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第二部 第33話 異世界にも図書館は存在した!②

 




 もうユーズナーカホカ村は見えなくなってた。図書館のあるシュゼッツテンプル村は、村近くを流れる川を遡った、南の地にあった。


「ああ、こんなんだったら泉さんの言う通り、馬車にすれば良かったよ」と口から出そうになったところで、到着してよかったよ。



 村はユーズナーカホカ村よりも静かな感じで、村の中央を流れる川を挟んで東が住宅街、西が温泉場だった。由緒正しい寺院が昔からあって、そこの僧籍の学者さんが集めた本の保管場所として、図書館が成立したらしい。


 ――んだけどナゼか図書館は、住宅街じゃなくて温泉場のほうに建ってる。寺院が西側に集中してるから、かな?


 ちょっと山あいになる温泉場の坂道を登っていく。細い通りに甘味処や射的場を見つけながら、図書館までたどり着いた。


「おおお! ありがとうございます! こんなにキレイな状態で帰ってくるとは!」


 職員の方々に超感謝された。


 魔物は人間になりすまして本を持ち出し、それに気づいた職員さんがユーズナーカホカ村まで追っかけていって、あの騒ぎになったそうだよ。ちなみに追跡した職員さんは軽傷。




「あの、すみません。ここの記述に関連する本、ありませんか?」


 愛依さんが恐る恐る質問する。


 あの、魔族が盗んだ本の終わりのほうの一部分を指さしながら。


「ああ、これですか? これは‥‥‥‥『アルヘオ・マギアス』ですね。珍しい物にご興味をお持ちですね‥‥‥‥?」


 図書館員さんも意外そうだった。


「ありますが‥‥マトモに読めませんよ? 何せ古い言語で書かれていて‥‥翻訳もほとんどないですから」


 ひとり奥へ下がってから、年季の入った一冊の本を持ってきてくれた。表紙も分厚く、愛依さんが両手でやっと持てるような、厚みと大きさだった。


 ぬっくんが代わりに持って、庭のテーブルまで来たところで中身を開く。


 予想通りだったけど、本当に読めなかった。なんか何千年も前の文明の粘土板に刻んだような文字だったよ。――いやあ、あれ文字かな? 丸とか三角、四角とか、図形をそのまま使ったような文字だった。


「春さんは読める?」

「読めません」


 試しに私が訊いてみた。だよね~。春さんとかこっちの世界の人は、もう紘国語がスタンダードで、生まれてからずっとこれで読み書きしてるんだから。でも――――。




「‥‥‥‥読める人なら知ってます」


 え? 誰?


「姫様なら」




 ***




「ちょっと興味が湧いて、あの盗まれた本をパラパラしてたんだけど。最後のほうであの記述を見つけたの。『魔族に対抗するなら【アルヘオ・マギアス】が良い。失われてしまったが、いにしえの人々は古き言語の魔法【アルヘオ・マギアス】によって魔族と戦っていた』って」


 そう愛依さんが言っていて。【アルヘオ】って紘国語が浸透するまでこの世界で使われていた古代言語なんだって。


 それで唱える魔法が【古代語魔術(アルヘオ・マギアス)】。



「かつてこの世界に存在した言語であり、魔法です。紘国語が広まっていく内に徐々に姿を消していきました。今では各国の王家や一部の知識人が伝承するのみ」


 だそうです。春さんが曰く。


「姫様は王族のたしなみとして、この言語を履修はしていました。なので数種類は使えます。【古代語魔術(アルヘオ・マギアス)】を」


 え? その魔法っていつものと違うの?


「ええ。そのいつもの魔法は、詠唱も魔法名を言う程度で初級魔法である【ファイヤーボール】などは打ち出せますが。【古代語魔術(アルヘオ・マギアス)】は、超出力の攻撃魔法だったり、特殊効果を発現するものだったりするそうです。村でありましたよね? 広域障壁と物理防御」


 ふええ~。あれだったのか。


「現代でも使い手はいますよ? 使用条件はふたつ。この古代語を習得して詠唱するか、もうひとつはその言語を図形化した魔法陣を使用するか?」


 ぬっくんが反応したよ。


「お! 魔法陣。異世界っぽくていいね! それがあれば僕でも使えるかなあ?」


「ええ。一応理論上は。古代語の詠唱を正確に図形として落とし込んで、その単語を魔法陣に組み込めば、詠唱したのと同じ効果が見込めます」


「ほら。じゃあその魔法陣を作ろうよ」


「‥‥いえ。その魔法陣を作成するのが難しいのです。失われた技術ですから。あの同心円に言語を置いていくのですが、文法というか法則性があるようで、私たちが真似てみても上手くできなかったのが現状です」


 そっか。ぬっくん残念。


「それを書き記した紙やアイテムなどは希少ながら現存します。‥‥ですが経年劣化が進むと、肝心の魔法陣に汚れや破れ、描写のかすみが発生して、魔法が発動しなくなります。古代語を図形にして詠唱と同じ効果を得るというのは、手書きなどでは成立しません。凄まじく精密を要求されるシビアな事例なのです」


 ほええ。けっこう大変だああ~~。あ、でも確かに古代語って○、×、△とかの組み合わせみたいな文字だったし、それの派生形多いから。それを順番にいくつもの同心円に組み込んでいけば、その図形に魔力通すだけで古代語詠唱したみたいにはなりそう。


  私はあっちの世界のプリンターとかコピー機を思い出していた。魔法陣をスキャンして、正確精密にプリントアウトしたりコピーしたりしたら、魔法陣使いこなせないかな?


「そっか。でも愛依なら頭いいから。古代語とか使えたりして?」

「そうだぜ。コレ愛依が使いこなすフラグだ」


 でも、残念ながら愛依さんは、首をゆっくり横に振った。



「無理そうね。わたしの超記憶は『言語にして頭にしまいこんで、ずっと保存する』能力よ? ツヌ国の基地から逃げる時も、逃げ道を全部言語化してそれを憶えていたから逃げられたのよ。そもそもわたしが使う言語が紘国語じゃあ。この古代語読めないし、魔法は唱えられないよ? しかも魔法陣の図形は憶えられないし、覚えたとしても手書きじゃダメなんでしょう?」


「『中の人』のエイリア姫様から教わる、とか。その部分だけエイリア姫が詠唱するとかは?」



「恐らく無理かと。姫様と逢初さんがそんな都合よく入れ替われませんし、姫様が使える古代語魔術(アルヘオ・マギアス)は解読できた初歩的なもののみです。行使する魔法も本当に数種類。――――あ、このことはくれぐれもご内密に」


 春さんも大変だ。主の個人情報流出への対応。



「使うのはむずかしいみたいね? でもいいよ。こうして眺めてるだけでも面白いし、絨毯のデザイン集みたいだしね~~。ふふ」



 愛依さんはあくまでマイペースだったよ。その本をゆっくりじっくり見渡してた。


「しかしよくこんな田舎の図書館に、遺物となった魔導書がありましたね? 少しは訳そうとした形跡がありますが、これでは。‥‥‥‥さすがに」


「でも楽しいよ。わたし、読めない外国の本でも、眺めてるだけで楽しい♪」


「ふ~~ん。愛依ってそんな趣味あったんだ‥‥‥‥」




 まきっちはその辺りを散策。真面目な春さんは図書館で蔵書――何か役立ちそうな本のチェック。


 わたしとぬっくんは読書? をする愛依さんとテーブルを囲んで、気持ちいい風の中おしゃべりをしばし。



「ホテルでお弁当もらってくれば良かったね。でもまあいっか?」



 愛依さんが魔導書にひと通り目を通して気が済んだので、ユーズナーカホカのホテルに戻ることにしたよ。

 愛依さんが言う通り「昼食の代わりにお弁当作りますよ?」って出発時にホテルマンさんが声かけしてくれてたんだっけ。素直に作ってもらえば良かったね。


 もう日が高い。



 なかなかね。魔物や魔族が出て油断できない世界なんだけど、今日は愛依さんが楽しそうだったから良しとしよう。


 何しろ愛依さんは、ずっとエイリア姫の中で眠っていたからね。久しぶりに外に出てきたんだから、こんなお散歩したっていいじゃない。





 私も楽しかったし。





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