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第123話 嵐の前③ &第3部【キャトル・エピス】プロローグ

 





 そのうち、偉い大人の人たちが遅れて到着して、記者会見はつつがなく始まった。


 アナウンサーの女の人(全国ニュースで見たことある!)が司会進行して、記者の人が挙手。質問された誰かが答える形だった。


 並んだパイプイス一列目の中央から副司令さん(あれ? 紘国全軍の?)、みなと市長さん、どっかの校長先生と教育委員会の人、そして正面から見て右方面の中央よりに僕、という並びだった。左側端にはさっき言った通り、騎士団(イポテス)の皆さんが座っている。あとは資料を持った、たぶん軍の人。


 最初の質問は「こうなった経緯」が多かったね。ナゼ子供だけの戦艦がガンジス島で漂流することになったのか? 大人が引率するべきだったのでは? その責任は? ナゼ中学生が兵器を運用できたのか? させたのか? 軍は? 国は? なぜ? ナゼ? 何故?


 軍の人が丁寧に説明していたよ。まあ竹取山が噴火して世界中から戦争を仕掛けられて、僕らの戦艦どころじゃあ無かったのはみんなわかってるから、深刻な感じにはならなかった。


 その後は僕らへの質問。「どう思った? 感じた?」が多かった。中学生にあんまり小難しいことは訊かないね。「不安は無かったの?」、「ホームシックになった?」、「戦争は怖くなかった?」、「みんな仲良くしてたの?」など。


 そして「あの宣言」のことも。――国際戦争法45第条第2項、その破棄宣言、についても。


 それはさすがに子恋さんが答えていた。そりゃそうだ。あの宣言文は彼女が考えた物。そもそもあの戦いは、彼女が描いた画なのだから。


 でもすごいよね。僕らが非戦闘員の保護権利を放棄して、「少年兵」だと表明する、そして仲間と妊婦さんのいる病院を身を挺して守っている。


 そんな話があっというまに拡散して、配信動画の視聴回数が爆伸びしたんだから。同接30億とか‥‥世界総人口の何パーセントが、とか‥‥もう何が何だか‥‥。



 でも、子恋さんの語尾がちょっとイメージと違った。唐突に僕にマイクが向けられた。


「‥‥ですので‥‥最終的には、彼の決断で決まりました。この戦いの功績は彼の物です」


「へ?」


「なるほど。では梅園くん。まほろ市民病院で、妊婦さんを守ろうと決断した、詳しい話をお願いします」


「‥‥すみません。この生徒達は不測の事態を避けるため、個人情報を伏せております。当方でもしかるべき処理を致しますが、個人名を呼ぶのはお控え下さい」


「ああハイハイ。では君! まほろ市民病院ではどういう経緯で戦うことを決断したのかな? ん?」


 記者席の2列目に、目つきの鋭い記者さんがいた。視線だけじゃなく言い方も乱暴だった。


 他の記者さん達の視線が一斉に集まる。びっくりした僕は子恋さんを一瞥してから、反射的に頭に浮かんだことを口にしだした。


「‥‥‥‥ああ、ええと、妊婦さんを保護して病院に送り届けたら、敵が攻めてきて」


「その時点で逃げようとは思わなかったのかね? ん?」


「そういう案もありました。けど仲間のひとりが妊婦さんの手術に参加するし、‥‥‥‥って流れで」


「戦場で戦う決意をしたと」


「守らなきゃ、と思いました。でも最初は、あの病院近くに軍がいないから、一応僕らがあの一帯をケア、フォローしておこう、くらいでした。あそこにあんな大軍勢が来るとは僕は、僕たちは思っていませんでした」


「そう、その点。敵の戦力が多かったことについては?」


「ええと、『多いなあ』とは思いましたけど、戦ってる時は夢中で、よくわからなくて」


「だがもし、君自身や後ろの仲間に犠牲者が出たとしたら、どうするつもりだったんだ? ん? 取返しがつかないぞ!?」


「‥‥そうならないように頑張りました。とにかく夢中だったんで、よくわからないです。敵が撤退してくれて助かりました」


「‥‥申し訳ございません。そろそろ他の質問者様に‥‥」


 なんか、司会者の人に助けられた感じになった。


 なんだろう。子恋さんが例の話を僕の手柄みたいに言ったのも気になるし、記者の人に質問されても、あまりいい気分にはならなかった。



 ここで、「中継の準備ができた」とアナウンサーさんが。

 首相官邸とつながった、とのことだ。



 おお!? 首相官邸? ってことは?




 ***




 わたし、逢初愛依はずっと、彼を見ていた。前列に座る彼を。


 不意に向けられたマイクに、驚きながらも何とか質問にも答えていた。


 わたしのとなりの麻妃ちゃんが、明らかに緊張しだした。両手を握りしめ、強ばるほほを汗がつたった。そうだ。


 彼が怒りを静かに溜めているのを感じ取ったんだ。


(低く見積もりすぎ。軍はいつも)


 彼女だけに聞こえるわたしの声に、弾かれたように麻妃ちゃんが振り向いた。


(低く見積もりすぎよね? 附属中3人娘もそうだった。旅の間ずっと。その想定で試算してた。『想定外だったのは暖斗くんの砲の威力だけ』とか)


 わたしの意を察した麻妃ちゃんが囁く。


(ああそうだったゼ☆。そのお蔭で大型BOT戦では素早く助けてはくれたんだけど、ね)


(うふふ。そうだったわね)




 ***




 中継が始まった。やっぱり僕にマイクが来る。紘国は皇帝のいます国。首相――総理大臣は国の政治のトップだけど、あくまで国民の代表だ。よその国ほどは影響力は強くない‥‥って社会の授業で習ったな。


 でもまあ首相だからね。その人と直接話すなんて、普通のありえないよな。

 何か色々ありすぎで、麻痺しちゃってる自分がいる。



「‥‥まずはウルツサハリ・オッチギン乗艦の皆さん、お疲れ様」


 そう言われて返事をしたんだけど、首相さんは軍の副司令さんとかアナウンサーの人と主に喋ってた。あと「自分が戦争中に何したか」への話の脱線が多い。


 そうか、選挙とかあるから「やってますアピール」大事なんだろうなって余裕のない頭で考えた。たぶんそう。‥‥で、そうしてたらまた僕に話が振られた。


「え~今回のガンジス島での大規模戦闘ですね。これはわが紘国が列強諸国からの宣戦布告を受けてからの、え~そうですね。膠着状態を打破するひとつの大きな契機となった事案でありまして。え~パイロットの君。君はこの戦いにおいて多大な戦果を結果としては残した形にはなるんだけどもね」


「あっハイ」「ハイ」と必死に相づちを打つけど、会話が頭に入ってこない。


「誇っていいと思うよ。君はこの国を救った英雄だ。ネットとかではもう『救国の英雄』とか言われてるんじゃないんだっけ」


「ハイ」



 ‥‥‥‥思わず勢いで返事をしてしまった。


「救国の英雄」???





 誰が?







※前回のif。の続き。


あくまでifです。世界には色んな人がいて、愛依さんにも本当は色々な出会いがあります。近づいて来たオトコが彼女の能力やルックス目当て、な恋愛の達人、ってことも十分にありえます。


前回あんな感じで、如才なく接近されたら、彼女も「知り合い以上」くらいには親しくなってしまうかもですね。隙が多いキャラなので。


ただ、つき合うか? その先まで行くか? そこについては、ギリギリ土俵際で彼女は慎重なのではないかと考えています。それはまさに【キャトル・エピス】の本題でもあるのですが。


「お~い愛依さん。大丈夫だよね~? 作者は信じてるよ~~」



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