第123話 嵐の前⑤ &第3部【キャトル・エピス】プロローグ
ラポルト退艦式の後に催された、記者会見中継。
戦争終結の偉業とかの関係で、総理大臣とかとも会話しちゃってる。
そこに、大人の事情とか、紘国独自の空気「手柄を男子の僕に集中しよう」とする動きが見えて、僕は少し苛立っていた。
総理との中継、最後のほうの質問コーナー。
総理は「なんでも訊いて」という構えだった。
僕は挙手した。
「あの、この国では、どうして女の人ばかりが割を食うんですか?」
わかってる。あんまり良くない質問だ。この会見を作った大人を怒らせるかもしれない。
でも、今までのこの流れ、言わずにはいられなかったんだ。
軍人として戦う大人の男、錦ヶ浦さん。
彼と「仕事の話」ができる、愛依。
ふたりの背中が、遠い。
たぶん僕は、「何者かに」なりたかったんだと思う。
「え~難しい問題ですね。どうしても男女比というのがあって、これを解消すべく原因の究明、増えすぎた女性の活用などは政府としても尽力してはいるんですが、出生異比率が解消されないことには‥‥‥‥」
総理はこんなことを言った。長々と喋ったところで総理の話が終わって、質問コーナーは打ち切られた。
と、そこで、自分のスマホで僕を撮影する、隊長の魚見崎さんの姿がちらと見えた。
「暖斗くん」
振り返ると、そこには15人の女子。みんなの顔があった。
「ど、どうしたの? みんな」
「ごめんね。暖斗くん」
この中で語りだしたのは、やはり子恋さん、そして3人娘だ。
「明らかに私の失策だった。うん。暖斗くんは秘密にしとこうとね。これは、私たちを守る意味でもあるんだ。‥‥あまり女子の活躍がクローズアップされると‥‥。わかるでしょ? 暖斗くんが『英雄』になるのは『逆スケープゴート』とでも言おうか」
「そうなの。ひとりの男子が主体的に活躍したとなれば聞こえがいいわ。スケープゴート、生贄として『英雄』になってもらう。暖斗くんと私たち。双方にメリットがある案の筈だったんだけど」
「光莉ちゃんはたまに見誤るんだよ。人を。暖斗くんは結局光莉ちゃんみたいに物事を損得や計算ずくでは考えないから。いや、いい意味で」
その言葉に、ものすごく色んな意味が集約されていた。僕も少し冷静さを取り戻してきたよ。
「ありがと。暖斗くん」
この綺麗な声は愛依だ。
「それでもね。みんな納得してたんだよ。暖斗くんの活躍に注目が集まって、わたし達の存在が薄れるって作戦で。‥‥でも、ありがとうね。みんな、うれしかったよ。暖斗くんが、この国のみんなの前で、ちゃあんと! ああ言ってくれたのは!」
みんなと目が合った。うんうん、と目を輝かせて頷いてくれてる。
半分は納得。仕方がないと言えば仕方がないこと‥‥なのか。
一点。会場から送られる視線。記者席の、あの目つきの鋭い記者さんが僕らを見ていた。
CMが明けた。アナウンサーさんが、ここで首相から発表があります、との声。なんか話題を変えようとしてる感じがありありだけど。なんの発表だ? 質問コーナー打ち切ったのに、この人まだいたのか?
「え~。君たちにいい知らせだよ。外務大臣から正式連絡があって、ただ今確認が取れました。え~。国交の無い一国を除いて、大使館から正式に返答があったそうだ。今回の、中の鳥島戦域での一連の戦闘行為で、戦死者ゼロ! 紘国、侵攻国含め、正式に戦死者はゼロだ!」
「へ?」
「マジか?」
「う、嘘だ‥‥」
「うぇ~~い!!」
「ちょっと! コーラ!!」
「「ぃぃいやったあああああぁぁぁ!!!」」
輪になった僕らは、互いに夢中で抱き合って、感情のままに飛び跳ねた。気がついたら、コーラとソーラさんも混じっていた。
自分たちの声で鼓膜が破れそうなくらい絶叫してたから、周りの人もさぞうるさかっただろうね。そのくらい、我を忘れてみんな歓喜の声を上げたよ。
――最初は、ただ殺し合いなんか無理、したくないよね? で始まったことだった。
途中で知った。もしかしたら「それ」が叶うことを。
そして今知った。「夏休み中の中学2年生たち」が「夏休み中の40日間で終戦させた」上で、たぶん全人類史の中で史上初。
「戦争においての戦死者、敵味方双方で、ゼロ」。
犠牲者の無い戦争。
ああ、大人たちがキョトン、としてら。
戦争で人が死ぬのは当たり前。の世界の人にはわからないだろうから。
知らないよ。僕らはただ、やり遂げた喜びを味わうだけさ。
ざまあみろ。大人。
ざまあみろ。人類。
ざまあみろ。世界。
ざまあみろ。歴史。
***
総理大臣との中継は終わったので、あらためて中断していた記者さんとの質疑応答に入った。
まずは今後の抱負とか将来の夢とかを訊かれた。定番だね。
子恋さんは「参謀部に配属希望」。麻妃は「ドローンレーサー」。七道さんは「DMT整備の現場」
みんな思い思いに答えて。
僕はちょっとテンションが上がってしまっていたのかもしれない。こう答えた。
「あの、そういうのはまだ特に無いんですが、え~と‥‥この国で、少しでも女の人が泣かないような世の中になったらいいなと思います。笑顔になったらいいな、と」
会場はまあ、お察し。記者さんたちは引き笑いをしていた。あの、目つきの鋭い小太りの記者さんが、僕を睨みながら挙手してきた。
刹那。
(‥‥‥‥無理よ。何も変わらない。世界も、私の家も)
後ろから、誰かのため息まじりの声が聞こえた。
この声は。




