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第二部 第32話 異世界にもスパリゾートは存在した!②





 ホテルの中庭。開放的な温泉街の夜に、聞き覚えのある音楽が。


 なんだろ? 私、この曲聴いたことあるんだけど? この「チャララ~~♪」って?




 チャララ~~♪

「ッヘイ! ッヘイ!」


 チャララ~~♪

「ッヘイ! ッヘイ!」



 ああ、踊り子さん達に男性のファンがついている。

 あっちの世界の時もいたんだよね。アイドルさんの熱心なファンが。



 ステージの上の踊り子さん達は、照明を浴びてみんな輝いてみえた。


 中でも7人の真ん中、センターで踊る子がひときわ目を引く。


 フラダンスみたいな、大きくウエストを出した衣裳で、その子も例外なく、腰のくびれとかわいいおへそが見えていた。



 チャララ~~♪

「ッヘイ! ッヘイ! ユヅキ! ッヘイ!」



 ファンの人たちの、応援の熱が上がっていくけど?


 今なんて? ユヅキとな?



 あれ? ‥‥‥‥あの曲、あのへそ。あのお顔は!?


 そして既視感バリバリのファンの方々! ‥‥あ、投げ銭飛んだ。



 そこには、可憐に踊りながらファンの男性一人ひとりに蠱惑的なウインクする多賀柚月(たがゆづき)さんと、舞台のそででAD的な働きをする七道(ななみち)さん網代(あじろ)さんがいた。



 前観た時よりパワーアップしてる!! アイドル性も追っかけさんのオタ芸も!!



「多賀さん!」


 思わず叫ぶと。


「‥‥‥‥うわ。なんであの娘がここに?」


 それに気がついて、ナゼか引き気味になるぬっくん。なぜなぜな~に?



 多賀さんは踊り終わってから、ファンの皆さんに囲まれていた。花束もらったりして。楽しそうだ。



 そして、春さんも泉さんも驚いてない。――ああ。コレ最初から予定通りなんだよ。


 わかった! この後合流するんだ! とふたりに言いに行こうとしたら。



「魔族だ!」



 短く響く男性の叫び声がした。




「きゃあああ!」

「魔族だって!?」

「侵入を許したのか!」

「皆さま、係の者の誘導に!」


 一瞬であたりが騒然となった。まわりで食事をしていた客には、ボディーガード的な人やホテルの警備の人が集まってくる。


 そっか。やっぱりこのホテルVIPが多いんだよ。


 春さんが私に駆け寄ってきた。


「ゆめさん、手伝ってください。我々で魔族を斬ります」


 ふええ!? 私?


「姫様は休眠中。他のラポルトメンバーは魔族とは初遭遇。大勢の人の前でスポ中コンビの能力は晒したくなく、折越さんの体術は魔族には不向きです。なので」


 なるほど!



 さすがというか、春さんは食事会場に剣を預けていて、丸腰の私が魔法で援護する流れになった。そんな打ち合わせをしていたら。


「グギャアアア!」


 警備の人に追われた魔族が中庭のほうに逃げてきたよ。VIPのSPさんが「アホか。こっちに来させんな」って舌打ちしてた。



 魔族はコウモリみたいな羽が生えていて、空を飛んでた。シルエットは人型。魔法を食らうたびに人間っぽい肌色が消えていって、深緑? 寒色系の皮膚が現われてきてるよ。


「ゆめさん。こっちです」


 春さんに腕を持たれてステージ下へ移動。魔族も彼女の読み通りステージへ降り立った。


 そこにはまだ踊り子7人とファンがいる。


「ああ、あんなところに!」


 追っ手の警備の人が叫ぶ! ステージ上は照明がたかれ明るかった。魔族は緑色のつるつるした皮膚で髪の毛とかはなく、爬虫類? って感じ? みんな悲鳴を上げて逃げ出したよ。


 魔族って人語を話すんだね‥‥。しかも体毛が無いくらいで普通に人型だから攻撃しづらいよ、私は。


「グギャア! おのれ!」


 その飛行能力でひとりステージに降り立った魔族は、踊り子の真ん中にいる女性、多賀さんにその腕を伸ばした。弱そうな相手を人質にでもするのか?


「ゆづ!」

「柚月!」


 舞台そでで七道さんと網代さんが、多賀さんの身を案じて叫んだ。




「‥‥‥‥。【ウォーターボール】」

「ぐへッ!」


 なんと多賀さんが魔法を詠唱していた。そっか。工作系の【スキル】だけじゃない。あれから普通の魔法もウデ上げたんだよ。


 魔物が不意打ちを食らってのけぞる。さらに。


「【ファイヤーボール】!」

「【ウインドボール】!」


 七道さんの火魔法と網代さんの風魔法も炸裂した。


「グギャアアア!」


 至近弾を喰らって、魔族はたたらを踏んだ。


 その一瞬に私が追撃を加える。――――つもりだったのに?


「ゆめさん! 水魔法で鎮火を!」

「へ?」


「ホテルが燃えます!」


 春さんの指示に一瞬ぽかんとなったけど、状況が飲み込めたよ。


【ウオーターボール】はいいんだよ。水だから。でもその後の【ファイヤーボール】と【ウインドボール】。魔族に命中したんだけど、風で巻き上がった炎が空中にいくつも渦巻いていた。


 そのまま見ている分にはキレイなんだけど。このままでは会場に飛び火しそうだよ。



 えっと。ミナトウ村でのボヤの消火を思い出す。


「‥‥‥‥【ウオーターシャワー】」

 成功だ。前にかざした手からジョウロみたいに水が出てきた。それを広範囲の水流にしたら、火はみるみる消えていった。




「ふっ!」

「グギャア!」


 その間に、春さんが猛然と魔族に斬りかかっていた。


 魔族はその手から伸びる爪で、春さんのブロードソードを受けていく。


 けど、右手だけ? よく見たら左手で何か四角い物を抱えながら戦っているよ?



 春さんが右に回り込んだ。荷物を抱えた敵の左手は何もできない。


 ザン!


 まず魔族の黒光りする羽が切り裂かれた。――そっか、飛べなくしたんだ。



「はあああ!」

 そのままギアを上げて、流れるような剣技を叩きこんでいった。


 もともと人間に見つかって逃げていた魔族。メンテ三人組の意外な不意打ちによって、至近弾をあびてもいた。


 その上、本気モードの春さんの剣戟を、しのぎ続けられるわけがない!


「グギャ!」


 火を消し終わった私の【ウオーターボール】が命中した後。


 ザンッ!!


 春さんの長剣が魔物を袈裟切りにしていた。



「‥‥‥‥おのれ!」



 後ずさる魔物が断末魔の中、光になって消えると同時に。


 ドスン!


 舞台の木製の床に、大き目魔石と、なにやら分厚い本が落ちてきていた。




「「ふ~~~~っ」」


「助かったわ。女剣士さん」

「強いね、君たち!」

 周囲から一斉に、安堵と感謝の声があがる。


「やるじゃね~か。姫の沢」

「‥‥‥‥。それに仲谷さん、普通に強い」

「あ~~。やっぱコッチの人だから?」


 メンテ三人組も、感心してくれた。


 私はあの、魔族が持っていた本を拾い上げた。おっきくて重い。図書館の百科事典みたいな重さだよ。


 あ。‥‥‥‥図書館でそんな本持ったことはなかったけど。たぶんそのくらいの重さと大きさだよ。特に汚損とかは無かった。魔族だから持ってた所がヌルヌルする、とかあるのかとも思ったけども。


 私が拾ったのは、ちょうど目に入ったから、っていうのと、魔族がどんな本読むのかな? って疑問が浮かんじゃったからだけど。――ちょっとページをめくってみる。



 題名。『魔物・魔族の性質と弱点』。‥‥‥‥。え? 魔族がこの本盗もうとしたのって?





 人間への、いやがらせ?





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