表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
385/519

第二部 第34話 やっぱり正ヒロインには魔物に狙われるフラグが似合う③

 




 爆発の余韻。


 空から枝や葉が、バラバラと落ちてくる中で。


 ふたり。


 その腕の中にしっかりと愛依さんを納め、右手を突き出したぬっくんは、肩で息をしていた。




「ひゅ~お見事♪ 藪ごと一撃とは。お客さんナカナカの魔法の威力ですなあ。一般人じゃあなかったかね」


 そのふたりを見つめ、その「絆」を再認識して固まる私の横で。

 両手をあげて呑気な馬丁さん。



「‥‥‥‥」

 実はそのさらに横では、春さんが複雑な顔をしていた。


「‥‥‥‥咲見さん、訊いていいですか? 魔力残量、あります?」

「‥‥ふう。‥‥‥‥ごめん仲谷さん。たぶんアウト」


「‥‥‥‥でしょう。さっきの【ライトニングボール】の規模から類推するに」

「あの魔物が愛依の中へどんどん来るから、待ってられなかったんだ」



 あれ? 魔力枯渇(MPゼロ)? それって‥‥ひさびさに?




 ぴきゅん!


 ぬっくんの身体が、一瞬まぶしい光に包まれて。



 その強い光が消えるころ、その場所のやや上空から、あの赤ちゃんがふわふわ舞い降りてきた。



「あちゃ~。やっちまったなぬっくん。愛依を助けようとして(りき)んだなあ」

「相変わらずだな暖斗くん。異世界でも赤ちゃん属性とは」


 けらけら笑うまきっちの横で、七道さんと春さんも苦笑してる。


「ええもう咲見さんは。最近はこうならないように、余力を残して魔法力をマネージメントできていたんですが」


 我に返ったよ。私も設定忘れそうだった。ぬっくんは一定条件、魔力切れで「魔力生命体の赤ちゃん」になっちゃう。休眠モードだよ。


 そう言えばエイリア姫は魔力切れで愛依さんと人格が交代してるし。これも一種の休眠モードなのかな? 実は似た者夫婦?


「愛依さん? 大丈夫?」


 彼女に駆け寄って無事を確認したよ。特に怪我はないみたいだけど、まだ足ががくがくしてた。



 でも、そんな彼女のもとに、【魔法のおくるみ】に包まれたぬっくんベイビィが舞い降りてきて。



「ふわわぁ~~!!?? かわいい!!」


 思わずふたりで歓声を上げてしまった。


 そおっと愛依さんがキャッチする。――――そっか。そう言えば愛依さんはぬっくんベイビィとは初対面? だよね。


「あ~れ~。うふふ。あなたはべびたんでちゅか? まさか本当にべびたんになっちゃったんでちゅか~~? うふふふふ」


 一応辺りを警戒しつつ馬車に戻る。愛依さんはみんなに謝ってた。


 けどしょうがない。私たちも今までエイリア姫と行動してたからそれに慣れてしまっていた。異世界に不慣れな愛依さんになってたのに、ケアやフォローの意識が足りなかったから。



 その後、馬車の中では愛依さんの「ぬっくんベイビィ愛でる祭り」だった。



「春さんどうすんの? 戦力的にはぬっくんベイビィじゃハナシにならないゼ☆」

「戦力プラス1、だったのがゼロ。しかもベイビィの世話で人手をひとり取られる。差し引き、戦力はマイナス2だ」


 ってまきっちが訊いて、七道さんが計算して。

 聞いた春さんが「う~~ん」って頭を抱えてたけど。


「あ、わたしがベイビィのお世話をします。どうせ剣も攻撃魔法も使えないし。何かあったら治癒魔法のバックアップはできます」



 愛依さんは子供好き。赤ちゃんも大好き。



 まあ女子ならだいたいみんな好きか。あれからずっと赤ちゃんを抱いて、【魔法のほ乳瓶】でお世話をして離さなかった。


 そんな彼女に、私は目を細める。眩しい。愛依さんのヒロイン気質がただ眩しかった。

 そしてまきっちに「ポン!」と肩を叩かれた。


 大丈夫。私はもう大丈夫だよ。我が親友。




 そして、泉さん達後続チームを待つ間、町の散策をするつもりだったけど、やめたよ。

 途中で愛依さんにあんなことがあったからね。駅舎に入って休憩することになった。



「これが【魔法のおくるみ】、赤ちゃんを優しく包む布です。絶えず垂直方向に魔法力を放出して、抱いた時の重量軽減をしています。‥‥あと、赤ちゃんの体温調整と湿度のコントロールも。いつでもさっぱりすべすべ肌です」

「なるほど~~。あなた良い服をもらったんでちゅね~~。良かったでちゅね~~。ふふ」


 駅舎で待つ間、いつの間にか春さんの、ぬっくんベイビィ、装備の説明大会になっていた。


「次に【魔法のほ乳瓶】。これは持つ者の魔力を破邪属性を持つ透明な液体に置換して、内部に溜めることができるのです」

「持つ者って、今だったらわたしってこと?」


「そうですね。逢初さんが魔力を込めると、ビン内に液体が‥‥そうです。それを赤ちゃんが飲みます」

「ほあぁ! 母乳出ないのに授乳体験ができるのね。これはいい経験になりまちゅね~~」


 愛依さん。魔力を行使するのは、普通にできるみたいね。あとベイビィが、んぐんぐ液体飲んでる。一心不乱な感じ。


「逢初さんの魔力総量は常人並みでしょうか? また、攻撃魔法の練習もしてみて下さい。できうる限り私もご協力します」

「は~~い」


「そして【魔法のおしゃぶり】。これは防具です。赤ちゃん本体から魔力を徴収し、いざという時に物理、魔法両方の防御フィールドを形成します。今の咲見さんは魔力生命体。魔力を抜かれても問題ありませんが、適時【ほ乳瓶】で補充するのが適切です」


 そういえば。


 このぬっくんベイビィ用「三種の神器」。どんな用途と能力だったか初めて聞いたよ。

 ‥‥「なるほど」、「そうだったのか」とも思いつつ‥‥‥‥何か、今さら感。

 ぬっくんの「ベイビィ化」といい「三種の神器」ベイビィグッズといい、この頃めっきり出番が無いから設定忘れてたんだよね‥‥‥‥。




 ***




 泉さんチームが乗る後続の定期便は、案外早く着いた。――いや、私たちの便が魔物騒ぎで遅延しただけ、っぽいけど。全員、無事合流したよ。



 あ、そういえば。

 設定忘れでひとつ。最近無いんで忘れてた。


「龍の呪い」の気まぐれでドラゴン化するんだっけ。私も。



 でもいいな~。愛依さん、正直うらやましい。魔物に襲われるのが絵になる人なんて、普通いる? 私も入れ替わるんならお姫様がいいよ。何よ? ドラゴンって。


 ぬっくんの人生の正ヒロイン。今は、あんな無邪気にベイビイを愛でて。





 きっと。悩みなんて無いんだろうな。はぁ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ