第二部 第34話 やっぱり正ヒロインには魔物に狙われるフラグが似合う①
図書館のあったシュゼッツテンプル村から帰路につく。無事ユーズナーカホカ村に戻ると、そこには意外なふたり組が。
「あ、姫様じゃなくて逢初さんなんだね。本当?」
「ど、どうもです。逢初さん」
浜さんと桃山さんだった。
驚いたよ。愛依さんとふたりが再会を喜び合ってから、事情を訊いた。
「実は仲谷さんに呼ばれてね。ザイガ村も引き払ってきたんだけど、お別れ会やってくれるっていうことで――」
「い、一日遅れた」
え? 引き払った? ふたりの本拠にしてたザイガ村を?
「う、うん。仲谷さんにそうして、って言われて」
そうなの? 春さんを探して訊いてみる。
「ええ、そうです。実はミナトウ村もそのつもりだったのです。――ですが、あの盗賊の騒ぎの直後では切りだせず、取りあえずこの地に来たのです」
でも春さんはそれで大丈夫だ、と言う。どういうこと?
さらに質問しようとしたんだけど、春さんにさらに来客が。
「お、今いいか?」
七道さんだった。
「一座から抜けるハナシがついた。あと3日。ココの興行を最後にな。柚月の卒業セレモニーもやってくれるし。じゃ、伝えたぞ」
なんか私の知らないところで事態が動いてるよ。
人の動きを軸にして、ちょっとお話を整理してみる。なんかぬっくんが昔やってたゲームみたいになってきたから。各々バラバラに動いてたキャラクター達が、最終章で全員主人公の元に集まる! みたいな展開よね?
まずミナトウ村にエイリア姫、ぬっくん、まきっちが住んでいた。
そこに私たち、姫の沢ゆめと仲谷春さんが合流。
からの! 泉花音さん折越ちなみさん、初島美羽さん来宮櫻さんが加わって。その面子でこの、ユーズナーカホカ村に旅行したところで。
浜一華さんと桃山詩女さん、さらにメンテ三人組の、七道璃湖さん、多賀柚月さん、網代千晴さんまで集合?
「ミナトウ村での戦い。盗賊を退けたことで敵方の魔導士に、エイリア姫の存在が気取られました。泉さんがやった口止めは効果はあると思います。しかしあの魔導士を口封じしたワケではないので‥‥」
そうなんだよね。愛依さんの【創造妊娠】でトラウマ級のヒドイ目にはあわせたけど、回復して正気を取り戻す可能性はある‥‥。
「しかもその戦いで姫様本人が休眠モードに入ってしまい、姫様の魔力を隠蔽、遮断する結界魔法の経時的減衰が始まってしまったのです。もう補足されるのは時間の問題でした。王宮が次の手を打ってくる前に、動く必要があったのです」
そういう事情があったのね。
いざという時の姫様の【大魔力】の火力は頼りになるけど、やっぱりだった。王宮がああやって盗賊に姫様捜索をさせてたって時点で、潜伏の目星はついてたってことだもんね。
でも、ということは?
「ええ、そうです。私たちはこのまま軍事国家カミヒラマに入国して、附属中三人娘と合流します。全員集合です」
「「おお~~!!」」
後ろのぬっくんとまきっちがハイタッチしてた。私と愛依さんも手を叩いた。
そっか。この異世界でバラバラになっちゃってたけど、ついに。――――あ。じゃあ、カミヒラマに住むのかな? 全員で。
「いえ。そうしないために、全員集まるのです。この世界で精進を重ねたみなさん。きっと‥‥‥‥もう大丈夫でしょう」
むむ? 大丈夫とは? ――あ、そう言えばミナトウ村を出てくる時に、貴重品を全部愛依さんのアイテムボックスに入れたんだった。盗賊が来たんだもん。泉さんの交渉でもう来ないって約束したって、やっぱりねえ。
そもそも【次元収納】あるのにミナトウに貴重品を置いてくる理由なんてないし。と、言う訳で金目の物も私たちの装備も全部持ってきてるのでした。そういう意味では大丈夫。
「メンテ班三人組の合流までまだ3日あります。それまではここで羽を伸ばしましょう」
「「は~~~い」」
桃山さん浜さんと温泉入ったよ。ふたりともすっごい喜んでた。
あくる日。ホテルの朝食ビュッフェで一階の大広間へ行く。私とぬっくんとまきっちの3人。
「え? 今VIPルームのほうから来たよね?」
メンテ班三人娘とばったり会った。まきっちが訊ねると、一番眠たそうな網代さんが教えてくれた。
「あ~~。ゆづが人気踊り子だから。あ~しらはそのマネージャーって立ち位置で。座長がいい部屋取ってくれんだよね~」
「まあ、一座も柚月のおかげでムチャクチャ潤ってんからな。逆におっかけのお兄様がたと同じホテルじゃあ、柚月の気が休まらね~だろ?」
と七道さんが補足。うんまあ。旅の先々でいい部屋泊まれるんなら一座の旅も快適だよね。
なんかこの3人、私より芸能人として成功してない?
3日後の夜。無事、と言うべきなのか「踊り子 多賀柚月」の卒業祭も終わり、3人は私たちに合流した。――一応私たちも遠巻きにステージ見てたけど、花束とか、熱がすごかったよ。
ファンのお兄様がたも泣いてたなあ。多賀さんは「アイドルらしい涙顔」だったけど、ぬっくんはそれを腕を組んでナナメに見ていた。
「あれはたぶん演技だよ?」
あれ? 過去に何があったの? 多賀さんにはナゼか辛辣だね? ぬっくん?
***
翌日ホテルのロビーに集合する。みんなちょっとだけ不安げだ。
「カミヒラマって軍事国家なんだよね? 国境の関所で捕まって牢屋行きとか?」
「そんなベタな展開ゲームの中だけだよ」
「いやいやぬっくん。この異世界だいたいゲームみたいな展開ばっかじゃん」
「で、でも附属中三人娘は普通にミナトウ村まで来てたし」
「皆さん不安そうだし、春さん、旅の行程話したほうがいいかしらね?」
「ああ、そうですね。皆さん、これから馬車の定期便で国境の町まで移動します。この人数で一度には乗れないので、分乗します。今日は国境の町に一泊して、明日徒歩で関所をめざします‥‥‥‥」
と春さんが説明してみんな静かになったよ。
私は春さんとの旅で鍛えられたから、徒歩とかもう自信あるけどさ? でもやっぱり交通手段は歩きなんだね。この世界。みんな大丈夫かな?
当然馬車には他の乗客もいる。最初は春さんの引率でぬっくん、まきっち、私、愛依さんと七道さんが乗った。席が空くまで立ってたよ。通学電車みたいだった。
次の馬車は泉さんがリーダーで、初島さん来宮さん、多賀さん網代さん、浜さん桃山さんが来る算段だったよ。しかしリーダー泉さんの安定感‥‥‥‥!!
私たちの便が先に国境の町に着くから、商店街でもまわって後から来る便を待つつもりだったんだけど。
あともうちょっとで到着、というところで馬車が止まった。
「あ、お客様は中に入っててください」
馬丁さんがそう言って迎撃に出たよ。犬くらいの大きさの魔物が出たってさ。だけどちょっとばかり数が多い。
みんなで目配せして外に出た。みんな口々に魔法を唱える。
あ、愛依さんだけは何もしないけど。
彼女はこの異世界に不慣れだし。剣はもちろん魔法も使えないし。
「いや~。助かりました。ちょっと数が多かったんで。皆さんお強いですねえ」
馬丁さんには感謝をされた。けど。
「ただ注意してください。このあたりは妖獣系だけじゃなくて妖樹系も多いんです。木の実とかで釣ってツルを絡ますヤツが‥‥」
「ご親切にどうも。ですが私たちは全員旅慣れております。不用意に木々に近づく者はおりませんから」
「そうですね。これだけ皆さんお強いんだ。そんな初歩的な罠に‥‥」
「きゃあああ!」
春さんが、馬丁さんの忠告に自信満々で答えたところで。
ああ、彼の忠告は間に合わず。
「愛依!!」
茂みに近づいた愛依さんが、ツルの魔物に絡めとられていた。
※ 愛依さんの久しぶりの登場なので。
やはり定番イベントは必要かと(*^▽^*)




