第二部 第33話 異世界にも図書館は存在した!①
「ゆめさんの水魔法。良かったです。やはりあなたは複数属性が、十分に使えますね」
魔族討伐のあとのステージ上。春さんに褒められた。うや~~い。
「おお! 助かったぜお嬢さん方! いいウデだな!」
「すごいや。ひめちゃん」
そして、警備やVIPのSPさんの人たちにも感謝されたよ。ふふ~。ぬっくんにも。
春さんから「ホテルの被害を最小限に。水魔法で」と指示があったから。火魔法の延焼防げたよ。
聞いたら、ごくたまに魔族が人間に化けて忍び込んでるんだって。だいたい何か目的があって。今回は、あの分厚い本を盗もうとしたって。
魔族、と聞いて泉さんが「行く先を変更しようかしら?」ってなんか難しい顔してた。え? 行き先?
その後は現場の収拾を手伝ったよ。
「‥‥どう? ‥‥わたしに痛いところを教えてくれる? だいじょうぶかな~?」
魔族が逃げる時に少なからず怪我人が出たみたい。町の子供とか。
それで愛依さんが(「えいっち」「ひめちゃん」と呼び合うハナシをしたんだけど、まだ恥ずかしい)救護のお手伝いをして、他の人は瓦礫の撤去とか片付けをしたよ。
愛依さんの治癒魔法は特別だった。さすが未来の小児科医。春さんによると、治癒魔法自体の腕前は私たち以上姫様未満なんだけど。
あっちの世界での医術やホスピタリティの基礎があるから、雑にぶあっとかけるのではなくて、原因の場所を特定してそこを重点的に治療するからスゴイんだってさ。
治療、と言えば「メンテ班3人組」もすごかったよ。治療じゃなくて修理だけどね。蝶番が曲がってうまく開かなくなったドアとか、5分で直してた。一体どうやってんの?
そして片付けが大方終わったその後。
やっと旅の一座にいた「メンテ班3人組」との再会シーン。
私と春さんはヤナーアッラーヤ村で逢ってるけど、他は違うからね。
「よっ! 仲谷に姫の沢。他は久しぶりだな」
「あ~しのこと忘れてない~~? 魔族とかダルいわもう~~」
「‥‥‥‥。ども」
うん。相変わらず三者三様だった。
そのまま3人組とみんなとで騒いで、部屋に戻って休んだよ。正直魔族のせいでリゾート気分は吹き飛んだかな。まあ災害みたいなもの、って春さんも言ってたから、ホテルが一番の被害者なんだけどね。
その夜「メンテ班3人組」が私たちの宿泊してる部屋まで遊びにきたよ。春さんと泉さんが七道さんと相談してた。本当はエイリア姫に話があったらしい。
3人ともまあまあ豪華な部屋に驚いてた。――まあ私も驚いてるんだけどね。泉さんの金銭感覚ガチのお嬢様だから。
それ以上に彼女がちゃんと、何かしらで稼いでいるからスゴイんだけども。
3人は「旅の一座」暮らしがけっこう気に入っているらしかった。色んな町に行ったし、毎日お祭りみたいだし、先々で興行が喜ばれるのもテンション上がるのだとか。
「私らラポルトでも裏方だからなあ。あ、ADも裏方だけどさ。兵器以外でモノ作って感謝されんのもいいもんだってなあ」
七道さんだけでなく、3人いい笑顔してたよ。
***
で、その翌日の朝イチです。
「ごめんね。異世界を自分の足で歩いてみたいのと、この本の内容に興味があって」
私、姫の沢ゆめとまきっちとぬっくん。
それに愛依さん、と春さん。
このメンバーでユーズナーカホカ村を出発していた。程よく開けた森の道を、5人でてくてく歩いていく。
事の発端は、昨日倒した魔族が持っていた本だよ。この世界の言語は、紘国出身の人がこの世界に渡ってきて紘国語を広めたから、この世界の書籍も紘国語で書かれている。
だから私たちにも普通に読めるんだけど。これを読んだ愛依さんが、その内容に興味を持った。
同時にこの本元あった図書館に返さなきゃいけないんで、ここのギルドに事情を話してクエストとして受注したんだよ。
もともと魔族が盗み出した時点で、察知した図書館から奪還のクエストが出ていたらしいし。
「春さん付き合わせちゃってごめんなさい」
「いえ。私は姫様の護衛が任務です。それは逢初さんの人格時でも同じです」
「そういえば、ラポルトの時も守ってくれてたんだよね?」
「いえ。守りきれたかどうかは。安全な未来に着地すると把握はしてはいましたが‥‥」
「なんか今、さらっと重要なコト言わなかった? ウチの空耳?」
「げふんげふん! 私が!? いえ全然! ‥‥そ‥‥それよりも大切な特別枠をその目的のために奪うことになってしまったのが‥‥」
またその話だ。春さんは義理堅い、というか真面目だなあ。。
「大丈夫よ春さん。私もう全然何とも1ミリも気にしてないから。ね?」
「そうですか。くどくてすみません。あ? あと! 逢初さんを守ったのはひとえに咲見さんのがんばりですから!」
「そうだったよね。ありがと。べ‥‥暖斗くん」
「いや~~。あの時は色々夢中でやってたからね‥‥‥‥」
なんだろ? 春さんが珍しく汗かいて慌ててるよ。
「それでね、この本にちょっと書いてあったんだけど」
愛依さんが興味を持った理由というのも。
魔族が盗んでいたこの本は、魔族の特徴や攻略方法、弱点なんかを記した本だった。魔族はまあ「知能がある魔物」って存在みたい。そういえば軍事国家カミヒラマは、その魔族の軍隊と戦争してるんだった。
魔族は人間への対抗で、こういった嫌がらせというか、魔族が有利になるような行動を大きくも小さくもするんだって。――確かにこういう書籍が失われれば、ダメージにはなるよね? でもそれだったら図書館燃やしたほうが早くない?
「そういうテロ行為をする時もありますが。今回はあの魔族の単独犯行みたいです。あまり大掛かりにやってしまうと図書館への出入りが厳重になったり、魔族も後々の仕事がしにくくなったりするので」
なるほど。
そして愛依さんは、この本にちょっとだけ紹介されていた「特殊な言語とその魔法」に興味があるそうだよ。
「紘国語とぜんぜん違うの。この世界にもともとあった言葉。古代語と、それを用いた古代語の魔法、みたいなの」




