。こんなにかわいい赤ちゃんだし。ほえ~~。見えてまちゅか~~? 暖斗くん、中で見えてまちゅか~? うふふっ! かわいい!」


 結局「かわいいから大丈夫では?」というよくわからない理由で、愛依さんはベイビィと一緒にお風呂に入ってる。‥‥‥‥いや、頭の良い人の言説は、私は理解が追いつかないよ。



「気にすんな。愛依はただの天然だゼ☆」


 ドヤ顔でまきっちが肩をたたく。‥‥‥‥うん。何となく理解できた。愛依さんの天然性は。


 正確には「聞こえている?」だけじゃなくて、「見えている?」かも、だもんね。

 懸念を知ったからには、不用意にベイビィの視界に晒したりは、しないよね?


 まさかそこまで無防備には‥‥。でも愛依さん、ベイビィのかわいさの前では無自覚っぽいから‥‥? 大丈夫よね?


「いやいや。ひめっちも大概天然だが?」


 わかってるよぉ。よく言われるもん。





 そして、ダンジョン攻略の日。


 結局ぬっくんはベイビィのまま、エイリア姫は復活しないまま、という布陣だった。


 ラポルト16、プラス私。――の総勢17人。



 七道さんが口笛を吹きながら。


「大人数だな。パーティーとして戦えるのは4人とかで、あとは馬車や飛空艇から飛び出してくるヤツか?」


 なんて言ってたよ。私はゲーム詳しくないからわからない。


 早朝にホテルを出発して、半日以上かけてダンジョンに向かう。意外にもダンジョンのある場所はエリーシア国とカミヒラマの国境沿いだった。あの関所方面。


 私は子恋さんに近づいてみた。


「あの、ダンジョンってこの世界にいくつもあるんですか?」

「ああ、あるけど珍しいみたいだね。地形的に鍾乳洞だったり風穴(ふうけつ)だったりした場所に魔物が住みついてダンジョン化、っていうパターンらしい」


「じゃ、これから行くダンジョンも?」

「いや、稀に古の魔族が創設したような、バリバリ人工物的なモノもあるそうで、私たちが潜るのはそういうモノだよ」


「じ、人工物?」

「うん。行けばわかるけど、入り口からして扉なんだよ。外壁すらレンガや石でできていて強固なんだ。恐らく中も石畳で整備されたモノだよ」


「恐らく?」

「色々調べてはあるよ。その扉にカギがかかっていて、古い記録があるだけでね。どうも古代の人類が作ったみたいなんだ」




 ***




 到着。標高200メートルくらいの山のふもと、ちょっと窪地になったところにその入り口があった。――確かに。子恋さんの言う通り石? 四角く切りだした石で壁面を作って、その中央に金属製の重そうな扉があった。


「ほら。姫の沢さん」


 子恋さんが指差す先には、その石壁をツルハシで叩いたような傷の壁が。


「あの扉がどうにも開かなくてね。側道を掘って入ろうと試みた跡さ。でも無理だった」


「山全体に魔法障壁があるみたい。どの道正攻法でないとダメ、ってことよ」


 渚さんがつけ加える。


 そうだよね。「何百年も封印されし洞窟」とかって、入り口でアイテムかざして入れたりするけど、実際は土木工事で横口から穴開けられるかもなんだよね。そっか。このダンジョンはそれを阻止する封印がなされていると。

 ちゃんとしてるな。そういう設定。



 そこへ10人くらいの軍隊が到着する。身構える私たちだけど、味方だったよ。


「彼らはカミヒラマ軍の医療部隊だ。私が呼んだ。ダンジョンに潜る17人に不具合があった時のバックアップをお願いしている。このダンジョン攻略は軍の正式なクエストなんだ」


 やっぱ子恋さん、マジで段取りが良い。





 そして、その「開かずの扉」へ。


 金属製の分厚そうな扉。確かに年季が入ってそうだよ。扉と入り口全部に蔦が蔓延った跡があった。足元の土も新しい。たぶんこの一帯雑草だらけで埋もれてたのを、今日のために草刈りしてくれたんだよ。カミヒラマの人が。


 扉には普通に鍵穴があった。じゃ、これ魔法力を持ったカギとか魔族が落としたカギじゃないと開かないのかな?


「いいえ。いたって普通のカギなのよ。錠前士さんが合鍵を作ればあくわ」



 渚さんの言葉に軽くコケた。


「じゃ、じゃあそうすれば?」



「それが上手くいかないんだ姫の沢さん」

「そうなのよ。軍でもさんざん試したらしいの。このカギ、ピッキングを試みたり粘土とかで型をとると、形をかえてしまうのよ。秒で。魔法の仕掛けがあるみたいなの」


 それじゃ開かないじゃん? とみんながざわざわする中で。



「と、いうことでいいかな? 七道さんと網代さん」





 このふたりの名が呼ばれた。






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